203 抱擁
フォスターをはじめ、総勢六人が集まっている。ここは命の都の大神殿の一室。ファイスールたちが大神官に交渉して借りた小さな会議室である。
転移石の持ち主はセレインだが、戻るときにセレインの部屋へ転移すると問題があるのだ。男性が四人もいるので、女子寮のセレインの部屋へ戻ると体裁が悪い。ましてや水の大神官候補が二人もいる。大ごとにならないようにとの配慮もあり貸してもらえたのだった。
「じゃあもういいですかー?」
「いいよー」
「ひっついてるの嫌だから早く転移して」
転移石一つで六人が転移するにはお互いにくっついていなければならない。セレインに苦情を言われフォスターは苦笑しながら転移石を額に当てた。
また飛翔神の町にある自宅の自分の部屋へ戻って来た。今回は両親へ今日帰ることを伝えている。下の階にもフォスターたちの声や足音が聞こえたのだろう。両親が急いで階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
「おかえり!」
「おかえりなさい!」
育ての両親であるジーニェルとホノーラがドアを開けるなり大きな声で出迎えようとした。しかし目の前にいたのはファイスールとテレクエルの双子であったため、二人とも勢いを無くす。
「あ……ええと……いらっしゃい」
「あー、はじめましてー。セレインちゃんのはとこのファイスールでーす。おじゃましてまーす!」
「はじめまして。同じくはとこのテレクエルです。すみません、大勢で押しかけまして」
ファイスールが悪びれもせず挨拶し、テレクエルが恐縮する。
「ちょっとどきなさいよ。ほら、リューナ」
「お父さん、お母さん、ただいま……」
セレインが双子二人を押しのけリューナを前に連れて行った。その途端ホノーラがリューナを抱きしめる。
「リューナ、おかえりなさい……」
「今回も無事で良かった」
「うん……」
とても愛おしそうにゆっくりと抱きしめる。ジーニェルは妻に先を越されてしまったのでその上から二人とも抱きしめた。両親に返事をするリューナの声は涙声だった。
「あ、うちの親が外に出てこっち見てる」
カイルが窓の外を見て言った。
「ごめん、俺先に帰る。また後でね!」
そう言ってカイルは窓を開けて二階のフォスターの部屋から飛び降りた。反力石があるのでそのほうが早いのだ。
「カイルー!」
「あんたもう大丈夫なの!?」
「通信石で話したときも大丈夫だって言っただろー」
そんな会話が外から聞こえてきた。
「じゃああたしも帰るね。早く帰らないと父さんがうるさそうだし」
「マフティロ、すごく楽しみに待ってたわよ」
ホノーラが微笑みながら伝えるとセレインが肩をすくめる。
「ですよね」
「僕たちもおじゃまさせてもらうねー」
「悪いけどよろしくね」
「まあ、他に泊まるとこないし、それはしょうがないわね」
フォスターたち家族はセレインと双子と共に下へ降り、玄関で別れた。
「改めておかえり、二人とも」
「うん、ただいま」
「今回もおみやげ買ってきたよ。フォスター、出して出して!」
両親と会えたからか、リューナの元気が回復してきたようだ。フォスターは胸をなで下ろしながら格納石から荷物を出して土産を取り出した。
「これは昼食用にと思って」
「こっちは甘いものだよー」
「父さんにはお酒」
「お母さんにはジュースみたいな甘いお酒ね」
「ありがとう」
「そんな毎回気を遣ってお土産買わなくてもいいのよ? お金かかるでしょ」
「こういうのを考えるのも楽しいんだよ」
「そうか。俺たちのことを考えて選んでくれたんだな。嬉しいよ」
ジーニェルは娘可愛さを隠しきれず満面の笑みを浮かべてリューナの頭を撫でながら感謝を伝えた。
「あ、あとこれも」
「長命石だよ。お父さんとお母さんが長生きしますようにって御守り。ペンダントになってるから着けててね」
「ありがとう」
「それからね、これ」
「これがあればいつでもリューナと話が出来るよ」
「あっ、通信石じゃない! 欲しかったのよー」
「みんなが家にいるときは使い道無くて持ってなかったからな」
「嬉しい。リューナだけじゃなくフォスターと話せるのも嬉しいんだからね。ありがとうね」
ひとしきり話した後、フォスターが言い出した。
「見送りに降りてきちゃったから、俺、部屋戻って着替えてくる」
フォスターは土産を格納石に仕舞っていたこともあり鎧を着けたままである。
「そうね。その間お茶の用意をしておくわ。少しゆっくりしたら。色々あって疲れたでしょ」
両親も神殿から色々聞いているらしい。
「私、ちょっと寝てもいいかな? 安心したら眠くなってきちゃった……」
「最近眠りが浅いって言ってたもんな」
「言ったっけ?」
「セレインさんから聞いてる」
『神の子なのに疲れはあるらしいんだよな』
ビスタークの言葉でフォスターも不思議に思う。以前見た父親の過去でレアフィールもたまに疲れたと言うことがあった気がする。理力を使うことは全然疲れない様子だが、人に気を遣ったりストレスが溜まるようなことは神の子でも疲れるようだ。
「無理しないでゆっくり休みなさい」
「うん。休んだらお話聞いてね」
「もちろんだ」
ジーニェルはそう言ってリューナを抱きしめた。先ほどホノーラに先を越されたからだろう。
「安心してゆっくり寝なさい」
「……うん」
リューナは命の都にいたときと違って、とても安心した穏やかな表情になった。
兄妹は二階の自分たちの部屋へと向かう。リューナはフォスターの前を歩いていたが、後ろにいるフォスターが二階に上ったとたん振り向いて兄に抱き着いた。
「わっ? どうした、急に?」
「……最近ずっと離れて生活してたから、フォスター成分が足りないの」
「なんだそれ」
「フォスターは私に必要な栄養だもん」
「……なんだよ、それ」
「みんなの前じゃみっともないし、恥ずかしくて出来なかったから」
「……」
みっともない自覚はあるんだな、と思いつつ何と声をかけるか悩んでいるとリューナが続けてこう言い出した。
「……鎧がじゃま」
「は?」
「フォスターの体温と匂いが感じられないからやだ」
「はあ……」
呆れつつ胸部の鎧を外して床に置いた。
「これでいいだろ」
「うん」
リューナはフォスターの胸に顔をうずめて深呼吸した。
「こうしてると落ち着く……」
「俺は落ち着かない」
「抱きつかれるのがいやなら、よく眠れるように添い寝してくれる?」
「それはもっと困る」
「じゃあがまんして」
「……いつまでこうしてればいいんだ?」
「私が満足するまで」
フォスターは軽くため息をついてリューナの背中をぽんぽんと叩き、そっと抱き寄せた。要は安心したいのだろう、そう思って頭を撫でてやった。
「うちにいれば何も怖いこと無いからな」
「……うん」
「怖かったよな。ごめんな、つらい思いさせて」
「それはフォスターのせいじゃないけど……」
リューナは何か言い淀んでいる。
「どうした?」
「うん……」
意を決したようにリューナは顔を上げる。
「フォスター、私に何か隠してるよね?」
心臓が跳ね上がった。
「やっぱり……」
返事を待たずしてリューナは呟く。耳の良い妹は兄の心音で理解したのかもしれない。
「私が聞いたら嫌だと思うようなこと?」
「……ああ」
「じゃあ、私のために隠してるんだよね?」
「……そうだよ」
『余計なこと言ってくれるなよ。頼むから』
ビスタークもこの状況に気をもんでいるようである。
「じゃあ、聞かない」
フォスターとビスタークはその言葉に安堵した。
「そのうちわかるんなら、その時まで嫌なことは知らないほうがいいよね」
「……ごめんな」
「うん」
リューナが泣きそうだったのでフォスターは優しく抱擁した。リューナも再度フォスターに力を入れて抱きつく。
「フォスターが優しいから隠してるんだってわかったから、逆に安心したかも」
「そうか」
「ヨマリーが言ってたもんね。『まだ起きてないことを考えて嫌な気持ちになるなんて損』みたいなこと」
「あー、そんなこと言ってたな」
水の都のある大陸へ行く船の中で一緒に過ごした眼鏡の兄妹のことを思い出した。しばらくこの状態のまま二人で黙って立っていたが、リューナから離れた。
「もう、大丈夫。栄養補給できた」
「それなら良かった」
「よく眠れそう。お昼には起きるね。お腹すくと思うし」
「ははっ、リューナらしいな」
「むー」
リューナは笑われて少し頬を膨らませたが、すぐ笑顔になっておやすみの挨拶をし、自分の部屋へと入って行った。
リューナに抱きつかれると胸が当たるからお兄ちゃんは困りますね。
鎧があればガード出来るけどね。
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