有紗は性獣②
俺が最寄り駅までようやく辿り着いた頃には、時刻は朝の六時五十五分を迎えていた。有紗先輩との待ち合わせ時間まで五分残しての到着となった。
俺は全速力で来たため、もう体力が残っていなかった。今日はまだ一日始まったばかりだというのに、これからのスケジュールをこなせるか心配になるほど俺は疲れ果てていた。
俺は、駅の近くのベンチに座っている有紗先輩の姿を確認した。俺はそんな有紗先輩に近づくと、有紗先輩はスマホから顔を上げ俺の顔を見上げてきた。が、俺はそんな有紗先輩に挨拶する気力すらなく有紗先輩の隣りにすぐに座った。
「おはよう大翔。どうしたの? なんでそんなに疲れてるの?」
俺はごもっともな質問に、右手を挙げて応えるだけで何も言葉を出さなかった。未だに肩で息をしている。すると、そんな俺を見かねてか、有紗先輩が俺の顔を覗いてきた。
「すっごい疲れてる。でも……すっごく晴れやかでもあるよ」
その言葉に、俺は意識が回復し明瞭になる感覚を覚えた。これまで切れていた息が急に全回復したような気分になった。そして俺は実際に、急に息が整った。
「本当っすか?」
「あ、復活した。大丈夫? なにがあったの?」
「まぁ、俺は大丈夫っす。ちょっと急いで来たってだけなんで。っていうかそんなことより、有紗先輩の服、今日も可愛いっすね。めっちゃ似合ってますよ」
やっと肩での呼吸から脱した俺は、急に目に飛び込んできた有紗先輩の可愛らしいお洋服に、そう思わず言葉が漏れた。今日の有紗先輩は、ジーパンに、可愛らしい柄のブラウスを着ていた。水族館デートの時のワンピース姿もよかったが、今日のより軽やかで動きやすいような服装も凄く似合っていた。
「ふふ、ありがとう。そう褒めてくれるのは大翔だけだよ」
「そうすか? みんな言いたいけど言えずにいるだけじゃないんすか?」
「まぁ確かに、そうかもしれないけど、大抵の人間は私を褒めるとき大体〝顔〟を褒めてくるからね。でも私は、顔よりもお洋服とかアクセサリーとか、そういうセンスの部分を褒めてほしいかな。だから、そこを褒めてくれる大翔は大好き」
大好き。大好きだってさ、有紗先輩が俺のことを……。俺は一瞬心肺停止したのかと思うほど、一瞬全ての動作が停止した。頭が真っ白になり、俺はポカンと口を開けることしかできなくなった。
「じゃあ行こうか、新幹線に乗り遅れたらマズいからね」
「あい……」
俺はポカンと開いた口から無意識的にそう言葉を溢すと、ベンチを立ち、駅に向かって歩き始めた有紗先輩の後ろを無意識的について行った。
俺達は最寄り駅から電車に乗り、東京駅まで行った。そこから新幹線に乗り、草津温泉を目指した。途中、バスにも乗ると有紗先輩は言っていた。色々と乗り継がないと行けないらしい。
草津温泉に向かうその新幹線内で、俺は有紗先輩と硬いアイスを食べたり、新幹線に乗る前東京駅で買った駅弁を食べたりして贅沢なひとときを過ごした。
こんなにも贅沢で、幸せで、いいのだろうか。俺は素直にそう思ったが、有紗先輩にアイスをあーんして食べさせてもらうとそんな思考は軽く吹き飛んだ。
一通り食事を済ませ、お互いに車窓を眺めたりぼーっとしたりしてリラックスしていた。俺は、ぼーっとしながらスマホを眺めていた。延々水着の女の子の写真を見ることに飽きた俺は、ニュースアプリをふと開いた。普段ならばニュースなんて見なかったが、今日はなんだか暇で開いた。
そこで、俺は見つけてしまった。
俺は、自分の目に飛び込んできたとあるニュースを見て、眠気で虚ろになっていた目が一瞬にして醒めてしまった。
俺は思わず、窓側の席に座っている有紗先輩の方に軽く視線をやってしまった。何故ならば、それは有紗先輩に関するニュースだったからだ。有紗先輩は、壁にもたれかかりながら眠っていた。有紗先輩の寝顔は凄く無防備で可愛すぎたが、そんな光景を差し置いて、ニュースの驚きは勝っていた。
でも別にその内容自体は特別新しいものではなく、ただ、うちの高校で大友優也という青年が死んだというだけのニュースだった。だが、実際にいざこうして全国ニュースになると、事の重大さが感じ取れて、俺は少し気分が悪くなった。
証拠はないものの、俺は未だにやはり優也を殺した犯人は有紗先輩だと思っている。優也は誰かの恨みを買うような人間ではない。ただ一人、有紗先輩を除いて。
俺は改めて有紗先輩の方を見た。有紗先輩は、未だにぐっすり眠っていて、その寝顔はやっぱりなんとも可愛らしいものだった。
こんなにも可愛らしい寝顔を見てしまったら、人の一人くらい殺していたとしても、別にいいかなと俺は思った。その考えが間違っていたとしても、別にいい。なんせ俺は、生まれたときから間違ってんだ。




