206 食事会
前水の大神官マイヤーフ、水の大神官リジェンダ、その夫マーカム、その娘ティリューダ、その婚約者ダスタムの五名が水の都からやって来た。コーシェルとトヴィカの新婚夫妻が転移石で水の都まで迎えに行ったのだ。
前回の結婚式に参加出来なかったダスタムは後からとても参加したかったとこぼしていたらしく、今回はついてくることになったそうだ。
やって来てから一刻半後の夜。二回目の結婚式が始まった。フォスター達家族は給仕である。パージェの見立てでフォスターと両親は格調高い店の給仕のような服を身にまとっていた。
リューナは目が見えないこともありこの仕事は出来ないため招待客として席に座っている。こちらもパージェの見立てで前の結婚式とは違う紺色のドレスを着ており、髪の毛は上げて丸めている。普段はしていない耳飾りなどのアクセサリーも身に着け化粧もしており、とても大人っぽく見えた。
今回は丸いテーブル席ではなく、いつもの神殿の食堂の長机が皆の席だ。上座に新郎新婦が座っており、近くには社会的地位のある親族がいる。リューナは神の子であるもののそれは秘密であるため一番遠い下座にいる。対面に座っているのはカイルだ。今回はカイル達家族も招かれている。パージェは皆の着付けや化粧も手伝っていたため、一番遅く着席した。その間はカイルやその父クワイン、そしてリューナが子ども達の面倒をみていた。
「リューナ姉ちゃんきれーい!」
「きれー!」
「そう? ありがとう。パージェさんのおかげだね」
「いやいやー、元が良いからだよー。ねー、カイル?」
パージェはカイルに話を振った。その目は息子の恋をからかっているようにも見えた。
「え? えっと……あの……この前も思ってたけど……その……すごく! ……綺麗、だと思うよ!」
カイルの声は小さくなったり大きくなったりでとても辿々しかったが、リューナは少し頬を赤くしたので好意は伝わったようだ。
「あ、ありがとう……」
その様子を配膳しながら見ていたフォスターは「良く言えたな、カイル」と微笑ましく思いながらも、以前も感じた妹が独り立ちしていくような寂しさも感じていた。
ジーニェルもその様子を「カイルに愛娘を取られる」と胸がかきむしられるような思いをしながら見ていた。
白いアスパラガスに卵黄とバターのソースをかけた前菜、透き通ったコンソメスープ、干し鱈と茹で卵と芋などが入ったサラダ、弱火でじっくりと長い時間をかけて火を通した骨付き豚塊肉をそれぞれのペースに合わせて順次配膳していく。あまり高級なものではなく、ちょっと贅沢程度の料理である。しれっとリューナの分が倍量になっているが、皆暗黙の了解としてくれている。
酒類の提供も適宜行なっている。フォスターが水の都からの客人たちに酒を注いでいると、新郎新婦のそばにいるマイヤーフからこんな言葉が聞こえてきた。
「次はティリューダたちの結婚式だな」
大変やる気のようだ。大伯父という立場であるが、リジェンダの両親は既に亡くなっているのでこの一族を仕切っているのはマイヤーフらしい。
「まだ私の予定を押さえられる時期をタトジャに確認中ですから」
リジェンダが興奮気味のマイヤーフを宥めている。
「そこが決まらないと友人に案内も出せませんから」
ティリューダが続く。
「俺はまだ覚悟が決まって無いんだよな……」
ダスタムがマイヤーフに聞こえないように小声で呟いた。都の大神官の一族から嫁をもらうとなると確かに覚悟が必要そうである。
フォスターが話に聞き耳を立てているとファイスールから説明があった。
「僕たちにとっても大伯父さまはお祖父さまみたいなものなんだよー。家も隣だしー」
「養子に入れって言われるんだよね。マフティロおじさんのせいで。まあもしそうなっても姓は変わらないけどさ」
ファイスールたちの母方祖父母、つまりリジェンダの両親は既に流行り病と喉の病気で亡くなっているらしい。テレクエルは何も言わなかったがそれで医療を学んでいるのかもしれないとフォスターは思った。マフティロのせいで、というのは一人っ子にもかかわらずニアタに惚れて家を出て婿養子になったことを言っているのである。
「養子ならコーシェルやセレインちゃんやウォルシフに言えばいーじゃんねー」
「そうだね。実の孫で溺愛されてるんだし」
それを聞いてセレインが反論する。
「あたしはこの町の医者になるから」
セレインがそう言うと、ウォルシフに皆の目線が向く。コーシェルは新郎として端に座っているので、おそらくこの会話は聞こえていない。
「え、俺? 俺いなくなったら、またこの町神官不足になっちゃうだろ? 兄貴も大神官になるんだし無理だと思うよ」
ウォルシフが慌てて言い訳をすると、ファイスールがそそのかす。
「ウォルシフはおよめさん探すのが楽になると思うよー」
「う……それはちょっと魅力的だな……」
「転移石が気軽に手に入ればー、こっちに来る気になるー?」
「まあ、それなら考えなくもないかな」
「なら、もっとたくさん手に入れないと! 」
少し離れた席にいるマイヤーフがちょうど孫たちの話を聞いていたため、興奮して話に割り込んできた。
「お、お祖父さま!」
「そんなにたくさん手に入るものでもないでしょうに」
たじろぐウォルシフをよそにセレインが冷静に突っ込む。
「転移石は無理かもしれないが、複製石なら現実的だろう?」
「まあ、また降臨量が減って元に戻ったみたいですしね」
リジェンダが意味ありげなことを口にした。フォスターと目を合わせ、頷いている。何かあったのだろう。この後話をする予定である。
「馴染みの業者だけでなくあちこちの石屋に掛け合ってかき集めないと! ……まてよ、人を雇って石神の町に直接仕入れに行けば……」
マイヤーフはお構いなしにぶつぶつと石を手に入れるための計画を呟いている。
「まあー、転移石があれば便利だもんねー」
「旅の楽しみが減っちゃうけどね」
「そうだよなあ。途中の道程も楽しいし」
「でもー、砂漠越えはもうこりごりだよー」
「それは母さんに泳神の町まで迎えに来てもらえばいいし」
はとこ同士喋る中、セレインが提案する。
「お祖父さまには複製石たくさん買ってもらって、転移石にしてフォスターに貸しておけば? あたしたちは別に急がないから、用事が終わったら返してもらえばいいんだし」
「今はフォスターから貸してもらってる立場だし、お返しとしてもいいんじゃない?」
「えっ?」
給仕をしているフォスターは姉弟の突然の提案に驚く。
「次は炎の都のほうに行くんだろ?」
「まあ、すぐにじゃないと思うけど」
あのザイステルの妻シュペーゼの霊からの聞き込みがどうなっているか、強くなるための訓練など、命の都での用事が終わったとは言い難い。
「まあ、そんなにすぐには手に入らないと思うし、可能性の話よ」
「……俺はすぐに手に入ると思うけどな」
ウォルシフは盛り上がっているマイヤーフをちらりと見て言った。
「確かに、お祖父さまならやりかねないか……」
セレインも複製石を手に入れるため、それを司る石神の町へ行くことを本気で計画し始めているマイヤーフを呆れて眺めた。
「もし、そんなことがあったら、貸してもらえると助かります」
「うん」
礼を言い、フォスターは給仕の仕事へ戻ろうとする。
「俺たちだけ食ってて悪いな。フォスター達は食べなくていいのか?」
「取り分けてあるから家に帰ったら食べる予定だよ」
ウォルシフが気を使って訊いた。フォスターは料理を全て平らげてにこにこしているリューナを見て続ける。
「たぶんあいつはもう一回食べると思う」
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