207 報告会
結婚式が終わった夜遅く、リジェンダたちとの話し合いが始まった。
リューナはもう遅い時間だからとホノーラとカイルの家族たちに連れられて家へ帰っていった。フォスターとジーニェルは片付けがあるからという名目で神殿に残っている。
「さて、何から話そうか……」
リジェンダが呟く。
部屋にはリジェンダ、マイヤーフ、ファイスール、テレクエル、ティリューダ、ソレム、ジーニェル、フォスター、それにビスタークの霊魂がいる。大所帯だ。この場にいない者はリューナが神の子だと知らないか、知らない者が不審に思わないようにその相手をしている。
「よし、さっき転移石の話をしたから空の都の話からにしよう」
リジェンダがそう決めると周りは黙って頷いた。
「ええと、転移石が一度増えた話はしたよね?」
「はい」
「例の半島に調査隊が出発した後すぐは石の降臨量が増えていたんだ。向こうの港町の辺りまでは順調だったらしい」
例の半島、とは操られている神衛兵たちの町がある半島のことだ。リジェンダを始めとした水の都の面々の表情が深刻そうである。
「……通信石の返信が来なくなったそうだ」
皆、一斉に息を呑んだ。
「と、いうことは……?」
「あの神衛兵たちのように自我を失ったか、最悪……」
殺されているかもしれない。リジェンダは言葉を濁したが、その場にいた全員がそう考えた。
『空の都の奴らは何してんだよ。そうなることも想定してなかったのか?』
ビスタークがイライラした声で突っ込んだ。いつものように鉢巻きは額から外して皆が触れられるようにしている。
「二十人程の神衛兵と神官の集団で行ったと聞いている。忘却石も持っていたらしいし、警戒はしていたと思うよ」
『そんな大勢で行ったから目立ったんだろうが』
「まあまあ、今さら言っても仕方ないじゃろ」
ソレムがビスタークを宥める。
「そういうわけで、空の都の神官は忘却石を求めに忘却神の町へ向かっているそうだ。元々神殿にあった石だけでは到底足りないと」
『死んでいなければ必要だろうな』
「……必要な状態のことを祈るよ」
リジェンダはビスタークの言葉に重い声で返した。
「空の都の人たちだけじゃなくてー、向かった先の町の人全員がそんな状態だったらー、すごいいっぱい必要だよねー」
ファイスールがいつもの間延びした喋り方で空気を軽くする。
「そうだね。ただ、一度行ってしまえば、空の都だけあって転移石を持っているだろうから」
「石が出る度に往復すればいいってことだね」
テレクエルが頷いた後、フォスターが質問する。
「港町だけは無事で、他の町はザイス達の支配下にあるってことでしょうか?」
「おそらくね。港町を支配下に置かなかったのは目立ちたくなかったからかもしれないね」
「以前そう言ってましたからね」
「しかし今まで水面下で進めていたことを我々に知られてしまった。これからはなりふり構わなくなることも考えられる」
「そうですね……」
シュペーゼの遺体を庇い必死な表情をしていたザイステルを思い出す。生き返らせることは出来ないのに、これからどうするつもりなのだろうか。存在しない蘇生石を求めて命の都に攻撃をしかけるつもりだろうか。
「次。闇の都からの報告だ」
「はい」
「破壊神の神殿はもぬけの殻だったそうだ」
「そうですか。あいつらがいなくて良かった」
「転移石の線が書かれていたので消したそうだよ」
『もう、そこは神殿として使えねえだろうがな』
「そうだね。場所を秘密にしないとならないからね」
リジェンダが頷くとビスタークは続けて訊いた。
『あいつらには言ったのか?』
「もちろん。キナノス達には報告したよ。しかし彼らが神殿に向かったところで何か出来るわけでもないしね。それに相当辺鄙なところみたいだし」
『山岳地帯にあるとか言ってたな』
「闇の都の調査隊もかなり大変だったみたいだよ。都から一か月以上かけて行ったそうだ」
『それを考えると、ストロワ達はよく逃げ出せたな……』
「ストロワだけが知っている秘密の地下通路があったそうだ。キナノス達も逃げるときに初めて知ったとか。そこから小舟に乗って川下りをして途中で別れたそうだよ。キナノスだけは小舟を使わず山の中を走ったらしいが。調査隊も帰りは持ち込んだ小舟を使うらしい」
『なるほどな。キナノスが自分を囮にしたようなことを言ってたのはそうやったのか』
そういえばそんな話をしていたな、とフォスターが思っていると、リジェンダが重要な情報を出してきた。
「そのストロワだが、フィルバルネス半島で目撃情報があったそうだ。十数年前だが」
「! やっぱり炎の都の方ですか!」
リューナが輝星石で感じた方向と同じである。
「情報をくれた人の話だと……赤ちゃんの顔を見ようと思ったら、ただの木の棒に服を着せていただけで、ものすごく不気味に思ったから覚えていたらしいよ」
「……」
事情を知らなければ確かに気味が悪いだろう。真面目な話をしているので反応に困る。ビスタークの過去を見たときにそのあたりは目に入っていなかった。人形と聞いていたのでぬいぐるみのようなものを想像していたが、まあそんな辺鄙な場所で急に人形を三つも調達出来ないよな、などとフォスターが考えている間にリジェンダとビスタークが話を進める。
『半島のどの辺だ?』
「港町だよ。炎の都では目撃情報はなかったそうだ」
『じゃあその間を探す感じか』
「リューナに輝星石を持ってもらいながら探すしかないだろうね」
フォスターは頷いたが心残りもあった。
「……でも、まだ命の都で気になることもあるんですよね」
『あの幽霊だろ』
「うん。あれからどうなってるのか教えてもらってないんだ」
「ああ、例の奥さんの幽霊か」
ザイステルの殺された妻、シュペーゼのことである。
「はい。何か聞いてますか?」
「理力を増やす訓練をしているそうだよ」
「理力を?」
「そう。理力が多いほど人に認識されやすくなるからね。逆に少ないと悪霊になりやすい」
『……』
ビスタークは何か言いたげであった。鉢巻きなので表情などはわからないが、思考の揺らぐような感覚が触れている手から伝わってくる。
レリアが「理力でなんとかなっている」と言っていたことを思い出したのか、それともカイルに理力を増やすため実験されていることを考えて嫌な気持ちになっているのか。フォスターはどちらもありえるな、と思っていた。
「奥さんの話、僕たち聞いてないよー」
「そりゃそうだ。お前たちはまだ見習いだし、命の都の人間でもないんだから」
「ちぇー。同じ場所にいるんだから、遠くにいる母さんより先に教えてくれたっていいのにー」
「僕らは部外者ってことだね」
ファイスールが母親に文句を言うとテレクエルが肩をすくめた。
「僕のほうも提案した治療方法が採用されたかどうか知らされてないし」
「そんなことしてたんだ」
「まあ、臨床試験とかしないとならないから時間かかるとは思ってるけど」
「その話今関係ないよね」
テレクエルとフォスターが会話していると眉間に皺を寄せてリジェンダが突っ込みを入れた。
「全然関係ないわけじゃないんだけどな」
ぼそっとテレクエルが呟く。フォスターは少し気になったが、まあ今はその話をするときではない、と思い直した。
「ええと、つまり理力が増えれば幽霊の姿が見えるようになるかもしれないんですね?」
「そういうことだ。うまくいけばザイステルを説得出来るんじゃないかってね。まあ彼の罪が消えるわけではないが、有力な情報源になる」
「でも、遺体はもう命の都には無いし、転移石の線は消したし、また来るでしょうか?」
「『蘇生石』を求めているのだろう? だったら今すぐではないにしろ、絶対来るさ。『拠点』が全て無くなったとは限らないし」
「蘇生石」という神の石は大昔はあったが今は存在していないと命の大神官ウィタムが言っていた。ザイステルにもそう伝えたが聞き入れなかった。「妻を生き返らせたい」という叶わない目的を果たすため、無い物を求めて命の都に来ることは十分に考えられるが、それがいつかはわからない。
「さっきも言ったが、こちらにバレたことで焦って何か仕掛けてくる可能性もある。リューナの周りの警備を固めてもらうよう向こうには言っておいた。みんなも気を引き締めてくれ」
真面目な表情でリジェンダが言うと、皆無言で頷いた。
出来るだけ読み返して矛盾が無いようにしているつもりなのですが、見落としがありそうで怖い……。
もし何か矛盾点を発見したらマシュマロやSNSでこっそり教えてもらえるとありがたいです。
(伏線でわざとそうしている可能性もあるのでこっそりとお願いしたい)
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