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有紗は性獣  作者: 柊蓮
第二章――
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淫魔と自衛隊⑦

 その日以降、優也が学校に来ることはなかった。


 俺はそれが最初自分のせいだと思い、自分のことを強く責めた。でもそんなこと考えていても人生つまらねぇし、今日の時点で優也が学校に来なくなってからまだ一週間ほどだったが、まぁでも学校を一週間休むこと自体は別になんらおかしいことでもないと思った。


 ひとつ心配なことがあるなら、優也は俺とは違って学校生活に真面目で学校を休むことなど殆どない奴だったから、風邪引いてるわけでもないだろうに一週間も休むことは異例だということだ。まぁでも、どんな奴だって一週間くらい休みたい時もあるだろ。


 この一週間が、今後の俺達にとって必要な時間だったと言えればいいなぁと、俺は思った。


 優也の居ない学校はとても無味乾燥としたもので、正直言ってつまらなかった。それだけ平穏ではあったが、平穏ってつまらないんだなと知った。


 それは今日も、今日という日も、同じだった――


 放課後、いつも通り一人でそそくさと帰ろうとしていた俺は、教室の外が何やら騒がしいことに教室の中にいながら気がついた。


 でもたまに、こういうことはある。階段の近くで何やら大勢で盛り上がり、側を通るのが面倒臭いあの嫌な時間。どうやら今もそれらしい。俺は溜息をつきながら椅子から立ち上がると、廊下に出た。予見通り、廊下と階段近くには大勢の生徒がいた。


 俺はその人混みの中に入り、階段までの最短ルートを掻き分ける。


「ちょっと通るからどいて」


 だが誰も何もどいてくれない。


「ちょっと……通るから!」 


 やっぱり誰もどいてくれない。そもそも誰にも俺の声など届いていないようだった。


 なんだよ……皆何に注目してるってんだよ。俺は内心苛つきながら大勢の視線が向けられている方向を向いた。そこにはうちの担任の男の先生がいた。コイツがここまで注目されることなんてあったか? 俺は人混みを掻き分けて先生の方へと、進む。


 そして最前ほどまで近づくと、そうしてやっと先生が何かを大声で言っていることに気がついた。俺は生徒達の喧騒の中、意識して先生の言葉に耳を傾けた。


「現在安全確認中だから! 皆は一度教室に戻りなさい! 何があったのかは先生も詳しくは分からないが、とにかく一度自分の教室に戻ってくれ!」


 何がきっかけかは分からないが、生徒達は騒然としていて、先生のその言葉など殆ど誰にも届いていなかった。


 こういうとき、どこからともなく〝真実〟を引っ張ってくる奴がいる。噂話ではなく最初から真実を掘り当て広める奴が。俺の学年の場合は、それはうちのクラスから現れた。


「おい皆! 学校の裏手で死体が見つかったらしいぞ!」


 この大きな喧騒の中――死体――その言葉だけは誰もの耳に明瞭に届いた。


 その言葉がその場にいる大勢の生徒に届いた途端、大きな喧騒は更に大きなざわめきとなり、鼓膜が破れるんじゃないかというほどの大声量に変わった。こうなればもう誰が何を言っても生徒達は『学校の裏手から死体が出た』ということを証拠もなしに真実としてしまう。そして俺も実際、それが真実ではないかと思う心があった。


 それは無闇に噂話を信じたからではない。何故だか頭の中にそういうことをしかねない存在が一人思い浮かんでいるからだ。そしてそれはもちろん、有紗先輩だった。


 俺は、その大喧騒に飲み込まれながらも、どこか頭は冷静に、そのようなことを思っていた。 喧騒は止まなかったが、なんとか大勢の先生達が生徒達を一度各々の教室に戻した。


 俺も自分の教室に戻された。教壇に立った担任は、汗だくの表情を見せながら、俺達に向かって神妙な面持ちで話し始めた。


「あのなぁ……聞きたくない人も勿論いると思うんだが……これはちゃんと言わなきゃならんことなんだ。その……皆さっき『学校の裏手で死体が見つかった』って言ってただろ? 俺はそんなことあるはずがないって思ったんだ。だから皆を教室に戻した後、すぐさま学校の裏手に行ったよ」 


 そこまで言えば、事の顛末は誰もが分かる。


「行ったらさ、そこに……ちゃんと死体があった。しかも、優也のものが……」


 教室は女子の悲鳴と言葉にならない声で埋め尽くされた。


 俺は心臓を穿たれたみたいに痛みを感じた。予想もしていなかった顛末に、俺は呼吸が苦しくなった。


 優也、優也、優也……なんで優也が……。絶対に俺のせいだ。俺が有紗先輩になんか近づくのが悪いんだ。全部……全部……俺のせいだ……。


 確証はないものの、俺の頭の中では完璧に有紗先輩が犯人だった。動機は、俺との関係を邪魔したからで、有紗先輩は、目的の為なら人も殺すんだ……。


 俺は強烈な罪悪感と吐き気に襲われた。俺は俯いて、皆から苦悶の表情を隠し、なんとか吐いてしまわないように喉を抑えた。


 俺は有紗先輩のことが怖くなりはじめていた。自分が犯した過ちの大きさに、殺されそうになっていた。

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