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合コンという名の懇親会



 薄暗い室内を、豪奢なシャンデリアが橙色に照らしている。

 つるりとした良く磨かれた低いテーブルを囲むようにソファが置かれていて、ふかふかのソファに私は座っている。

 時刻は約束の午後七時。

 集まった魔族の皆様はお仕事をしているようで、金曜日の夜が集まるには一番丁度良いのだという。

 そもそも私には夜出かけるという習慣がない。

 少し緊張しながら座る私の横には当然のようにロキ様がいる。

 プリシラさんが私の横にいて、正面のソファにはアルジェドさんと、シルベールさん。それから、初対面の魔族の方がもう二人。

 ロキ様はいつも通りのゆるっとした服装で、いつもと違うのは黒い大きめな首がざっくりとひらいた上着を羽織っている。

 締め付けられる服装をあまり好まないのかもしれない。

 アルジェドさんは今日もオシャレだ。

 袖が長く布の多い上着に、胸の前で合わせて腰を帯で締める衣服は見慣れないものだけれど、アルジェドさんによく似合う。袖がひらひらしているせいか、くらげ感が強くて愛らしい。

 シルベールさんは高級そうなスーツを着こなしている。

 長い足をソファの上に座って組んでいるシルベールさんの方が、ロキ様よりもずっと魔王に見える。


「弟もいるし、あとは全員知り合いの上に、ロキ様まで来るとか、これは親睦会?」


「合コンですよ、プリシラ」


 指先を口元に当てて、アルジェドさんが言う。


「アンジュさんにとっては見知らぬ男性しかいないのですから、合コンと言えるのではないのでしょうか」


 シルベールさんも軽く頷きながら口を開いた。


「合コンというか、ホストクラブ……?」


「ほすと……?」


「良いのよ、アンジュちゃん。こっちの話。アルジェド様とシルベールは知っているわよね。ロキ様は知っているのは当然として、そこにいるのはフィアセス様。ロキ様の側近のうちのひとりよ」


「はじめまして、アンジュと申します」


「はじめまして、アンジュさん。ロキ様が大変お世話になっているとお聞きしました。アンジュさんのお陰で、ロキ様が五億年ぶりに外に出てくれました。部屋に籠もりすぎて、カビがはえるんじゃないかと思うぐらいだったロキ様が、外に……」


 フィアセス様、と呼ばれた男性が、瞳を潤ませながら言う。

 褐色の肌に、銀色の髪の男性で、額から頬に駆けて、不思議な紋様が刻まれている。

 筋肉の浮き出た胸と腹部まで見える、胸元が大きく開いた服、首元には金色の首飾りが巻かれている。

 威風堂々とした佇まいの男性だ。

 ロキ様は背が高いけれど細身で、アルジェドさんは小柄。シルベールさんも細身の男性なので、フィアセスさんが余計に大きく見える。


「アンジュちゃん。この大きいのはフィアセス。フィアセスは、人獣族ね」


「ロキ様の側近の方々なのですから、きっとお強いのでしょうね」


「ロキ様ほどではありませんが、それなりには」


 私が尋ねると、フィアセスさんはにこやかに答えてくれる。

 野性味溢れる強面の男性だけれど、怖い人ではなさそうで安心する。


「アンジュさん、フィアセスもアパートの住人です。というか、アパートの住人は、管理人の私とフィアセス、ロキ様の三人なんですが。ということはつまり、独身であり、恋人もいません。何せ元、単身用アパートですので」


「ロキ様のアパートに住むとか、他の魔族じゃ恐れ多くてできないものね。側近の皆様が勢揃いするはずよね、それは」


 プリシラさんが溜息交じりに言った。

 自己紹介をしていると、店員さんがやってきて、飲み物やお食事を広いテーブルに溢れるぐらいに並べていく。

 私の前にはメロンクリームソーダが置かれている。

 ロキ様は今日は珍しく、お酒を飲むようだ。

 ロキ様達の前には、細長いグラスに、発泡性のアルコールが注がれている。

 豪勢なお食事は、お肉やお魚や、一口で食べることができそうなもの。見慣れないものがおおいけれど、どれもこれも美味しそうだ。


「アンジュちゃん、これは生ハム。それから、チーズの盛り合わせでしょ。オリーブとサーモンのピンチョスに、牛すねシチューと、子羊の香草焼き、それからヒラメのカルパッチョ。アンジュちゃん、甘い物の方が良いかしら、ケーキ頼む?」


「……アンジュちゃんはあんまり甘い物、好きじゃないんだよ」


「彼氏面してマウントとってくるんじゃないわよ。何しに来たのよ、ロキ様。監視? 娘の監視? あんまり過保護だと嫌われるからね」


「僕は父親じゃないけど、アンジュちゃんの保護者だから、一緒に来ても良いでしょ。心配だし。アンジュちゃんも良いって言ったし」


「そりゃ良いって言うでしょ。ロキ様に一緒に行きたいって言われて、断れるわけないじゃない」


 私を挟んでロキ様とプリシラさんが言い合っている。

 正面にいる男性達があまりにも煌びやかなので、ロキ様の声を聞くと妙な安心感がある。

 煌びやかな男性に慣れていない、というわけでもないのだけれど。

 ヴィオニス様やその側近の方々も、見目麗しい方が多かった。

 けれど――魔族の方々というのは、どうにも、人とは違う妖しい魅力に溢れているような気がする。

 直視すると、そのまま意識が奪われてしまうような、人とは違う麗しさだ。

 私はここに、何をしに来たのかしら。

 どうにも落ち着かない心持ちで、内心首を傾げる。


「アンジュさん、アルジェド様が言うには、ロキ様に愛玩メイド扱いをされて新しい恋もできないとか。ご安心ください、この日のために、私のこの身は清廉潔白。清らかそのもの。彼女とはきちんとお別れをしてきました」


「まぁ、お別れを……」


 私は吃驚してシルベールさんを見つめた。

 恋人とお別れというのは、そう軽々しくできるものなのかしら。


「私もアルジェド様も、フィアセス様も、そうですね、言うなれば今は、独身フリーの優良物件、といったところです」


 シルベールさんが言うと、フィアセスさんがにこにこしながら、ひらひら手を振ってくれる。


「建物価格なら、駅前の一等地に匹敵する優良物件ですよ、アンジュさん。ロキ様は職業魔王(無職)ですが、私は賃貸経営と水族館経営をしていますし、フィアセスはトレーニングジムと酒場の経営、シルベールは趣味の洋品店の他に、喫茶店を経営しています」


「それは、お忙しいのですね」


「酒場といっても、いかがわしい場所ではありませんよ。きちんと営業時間を守る、良い魔族の為の酒場です。だから、安心してくださいね」


 フィアセスさんが言う。

 酒場というのは良いイメージがあまりないのだけれど、フィアセスさんは優しそうなので多分大丈夫なのだろう。


「なにこの、働くのが偉い、みたいな雰囲気」


「ロキ様も、世界を作っておりますわ。大切な役割です」


「世界を作るといっても、魔力のリソースを世界に割いているだけでしょう? 確かに私たちはロキ様のように世界を維持できるほどの魔力はありません。ですがロキ様は、世界をあらかた作り終えた今となっては、部屋にひきこもって怠惰に過ごしているばかり」


 不満げなロキ様を庇う私に、アルジェドさんが諭すように言った。


「アンジュさんはロキ様を甘やかしてはいけません」


「アンジュさんが来る前は、ロキ様は日がな一日部屋で眠っているばかりで、たまに腐っているのではないかと確認しなければいけないほどだったのですよ」


「こちらの世界ができてどれぐらいでしょうか。街が広がり魔族が増えて景色が変わっても、ロキ様は同じ。無菌室のような狭い部屋から出てこない。困ったものだと思っていました」


 アルジェドさんとフィアセスさんが口々に言う。

 確かにロキ様は怠惰だけれど――でも、それは悪いことなのかしら。

 

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