第十四話 秘められた才能
いつも『もう一度、あなたの声を。~音を知らなかった少女の異世界譚~』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
第十四話『秘められた才能』では、シルヴィアが自身の持つ魔法の可能性と向き合う回となりました。
魔力測定水晶によって明らかになった、複数の属性への適性。
それはシルヴィアにとって大きな可能性であると同時に、これから向き合っていかなければならない新たな課題でもあります。
ですが、どれほど大きな才能を持っていても、大切なのはその力をどう使うか。
シルヴィアがこれからどんな魔法を学び、どのように成長していくのか。
これからも温かく見守っていただけると嬉しいです。
翌朝。
庭には爽やかな風が吹き、朝露に濡れた草花が太陽の光を受けて輝いていた。
私はいつものように庭へ向かう。
大きな木の下では、リリア先生が既に待っていた。
「おはようございます、シルヴィア。」
「おはようございます!」
先生は嬉しそうに頷く。
「元気があって良いですね。」
「今日は、少し特別なことをしましょう。」
私は首を傾げた。
「とくべつ?」
「ええ。」
「シルヴィアが、どんな魔法に向いているのかを調べます。」
私は目を丸くする。
「わかるの?」
「ある程度なら分かります。」
リリア先生はそう言うと、小さな革袋を取り出した。
袋の中から現れたのは、透明な水晶玉だった。
両手に収まるほどの大きさで、朝日を受けて美しく輝いている。
「これは『魔力測定水晶』です。」
「魔力との相性を調べるための道具なんですよ。」
私は興味津々で水晶を見つめた。
「きれい……。」
先生は優しく微笑む。
「シルヴィア。」
「この水晶に両手を添えて、いつものように魔力を流してみてください。」
私は頷き、水晶へそっと手を添える。
ひんやりとした感触が手のひらへ伝わった。
目を閉じる。
胸の奥にある魔力を感じる。
ゆっくりと。
優しく。
魔力を水晶へ流していく。
その瞬間――。
水晶が淡い光を放ち始めた。
「……!」
私は驚いて目を開く。
最初は白い光。
やがて赤。
青。
緑。
茶色。
四つの色がゆっくりと水晶の中で輝き始めた。
その様子を見たリリア先生の表情が変わる。
「そんな……。」
先生は思わず息をのんだ。
お父さんとお母さんも、不思議そうに水晶を見つめている。
「先生……?」
私が声を掛けると、リリア先生はしばらく水晶から目を離せなかった。
「これは……予想以上ですね。」
その言葉の意味を、この時の私はまだ知らなかった。
リリア先生は、しばらく水晶を見つめたままだった。
四つの光は、まるで互いに競い合うように輝いている。
赤。
青。
緑。
茶。
それぞれが違う色を持ちながら、一つの水晶の中で共存していた。
「先生……?」
もう一度呼びかけると、リリア先生ははっとしたように顔を上げる。
「あ……ごめんなさい。」
「少し驚いてしまいました。」
私は首を傾げる。
「なにか、へんだった?」
リリア先生は優しく首を横に振る。
「いいえ。」
「変なのではありません。」
「とても珍しいのです。」
その言葉に、お父さんとお母さんも顔を見合わせた。
「珍しい……?」
お母さんが尋ねる。
リリア先生は水晶へ視線を戻しながら、ゆっくり説明を始めた。
「一般的に、人は一つか二つの属性に適性を持つことが多いです。」
「火、水、風、土。」
「それぞれ得意な分野があり、自分に合った魔法を伸ばしていきます。」
私は真剣に話を聞く。
「でも……。」
「四つ全てに反応する人は、ほとんど存在しません。」
私は目を丸くした。
「ぜんぶ……?」
「ええ。」
リリア先生は頷く。
「シルヴィアさんには、複数の属性を扱える可能性があります。」
その言葉を聞いて、私は水晶を見る。
さっきまで綺麗だと思っていた光が、今は少し不思議に感じた。
「すごいことなの?」
私が尋ねると、リリア先生は少しだけ笑う。
「才能として見れば、とても大きな可能性です。」
「ですが――。」
先生は優しく続ける。
「大切なのは、どんな才能を持っているかではありません。」
「その力を、どう使うかです。」
その言葉を聞いて、私はお母さんの言葉を思い出した。
『魔法は、誰かを守るための力』
私は水晶へ手を添えたまま、小さく頷く。
「わたし……。」
「このちからで、だれかをまもりたい。」
その瞬間。
水晶の光が、ほんの少しだけ強く輝いた。
リリア先生はその変化に気づき、静かに目を細める。
「……やはり。」
先生の小さな呟きは、風に消えていった。
リリア先生の呟きが気になった。
「やはり……?」
私が尋ねると、先生は少し困ったように微笑んだ。
「ごめんなさい。」
「まだ、私にも分からないことが多いのです。」
そう言いながら、先生は水晶へ視線を向ける。
「ただ一つ言えることがあります。」
「シルヴィアさんの魔力は、とても不思議です。」
私は首を傾げた。
「ふしぎ?」
「ええ。」
「普通、魔力は自分の得意な属性へ自然と引っ張られます。」
「ですが、あなたの魔力は……。」
先生は少し考えるように言葉を選ぶ。
「どの属性にも素直に馴染んでいるように感じます。」
私は水晶を見つめる。
四つの光は、まだ静かに輝いていた。
「じゃあ……。」
「わたしは、ぜんぶつかえるの?」
その質問に、リリア先生はすぐには答えなかった。
そして、ゆっくり首を横に振る。
「まだ分かりません。」
「適性があることと、自由自在に扱えることは別です。」
「四つの力を扱うには、それだけ多くの練習と努力が必要になります。」
その言葉を聞いて、私は少しだけ気を引き締めた。
簡単ではない。
でも――。
「やってみたい。」
自然と言葉が出ていた。
リリア先生は優しく微笑む。
「その気持ちがあれば大丈夫です。」
「魔法使いに必要なのは、才能だけではありませんから。」
お父さんが嬉しそうに笑う。
「シルヴィアらしいな。」
お母さんも頷いた。
「無理はしないでね。」
「ゆっくりでいいのよ。」
私は二人の顔を見る。
昔なら、できないことを怖がっていた。
でも今は違う。
失敗しても支えてくれる人がいる。
だから、挑戦できる。
リリア先生は水晶を片付けながら言った。
「それでは、明日から少しずつ属性魔法の練習を始めましょう。」
「まずは、一番相性の良い属性を探します。」
「シルヴィアさんの中にある可能性を、一つずつ見つけていきましょう。」
私は大きく頷いた。
「はい!」
新しく開かれた魔法への扉。
その先には、まだ見たことのない景色が待っている。
小さな少女の挑戦は、ここからさらに始まっていく。
第十四話『秘められた才能』を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回は、シルヴィアの魔法適性が明らかになる大きな一歩の回でした。
主人公が特別な才能を持っているという展開は、異世界作品ではよくある要素ですが、この作品では「才能があるから強い」のではなく、「努力し、学び、どう向き合うか」を大切に描いていきたいと思っています。
シルヴィアが持つ可能性は、まだ始まりに過ぎません。
これから魔法を学ぶ中で、失敗や悩み、様々な出会いを経験しながら成長していきます。
次回から、いよいよ属性魔法の練習が始まります。
シルヴィアが最初に選ぶ魔法とは何なのか。
楽しみにしていただけると嬉しいです。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
――藤田慎二




