淫魔と自衛隊④
俺は気がつくとシャワーを浴びていた。有紗先輩の家で。
ぼーっとしていた俺は、今自分が有紗先輩の家の浴室でシャワーを浴びていることに現実感を感じなかった。俺は、最寄り駅からここまでのことを軽く振り返る。いや、ここに辿り着くまでの記憶というのが全くなかった。
有紗先輩の家は二階建ての綺麗なアパートで、高校生の一人暮らしにしてはとても良い生活をしていると言えた。今俺の目の前にあるシャンプー、リンス、ボディソープ、どれもが普通のスーパーでは売っていないような高いものだ。
「うわぁ……めっちゃ良い匂い……」
シャンプーを手に出した俺は、まさに有紗先輩そのものの匂いが手の中にあることに、思わず言葉が漏れた。そして頭を洗うと、リンスを出す。リンスも勿論有紗先輩の匂い。リンスを洗い流すと、ボディソープで身体を洗う。ボディソープも勿論、有紗先輩の匂い……。
気がついた時には俺は勃起していた。それが有紗先輩の匂いを一身に感じたからなのか、それともこれからのお楽しみを想像してそうなったのかは分からないが、こんなに痛みを感じるほどの勃起は久しぶりだった。
バスタオルで全身を拭いて脱衣所で服を着た俺は、有紗先輩の待っている寝室へと向かった。 寝室のドアの前に立った俺は、寝室のドアを開けるのを躊躇った。
このドアを開くと、俺の人生が変わってしまう。それが良いことだとしても悪いことだとしても、変わることは怖い――。普段であればそう考える俺だったが、今回ばかりは一瞬躊躇っただけですぐさま目の前のドアを開けた。
有紗先輩は、ベッドの上で、下着姿で俺を待っていた。
有紗先輩の、薄いピンク色の上下揃った下着姿が俺の目に飛び込んできた。俺の興奮は最高潮に達した。有紗先輩はベッドの上で寝っ転がり、俺の方を見つめていた。
ベッドの上の有紗先輩はクネクネと身体をよじらせる。時に優しく、時に激しく身体をよじらせる有紗先輩に、ベッドの上のシーツや掛け布団などが大きく乱れ、しまいには床に落ちた。
部屋の電気はもう既に消されていたが、月光によって仄かに部屋の中は明るい。俺は部屋の中に足を踏み入れ、そしてドアを閉めると、下着姿の有紗先輩と二人っきりの密室が完成した。
「待ってたよ~」
「ふふっ」
あまりにも刺激の強すぎる光景に気持ち悪い声が出てしまった。
俺ははやる気持ちをなんとか抑えながら、ゆっくりと、ゆっくりと有紗先輩の待つベッドへと近づく。そうして俺はベッドの縁に座ると、有紗先輩は横たわっている状態の身体を起こした。下着姿の有紗先輩との距離が、鼻先ほどになる。
有紗先輩ってこんなに胸大きかったっけ……。こんなに、イイ身体だったんだな……。
服によって隠されていたその豊かな身体に見入っていると、有紗先輩に顎を撫でられた。
「じゃあ、脱ごっか」
「は、はいぃ……」
今にも脳味噌が溶け出しそうだ。俺は気づいたら有紗先輩に服を全部剥がされていた。俺も同じく下着だけとなった。こうなると、さっきまでちょっと抱いていた、有紗先輩に下着姿を見られることが恥ずかしいとかそういう気持ちはもう全く思わない。
そんな些細な気持ちが軽く吹き飛ぶほどの緊張と衝撃に、俺は見舞われていた。
有紗先輩はベッドにバタンと倒れた。それを見ていた俺も、有紗先輩に催促されるがままに同じようにベッドにバタンと倒れた。有紗先輩のベッドで、下着姿の有紗先輩と、寝ている。
「勃ってるの隠さなくていいよ。どうせこれから下着だって脱ぐんだから」
そう言われてより勃起が強まった。
「どう? 私の身体。私はこんな自分が当たり前だから、これが普通だって思うけど、私ってイイ身体なのかな」
「今すぐにでも貪りたいくらい最高な身体ですよ」
「何事も焦らないことが大切ですよー」
有紗先輩と俺は、天井を見上げながら、ぼーっとしながら、そんな会話を重ねる。
有紗先輩に、手を握られた。有紗先輩の右手と俺の左手が触れ合う。有紗先輩は俺の左手をぎゅっと握る。そして、どこかへと俺の左手を連れていく。
「……っ!」
俺は、有紗先輩の胸を触っていた。正確には、有紗先輩が自分の胸を俺に触らせていた。
俺は動悸が激しくなった。全身が苦しくて苦しくて苦しくて堪らなくなった。有紗先輩は自分の谷間の中に俺の左手を差し込んでいった。俺は思わず有紗先輩を凝視した。
「ごめんね」
すると有紗先輩は、天井を虚ろな目で見つめながら、少し悲しそうな声で言ってきた。
「な、な、な、何がです?」
「私が、普通の女の子じゃなくて、ごめんね……」
俺は混乱した。そう有紗先輩が呟いたことが何か俺のせいなのかと思った。だが、そうではないようだった。
「私が普通の女の子だったら、このまま大翔君とセックスして、久しぶりに心が満たされながら気持ち良く眠れただろうね。でも……それはどうも叶いそうにないんだ」
「ど、ど、どういうことですか?」
「自衛隊が、来る」
俺は刹那的に全てを察知した。
あぁそうか、ここは夢の中なんだ。
俺は昂ぶっていた気持ちが心底冷えた。そうして我を取り戻した。これから来る展開が全て読めてしまったからだ。
すると有紗先輩が俺の顔に自分の顔を近づけてきた。有紗先輩の鼻先と俺の鼻先が当たった。有紗先輩の吐息が俺の顔にかかる。とても良い匂いだった。有紗先輩は息を荒くさせていた。 次の瞬間、俺は有紗先輩にベロキスされた。
そして次の瞬間、自衛隊のヘリと思われる駆動音がアパートの中にいる俺達の耳に届いた。その音はどんどん急接近してくる。だが俺達のベロキスは終わらない。
自衛隊のヘリがアパートの真上にまで辿り着いたらしい。ヘリから降下してくる自衛隊員達の声までもが俺達の耳に届いてくる。だが、俺達のベロキスはまだまだ続く。
自衛隊にアパートを包囲されたことが音で分かった。目的は勿論有紗先輩だろう。淫魔を殺しに自衛隊員達はここまで来たのだ。だがそんなこと関係ないと言わんばかりに、俺達のベロキスの熱は、このとき最高潮に達していた。
銃声が聞こえると同時、部屋の窓ガラスが大きな音を立てながら破裂した。
俺達に逃げ場はない。俺は水族館にて一度死んでいるからもう死ぬことなど怖くはないのだが、有紗先輩はあの時、自衛隊に対して徹底抗戦をし、反撃している。有紗先輩は、今回も淫魔に変身して自衛隊をまた反撃するのだろうか。
すると、銃撃によって割られた窓ガラスの穴から、何か物が投げ入れられてきた。俺は思わず有紗先輩から唇を外してベロキスを止めてその物を見ると、それはグレネードだった。
「あ――」
駄目だ、爆発四散して死ぬ――。
「大翔君、まだ終わってないよ」
俺は有紗先輩に再度唇を奪われた。こんな状況になっても、俺達のベロキスは止まらなかった。
バーン! という大きな爆発音と共に、眩い光に俺達は包み込まれた。世界が一瞬にして真っ白になり、世界の輪郭が一瞬で消えた。痛みを感じる時間すらも、俺達にはなかった。
チュンチュン、チュン。チュンチュンチュン。
それが鳥のさえずりであることは無意識的に分かった。
「……んハッ!」
俺は勢いよく飛び起きた。
大量の汗が身体に纏わりつき、気持ちが悪い。まるで悪夢でも見ていたかのような目醒めだ。呼吸が荒く、息が苦しい。まるで水の中にいたみたいだ。俺は呼吸を整え意識をハッキリとさせ、周囲を見渡す。どうやら俺は、自分の家の自分のベッドの上で目を醒ましたようだった。
カーテンの隙間から入り込んでくる明かりは、月明かりではなく陽光だ……。外はもうとっくに朝を迎えていた。
少し事情が飲み込めてきて、一息ついた俺は、頭を搔きむしりながら思わず呟いた。
「なんだやっぱり夢か…………どこからが……?」




