201 涙
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フォスターが目を覚ましたのは神殿の一室だった。時刻石の色は赤く、夕方の炎の刻を示している。診療所へ行ったのは昼前だったので、昼食も食べずに眠っていたことになる。
『お、起きたか』
ビスタークがフォスターにそう話しかけると、フォスターはまず確認する。
「リューナは?」
『双子が迎えに来た。セレインに頼むってよ』
「なら良かった」
神衛兵と神官がいるから大丈夫だろうとは思っていたが、何よりもフォスターにとって一番心配なのがリューナの安全なのだ。
『不安がってたから後で連絡してやれ』
「そうするよ」
それからビスタークは目を覚ますまでのことをフォスターに説明し始めた。
『あのシュペーゼって女の霊は神官に引き渡された。浄化は当分しないって話だ』
「向こうの情報が欲しいもんな」
『ここの神殿には悪霊とかの霊魂に特化した部署があるっていうからな。そこで存在できるらしい。情報もそうだが、医者を説得出来るかもってことでな』
「……」
複雑な気持ちである。フォスターはリューナを道具としか思っていないザイステルのことが憎い。しかし今はこの夫婦に対して同情の気持ちも持っている。説得して向こうの悪事から手を引けば情報も得られるとも思う。そうは思うが、負の感情が拭いきれない。ザイステルは愛する妻を生き返らせるためとはいえ、人を平然と殺しているのだ。被害者側としては到底許せるはずもないだろう。
フォスターが眠っている間、リューナはセレインと共にカイルの病室にいた。
「フォスター、大丈夫かな……」
リューナの表情は暗い。
「いつも親父さんで慣れてるんだから大丈夫だよ。俺も起きてる時に身体使われたことあるけど、疲れただけだったし。フォスターだっていつも寝てれば回復してたでしょ?」
「そうだけど……」
カイルはすっかり回復して元気である。体力的にはいつでも退院出来るのだが、回復が通常よりずっと早かったため検査が続いているのだ。検査以外は暇らしく、フォスターが宿から引き上げて来た荷物から色々と取り出して工作をしているようだ。製作途中の物が横の小机に置かれている。
「フォスターが取り憑かれたのって、お父さんのせいみたいなの」
「どういうこと?」
「なんかね、魂の器に隙間があったから取り憑けたんだって」
「えっと……どういうこと?」
「多分だけど、お父さんが取り憑きすぎてそうなってるんじゃないかなって」
それまで黙って二人の会話を聞いていたセレインが割って入る。
「つまり、その魂の器ってところに二人分の魂が入ってたことがあるから、その器が緩くなってるってことかな?」
「だと思ってるんですけど」
「……俺も何度か取り憑かれてるんだけど。てことは、俺も?」
「フォスターのほうが回数は多いと思うけど、そうかもね」
「たちの悪い悪霊だね」
セレインの言葉に皆苦笑する。
「気になるんなら神官に頼んで加護をもらえばいいんじゃない?」
「加護?」
「うん。神様の加護。悪霊から身を守る為にそういうのがあるんだ。神官じゃなくても出来るって話だけど、理力結構使うし反力石が何個かいるはず。子どもの頃父さんに教えてもらったんだけど、使う機会も無かったから忘れちゃった」
「そうなるとお父さんは取り憑けなくなる?」
「たぶん」
カイルが首を傾げる。
「でもそれだといざというときに困ったりしない?」
「うーん……」
「最初に攫われそうになったときって親父さんがフォスターの身体で戦ったんでしょ?」
「うん……やっぱり困るかな?」
「だって俺たちが寝てる間は見張りをしてくれてるんでしょ? そのときに襲われたら寝てるフォスターに取り憑いて撃退してもらえるし、取り憑けるほうがリューナの護衛として役に立ってくれるよ」
「……」
そこでセレインが提案した。
「じゃあさ、加護のやり方を教えてもらえばいいんじゃない? リューナは理力多いっていうから出来るんじゃないかな」
「うん」
「双子なら教えてくれるでしょ」
「呼んだー?」
ノックはしたものの返事を待たずにファイスールとテレクエルが病室へ入ってきた。
「なになにー? セレインちゃん僕たちのこと呼んだでしょー?」
「……」
セレインはすごく嫌そうな表情でファイスールを見ているが本人は気にせずニコニコしている。
「あ、あの。私が二人に教えてほしいことがあって、それで」
これ以上空気が悪化しないようにリューナが気を利かせた。
「なーに?」
「あの、幽霊に取り憑かれないように、『加護』のやり方を教えてほしくて」
「いいよー。自分の町の石がいくつかいるんだけど、今持ってるー?」
「あ……今は一個しかないです……」
「じゃあ、また今度ねー」
ファイスールとリューナが話している間、セレインが何かに気付いた。
「リューナ、通信石が光ってるみたいだよ」
「フォスターかな!?」
その言葉にリューナが前のめりになる。セレインは笑いながらリューナへ通信石が入っている鞄を渡すと、リューナは急いで光っている石を取り出す。
「フォスター! もう大丈夫なの!?」
「大丈夫。まだ疲れは残ってるけど。今どこだ?」
「カイルの病室。みんないるから、こっちは大丈夫だよ」
「そうか、良かった。それなら安心だな」
「うん」
「もう少ししたらそっちに行けると思うから、そこで待っててくれ」
「うん、あまり無理しないでね。ゆっくりでいいよ」
必要最低限の会話を交わし、通信は終わった。リューナは軽くため息をつく。
「あー……良かったあ……。フォスターに何かあったらどうしようかと思った……」
リューナの表情が緩んだ、その次の瞬間。
「あ、あれ?」
大きな瞳から涙が溢れてきた。泣くつもりなどさらさらなかったので、リューナは困惑した。
「気が張ってたんだね。怖い目にあって、フォスターのことで緊張もしてたんでしょ。よしよし、怖かったね」
セレインがリューナを抱き寄せて頭を撫でる。人の温もりを感じ、余計に涙が出てきた。
「良かったらこれ使って。一度も使ってない綺麗な物だから」
スッとハンカチをテレクエルが差し出す。セレインがそれを受け取りリューナの涙を拭いてやった。カイルはそれを見て、次は自分がすぐにリューナの涙を拭いてあげられるようにしておこうと思った。
リューナは一頻り泣いた後、セレインから離れた。
「ごめんなさい、少し落ち着きました」
「うん。大変だったもんね。我慢しなくていいんだよ」
セレインはリューナの少し残った涙を拭いてからハンカチをテレクエルへと返した。
「ありがとうごさいます。すみません、汚してしまって」
「気にしないで」
テレクエルはそのハンカチを手に持ったまま立ち上がった。
「じゃあ僕はちょっと用事を思い出したから」
「じゃあ僕もー」
ファイスールも弟に続いて立ち上がる。
「夕飯は一緒に取れないと思う」
「残念だねー。二人ともさびしいでしょー?」
「全然」
いつも通りセレインが冷たく突き放した。ファイスールは全く意に介することなく笑顔で手を振りながら二人は部屋から出て行った。
「じゃあ今日はごはん三人だね。カイルはまだ病院食だし」
「早く退院したいなあ。もう検査大体終わったんじゃない?」
「まだ血を取るから。いっぺんにたくさん取れないから時間かかるんだよ」
「入院してるとヒマなんだよねー。部品とか買いに行けないし」
「何か買ってほしい物があるならフォスターに頼めばいいよ」
「そうする」
セレインが退院出来ない理由をつけ足す。
「あと『薬』の後遺症で疲れやすくなってるでしょ?」
「うーん……ずっと横になってたから筋力が落ちてるだけな気もするけど」
「でも昨日も食事の後、疲れたって言ってすぐ寝ちゃったじゃない」
「そうだったね。あの時もらったプリンっていうの、すごく美味しかった!」
「リューナに喜んでもらえて良かった。またあげるからね」
好きな女の子に笑顔でそう言われるとまたあげたくなってしまうカイルであった。
「ありがとう、カイル。早く退院出来るといいね」
「うん。病院の中歩いて少し運動しないとなあ」
「がんばってね」
「うん。リューナも大変な目にあったんだから、元気出してね。おやつならいつでもあげるからね」
先ほど泣いてしまったリューナを見てカイルは心配していた。おやつくらいで元気を出してもらえるのなら安いものだ。泣いた後の目元が元に戻っていくのをなんとなく眺めながらカイルはそう思った。
そういや5日おきに投稿しますって言うの忘れてましたね……。
この章終わるまではその投稿ペースでいきます。
あとそろそろ設定集のほうも更新できそうです。
人物紹介ではなく時間表現設定と世界観語り的なものです。
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