205 結婚談義
「いいね」ありがとうございます!
昼食が終わり、トヴィカが紅茶をいれてくれている。皆が集まって食事まで作ってくれたのに自分が何もしないのはいたたまれないと言って笑顔で席を回っていた。それを見てファイスールが羨ましがっている。
「およめさんいーなー。僕も欲しいなー」
「やらんぞ」
「すっかり受け入れたよな、兄貴」
「嬉しいです!」
新妻のトヴィカはにこにこしている。幸せそうだ。コーシェルがトヴィカを見る眼差しも以前よりずっと優しくなっている気がする。
コーシェル、セレイン、ウォルシフの兄弟と双子は子どもの頃一回会ったことがあるそうだ。コーシェルは最初ぎこちなかったが、ファイスールが例の調子で馴れ馴れしく話しかけるため遠慮が無くなったらしい。最初は将来の都の大神官と話すのは緊張すると言っていたのだが。
「トヴィカちゃんを譲ってもらうつもりはないよー」
「人の嫁さんにちゃん付けせんでもらえんかの」
「新婚はいいねー。トヴィカちゃんは大事にしてもらってるねー」
「はい!」
「だから『ちゃん』じゃなくて『さん』じゃろが!」
「ほらほらー、他の男になれなれしくされてるからコーシェルがヤキモチやいてるよー。よかったねー、トヴィカさん」
「はい! 嬉しいです!」
コーシェルはファイスールに完全にからかわれていた。コーシェルは苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「およめさん欲しいのはほんとだよー。いいなー、女の子と仲良くなりたいなー」
「俺もー! でもさ、ファイスの立場なら女の子いくらでも寄ってこない?」
ウォルシフは同意したが疑問に思ったらしい。
「んー、僕の場合ー、地元で寄ってくる女の子は僕じゃなくてー、僕の立場が好きなんだよねー」
ファイスールは肩をすくめて困ったように言った。
「あー……それはわかるな。うちもそっちの血筋に繋がる話はそういう理由で出来ないし」
そういえばそんな話を聞いたことがあるなとフォスターが思っているとファイスールが変なことを言い出した。
「だからー、邪険にされると嬉しいんだよねー。この人は僕のこと見てくれてるって思うんだー」
「げっ。それでか……」
セレインが眉間に皺を寄せている。本当に嫌そうだ。ウォルシフは姉のそんな様子は気にせず話を続ける。
「テレクのほうはどうなの?」
「僕は今学ぶことが多くてそれどころじゃないよ」
「都の大神官の試験と医療も両方だもんな……確かにそれどころじゃなさそう」
「ウォルシフはそういう話なかったのー?」
「無いよ! ここの話をすると辺境だね〜って言われて去っていくよ!」
「そう思うとホントにようトヴィカはこんなとこ来たのう」
「だってコーシェルさんに会いたかったから!」
「あー、始まっちゃったー」
ファイスールによるからかいが再度始まりそうになるのを遮ってコーシェルは話題を逸らした。
「昔はの、こんな辺境でも問題なく結婚出来たって話じゃよ」
「そうなの?」
「転移石が手に入ったからじゃよ」
「ああ……。それなら別居してても結婚出来るよなあ。俺でも相手見つけられたかも」
ウォルシフが悔しがっている。
「実際昔はそういう人がいたらしいんじゃ。転移石が出回らなくなったから引っ越したって聞いたのう」
「つまりー、転移石があればー、セレインちゃんと結婚出来る可能性もあるってことだねー」
「は? 何言ってんの?」
「は!? ダメだそんなの!」
セレインとマフティロが同時に声を出した。
「わー、マフティロおじさん怖ーい」
「君が変なこと言うからだろう!」
「父さん……絶っ対に無いから落ち着いてよ」
それを半笑いし横目で見ながらコーシェルはフォスターに話しかける。
「フォスターのほうはどうなんじゃ」
「え、俺?」
「そうだよなあ。人のことばっかりでお前って自分の話はしないよな?」
「話すことが無いだけだよ。ウォルシフと同じで出会いとか無いし」
「フォスターは結婚とかしないからいーの!」
リューナが割って入った。機嫌が悪い。頬が膨らんでいる。
「あー、これは大変だねー。小姑をなんとかしないとフォスターは結婚できなさそうだねー」
「小姑って……」
リューナはそれを聞いてショックを受けたようだ。口を半開きにしてわなわなと身を震わせている。
「およめさんにとってはダンナさんの姉妹は小姑でしょー? だからセレインちゃんも小姑だよねー」
「……なんかあんたに言われるとムカつくけど確かにそうね」
「改めて。セレインさん、どうぞよろしくお願いしますね」
「こちらこそ。こんなへらへらした兄と一緒になってくれてありがとうございます」
「へらへらしたは余計じゃ!」
セレインがそう言うとコーシェルが文句を言った。すかさずトヴィカが惚気を挟む。
「そうですよ! コーシェルさんは格好いいです!」
「ほんっと、兄さん良かったねえ……。トヴィカさん、体調悪くなったら言ってね。一応あたし医者の卵だから」
「はい! 心強いです!」
妊娠の可能性も考えての言葉だろう。トヴィカも理解したようだ。
「ここはうまくいきそうだけど、フォスターにお嫁さんが来たら……大変そうだよね」
テレクエルがセレインを見た後、リューナを見てそう言った。
「俺もそう思う……」
フォスター本人がため息をつきながら肯定した。
「だから、フォスターは結婚しないでね」
「……お前が誰かと結婚するまではな」
それを聞いてリューナがむくれる。カイルは黙ったまま皆の話を聞いていたが、落ち着かない様子だった。本当は結婚相手として自分が名乗り出たいのだが、そこまでの仲に発展したわけでもない。まだリューナに想いも伝えていないが、周りは大体察していた。
「そういえば、コーシェルが水の都まで迎えに行くのか?」
少し居た堪れなくなったのでフォスターは話を逸らした。転移石は一時的に神殿へ貸すことになっている。水の都へ大神官一族を迎えに行くためにフォスターの部屋から出てくるのは何かと面倒だからだ。結婚式が終わったら返してもらう。
「ああ。そのつもりじゃよ。わしらのために来てもらうんじゃから、わしらが迎えに行ったほうがってことでのう」
「なので私も行きます!」
「こっちの二人に実家に顔出したらどうかと言ったんじゃがの。お祖父さまが勝手に言い出したことなんじゃから、わしが行かなくてもいいんじゃないかとも思ったんじゃが」
こっちの二人とは双子のことである。
「んー、今はいいかなー」
「帰るなら母さんたちが帰るときにちょっと一泊するくらいにしとこうかと思うんだ」
「そうだねー。その頃にはここにいるの飽きてそうだしー」
「家で食事して、必要な物を取ってきてから一旦ここに来て、それからみんなで命の都に戻るよ」
ファイスールとテレクエルはまだのんびり過ごしたいらしい。おそらく都にいるときは勉強漬けだったので休息が必要なのだろう。
「というわけでわしらが行くことになったんじゃ」
「母さんたち、広い場所で盾に乗りたがってるからまだ貸しておいてねー」
「大伯父さんもね」
「そういえば家の中でしか乗れてなかったもんな……」
マイヤーフの屋敷の廊下ではしゃいでいた二人を思い出した。
「僕たち崖沿いに走ってから町外れに出て走ってたからー、町の人の迷惑にもならなかったでしょー?」
「そのかわり豚とか山羊とかびっくりしてたけどね」
「逃げられなくてよかったよ……」
崖に向かって左側の崖沿いは家畜の放牧地である。
「柵にぶつからなかったのか?」
「走ってる途中で反力石使ったらいい感じに飛び越せたよー」
「走ってる途中に使うのか。結構難しそうだな」
「速度と距離の感覚をつかむしかないかな」
「これ、もっと高く飛べたらいいのにねー」
「俺もそう思って色々やってみたんだけど、うまくいかないんだよね。ずっと反力石に触ったままでもすぐ低くなっちゃうんだ。壁を下にするように真横に走るのも出来なかった」
カイルは既に空を飛べるか、壁を走れるのか試していたようだ。
「神様から授かる石だし、何かしら制限があるんじゃろ」
「自由に飛んじゃいけない制限があるのかもね」
「でも、前ここに来た神衛は飛んでたよね?」
「わしらはその頃留守にしてたから、よく知らんのう」
「鳥神だってきいたよー。そっちと効果が被らないようにしてるのかもしれないねー」
最初にリューナを攫おうとしたヴァーリオのことである。
「鳥石で何か開発できないかと思ったんだけど、あれって個人契約みたいな感じだから、他の人には使えないんだってさ」
カイルは既に鳥神の石を調べていたようで、とても残念そうにしていた。
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