有紗は性獣⑦
翌日。帰りの新幹線の車内にて。窓側の席に座った俺は、車窓を眺めながらずっと昨日のことを考えていた。
家に帰るまでが旅行であるが、旅館を出て、草津を離れ、バスに乗り新幹線にこうして乗っていると、もうこの温泉旅行も終わりなのだと思わせられる。
行きと違って窓側の席に座ってよかった。昨日、互いに壊れたマリオネットのようにタカが外れながらセックスしたことが、どうしても頭から離れず、車窓を眺めていると荒れた心も少しは落ち着きを得る。隣りに座っている有紗は俺の左肩に頭を預けて眠っていた。
だが、有紗とのセックスは素晴らしいものだった。有紗と出会ってから、俺の人生は大きく変わった。つむぎが死んですぐの頃の俺からすると、今の目の前の現実は全く考えられないものだ。それもこれも、まだ一ヶ月も経ってない? いや、一ヶ月くらいは流石に経ったのか? もうよく分からないや。
有紗という素晴らしい女性を堪能することによって、俺は、つむぎという女性の素晴らしさまでも改めて知った。有紗とつむぎ、俺の人生の中で一番影響力の高い二人の女性は、俺には勿体ないくらいの素晴らしい女性でもあったのだ。
それでも、有紗とずっとこうしていられるだなんて思っていない。一ヶ月前、今みたいになるだなんて思っていなかったように、一ヶ月後、どうなっていようとおかしくない。
新幹線が東京駅に着いた。東京駅に着くまでの間、俺はずっと物思いに耽入り、有紗はずっと俺の左肩に頭を預けて眠っていた。それは新幹線を降り、最寄り駅に辿り着くまでの電車の中でも同じことだった。俺の左肩はずっと、有紗の頭の特等席となっていた。
最寄り駅までようやく帰ってくると、俺は有紗を起こして電車を出た。電車を降りてもまだ有紗は眠たそうで、ずっとぽやぽやしていた。まだ頭がハッキリしていないのだろう。「三色あんまんじゅう食べたい……」と言葉を漏らしていた。
改札を出てロータリーのベンチに座ると、ようやく有紗は頭が多少は起きたようだった。
「あれっ……もう帰ってきた」
有紗は腕を上に伸ばすと、大きな欠伸をした。そうすると、完全に頭が起きたようだった。
有紗はベンチから立ち上がると、座っている俺の顔を見下ろしながら言ってきた。
「このあと、どうする?」
「うーん、まぁ……」
正直言って疲れた。だから早く帰って休みたい。だけど、今の俺には、帰るところなんて……。俺はモジモジしながら考えた。だけどもう、正直に言うしかなさそうだった。
「有紗、あの……助けてほしい。実は俺、旅行初日の朝、お母さんと喧嘩しちゃって……。しかも、お母さんは俺が知らねぇ新しい彼氏を連れてきたんだよ。だから俺はそれが嫌で……それで……」
思い出しただけでも涙が溢れそうだった。お母さんとは喧嘩し、帰る家までも失った俺は、有紗に突き放されたら、もうどこにも行くところがないんだ。だから、お願い……。
すると有紗は、一度立ち上げた腰をもう一度ベンチへと降ろした。そして、俺の身体に自分の身体を密着させてきた。ありありとした有紗の温もりが、直に伝わってきた。
「そっか、分かった。じゃあ家に来なよ。一度来たこともあるじゃん。どこにも行くアテがないなら、私とずっと一緒にいよ? 私は、ずっと大翔の居場所だから」
有紗は真正面を見つめ続けながら、優しい口調で言ってきた。
「いいん、すか……」
「うん、勿論。これからずっと一緒に暮らそう」
有紗は俺の顔を優しい眼差しで見つめながら言ってきた。
俺は、何故だか分からないけど気づいたときには涙を溢していた。服の袖で涙を沢山拭ったが、俺の顔は拭い切れない涙たちでぐっしょりと濡れた。まるで俺の顔にだけ雨でも降っているみたいだったが、そんな俺を、有紗はクスクスと笑ってくれた。
俺は次の瞬間、そんな有紗の胸の中に飛び込んでいた。有紗は、そんな俺をぎゅっと抱き締めてくれると、頭も一緒に撫でてくれた。




