有紗は性獣⑤
露天風呂を上がった俺達は、浴衣を着た。食事が部屋に運ばれてくる時間まで後一時間ほどあったから、適当にテレビでも見ながらずっとどうでもいい話をしていた。
あの有紗先輩にチンコを握られた後だというのに、俺は自分でも気持ち悪く思えるほど冷静な心を持っていた。それは、有紗先輩とのお楽しみを約束したからなのか、それともしごかれ過ぎて頭が馬鹿になっているからか……どうだろうな。
有紗先輩は一緒にテレビを見ていると、ふと「膝枕してあげる」と言ってきた。
俺はその言葉に無意識的に、正座した有紗先輩の太ももに滑り込んでいた。有紗先輩に膝枕をされながら、他愛もない話をしたりもしながら、テレビを見ながら、時間を過ごした。
有紗先輩は、俺の頭をずっと撫で続けていた。時折優しく、時折乱雑に撫で続けられた俺は、まるで犬みたいなだなと自分でも思った。いや、有紗先輩のだったら犬にでもなっていいや。
そうこうしてると、夜の七時になった。夜ご飯が部屋に運ばれてくる時間だ。
七時ちょうど、夜ご飯が部屋まで運ばれてきた。そのラインナップとしては、誰もが想像出来るようなザ・旅館の夜ご飯といった感じで、焼き魚、味噌汁、煮物、漬物、そして白米。運ばれてきたそのメニューを見て、こんなにも健康的な食事は久しぶりだと俺は思った。いつもは明らかに健康を害しそうなもんばっかり食ってるから、余計に美味しそうに見えた。
俺達は、畳に座布団を敷き、ローテーブルを挟んでお互いの顔が見られる位置に座った。ローテーブルに広げられた豪華な夕食を目の前に俺達は「「いただきます!」」をした。
俺達は目の前の夕食にがっついた。互いに普段食べている量以上の夕食が出されていたが、そんなこと無関係だとばかりに俺達は夕食を素早く全て食べ終えた。
夕食が片付けられると、ゆったりとした濃密な時間が俺達にやってきた。
俺達は夕食を食べ終えると、すぐさま再度テレビ視聴に戻った。有紗先輩が正座をすると、俺はすぐさまその太ももの上に頭を乗せた。それは互いに無意識的なことだった。そうするにあたり、俺達の間に交わされた言葉は何一つ存在しない。
有紗先輩の膝枕を受けながらぼーっとテレビを見ていると、ふと思った。
今の俺達って、なんだか新婚の夫婦みたいだなぁ。……もし、結婚するってことがこんな感じのものだったとしたら、結婚って超最高なものじゃん。しようかな俺も、結婚。いや、誰と……? まさか有紗先輩とか? それも、いいな。
時間が緩慢になっていく。濃密な時間が流れている。有紗先輩の膝枕に、俺は眠気を覚えている。だけど、まだ眠らない。何故ならば、この後にはお楽しみが待っているから。
部屋の中には、テレビの音だけが響いていて、俺達の間に言葉はなんにもない。正直言って、こうしている今も俺の頭の中は有紗先輩とのお楽しみ……そう〝セックス〟のことでいっぱいだった。
それは有紗先輩も同じなのだろうと俺は思った。有紗先輩だって多分、そうなのだろう。じゃないと、ここまで会話が少ない理由が見つからない。
俺はとある言葉を待っている。そしてそれは、有紗先輩も同じだろう。俺達は、探り合いのような距離感になっていた。互いに、互いを傷つけたりしないよう配慮をしながらそれに向かって近づいている。そんなことを頭で分かっていながらも、俺は、やっぱり一歩を踏み出すのが怖いと感じた。
有紗先輩がさっき風呂で言ってきた言葉が脳裏をよぎる。『――大翔はすっごく紳士だなって改めて思ったの』。あぁ確かに、そうだ。俺は、紳士だ。そして、へたれでもあった。
俺は正直に思った。――有紗先輩を……いや、女の子を傷つけるのが、怖い。
だから俺は、有紗先輩の方からその言葉を待っていたのだ。有紗先輩もそうであると、分かりながらも。
「ねぇ、しよっか」
あぁ、そうだ。その言葉を待っていた。
その言葉に、俺は、自分でも驚くくらい弱々しい声で応えた。
「はいぃ……」
すると、有紗先輩は突然立ち上がった。膝枕されていた俺は、床に投げ出された。
有紗先輩はスタスタと歩いて行き、次の瞬間、パチンという音と共に部屋の明かりが消えた。
電気を消した有紗先輩がゆっくりと、俺の方へ戻ってくる。何故だろう。このときの有紗先輩は、凄く妖艶に見えた。
次の瞬間俺は、有紗先輩に抱きつかれた。ぎゅっと、頭が壊れるような良い匂いが俺の全身を包み込んだ。勿論俺は勃起をした。有紗先輩は、俺の耳元で囁いてきた。
「一生忘れられないセックスにしてあげる」




