第十二話 新たな出会い
いつも『もう一度、あなたの声を。~音を知らなかった少女の異世界譚~』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
第十二話話『新たな出会い』では、シルヴィアの前に新たな人物が登場します。
魔法という未知の力に触れ始めたシルヴィア。
そして、彼女の可能性を見つめる一人の魔法使い。
これからシルヴィアは、家族から教わった温かさだけではなく、新たな師との出会いを通して、さらに多くのことを学んでいきます。
魔法の使い方だけではなく、その力をどう扱うのか。
強さとは何なのか。
シルヴィアが少しずつ成長していく姿を、これからも見守っていただけると嬉しいです。
朝の柔らかな日差しが、庭の草花を優しく照らしていた。
私はいつものように大きな木の下へ向かう。
最近の日課になった魔法の練習。
胸の奥にある魔力を感じ、ゆっくりと手のひらへ集める。
最初は難しかったことも、少しずつ身体が覚え始めていた。
「よし……。」
私は小さく息を吸い込む。
胸の奥の温かな魔力が、腕を伝って指先へ流れていく。
すると――。
ぽっ。
小さな光が、昨日よりも少しだけ大きく輝いた。
「できた……!」
思わず笑顔になる。
その様子を見ていたお母さんも、嬉しそうに頷いた。
「本当に上達が早いわね。」
「毎日頑張っている証拠よ。」
私は照れくさそうに笑った。
その時だった。
家の外から、馬車の止まる音が聞こえた。
ガタン、と車輪が止まり、誰かが地面へ降り立つ足音が響く。
「……?」
お父さんが家の外へ目を向ける。
「来たみたいだな。」
私は不思議そうに首を傾げた。
「だれ?」
お父さんは優しく笑う。
「シルヴィアに会わせたい人がいるんだ。」
「魔法をたくさん知っている、とても頼れる人だよ。」
私は胸がどきりと高鳴る。
(魔法をたくさん知っている人……。)
期待と少しの緊張を胸に、私はお父さんと一緒に玄関へ向かった。
ゆっくりと扉が開く。
そこに立っていたのは――。
玄関の扉がゆっくりと開く。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。
長く美しい銀色の髪が、柔らかな風に揺れる。
落ち着いた紺色のローブをまとい、腰には一本の杖。
年齢は二十代半ばほどだろうか。
優しそうな雰囲気の中に、どこか凛とした空気をまとっていた。
「お久しぶりです、エリオットさん。」
女性はお父さんへ微笑みながら一礼する。
「ああ、久しぶりだ。」
「忙しい中、来てくれてありがとう。」
お父さんはそう言うと、私の肩へそっと手を置いた。
「紹介するよ。」
「この子が娘のシルヴィアだ。」
私は少し緊張しながら一歩前へ出る。
「……シルヴィアです。」
女性は目を細め、優しく微笑んだ。
「初めまして、シルヴィア。」
「私はリリア。」
「今日から、あなたに魔法を教えることになりました。」
私は思わず目を輝かせる。
「ほんとう?」
「ええ。」
「でも、魔法は焦って覚えるものじゃないわ。」
「一歩ずつ、一緒に学んでいきましょう。」
その優しい声を聞いた瞬間、不思議と緊張が和らいだ。
この人なら大丈夫。
そんな気がした。
リリアは庭へ目を向け、小さく頷く。
「まずは、シルヴィアがどれくらい魔力を扱えるのか見せてもらえるかしら。」
私はお母さんを見る。
お母さんは優しく頷いた。
「大丈夫。」
「いつも通りでいいのよ。」
私は深呼吸を一つして、庭の中央へ歩き出した。
胸の奥にある温かな魔力へ、静かに意識を向ける。
初めて会う先生の前での魔法。
少しだけ緊張していた。
けれど、それ以上に――。
私は見てもらいたかった。
今の私に、何ができるのかを。
私は庭の中央で静かに目を閉じた。
深く息を吸い、胸の奥へ意識を向ける。
そこには、いつもの温かな鼓動。
小さな魔力が、静かに揺れている。
(大丈夫。)
(いつも通り。)
私は魔力をゆっくりと手のひらへ流していく。
焦らない。
急がない。
お母さんに教わった通りに。
すると――。
ぽっ。
手のひらに、小さな光が灯った。
その光は以前よりも揺らぎが少なく、穏やかに輝いている。
「おぉ……。」
リリア先生が小さく声を漏らした。
私はゆっくりと目を開ける。
先生は光ではなく、私自身を見つめていた。
「エリオットさん。」
「この子は、毎日練習を?」
お父さんは頷く。
「ああ。」
「無理はさせていない。」
「本人が楽しそうだから、できる範囲で続けているだけだ。」
リリア先生はもう一度、私の手のひらの光を見る。
「なるほど……。」
小さく呟くと、今度は私の前にしゃがみ込んだ。
「シルヴィア。」
「少しだけ質問してもいい?」
「うん!」
「その光を出す時、何を考えているの?」
私は少し考え込む。
難しい質問だった。
「えっと……。」
「むねの、あったかいのを……。」
「ここまで、もってきてる。」
私は自分の胸を指差し、そのまま手のひらへ指を動かした。
リリア先生は静かに目を見開く。
「そう……。」
「誰かに、その方法を教わったの?」
私は首を横に振る。
「おかあさんが。」
「まほうを、かんじるって、おしえてくれた。」
「でも……。」
「ここまで、もってくるのは。」
「なんとなく。」
その一言に、リリア先生は言葉を失った。
しばらく沈黙が流れる。
やがて先生は立ち上がり、お父さんとお母さんへ静かに視線を向けた。
「少し、お話があります。」
その表情は穏やかなままだった。
けれど、その瞳には驚きが隠しきれていなかった。
お父さんとお母さんは顔を見合わせ、小さく頷いた。
「シルヴィア。」
お母さんが優しく微笑む。
「少しだけ、待っていてくれる?」
「うん!」
三人は家の中へ入っていく。
私は庭に残り、さっきまで灯していた小さな光を思い返していた。
(先生、びっくりしてたな。)
私には何がすごいのか、まだよく分からない。
ただ、お母さんに教えてもらった通りに魔力を動かしただけ。
それだけだった。
一方、家の中では——。
リリアは静かに息を吐き、エリオットとアリアを見つめた。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」
「もちろんだ。」
「シルヴィアさんは、いつ頃から魔力を感じ取れるようになったのですか?」
アリアが穏やかに答える。
「三歳になって間もない頃です。」
「初めて教えた、その日のうちに感じ取れました。」
リリアは目を伏せた。
「……やはり。」
その一言に、エリオットが眉をひそめる。
「何か問題があるのか?」
「いえ。」
リリアはゆっくり首を横に振った。
「問題ではありません。」
「むしろ、その逆です。」
二人は黙って次の言葉を待つ。
「普通の子どもは、魔力を感じ取るだけでも長い時間がかかります。」
「ですが、シルヴィアさんは違いました。」
「魔力を感じ、流れを理解し、自分の意思で動かしている。」
「しかも、その動きがとても自然です。」
部屋の空気が少しだけ張り詰める。
「私は長年、多くの子どもたちへ魔法を教えてきました。」
「ですが……。」
リリアは窓の外で花を眺めるシルヴィアへ視線を向ける。
「この年齢で、あれほど落ち着いて魔力を扱える子を見たことがありません。」
エリオットは静かに腕を組んだ。
「才能……ということか?」
リリアは少し考え、小さく頷く。
「才能なのか。」
「努力なのか。」
「それとも、別の理由があるのか。」
「今の私には、まだ分かりません。」
そして穏やかに笑った。
「だからこそ。」
「私は、あの子の成長を見届けたいと思います。」
窓の外では、シルヴィアが風に揺れる花を見つめながら、小さく微笑んでいた。
その無邪気な笑顔の奥に秘められた可能性を、この時まだ誰も知る由はなかった。
しばらくして。
扉が開き、お父さんたちが庭へ戻ってきた。
「シルヴィア。」
お母さんが優しく呼ぶ。
私は振り返り、駆け寄った。
「おはなし、おわった?」
「ええ。」
お母さんは笑顔で頷く。
その隣にはリリア先生が立っていた。
「シルヴィア。」
「これから、あなたに魔法を教えることになりました。」
私は改めて先生の顔を見る。
「よろしくおねがいします!」
元気よく頭を下げると、リリア先生は少し驚いたあと、優しく微笑んだ。
「こちらこそ、よろしくね。」
「でも、一つだけ覚えておいてほしいことがあります。」
私は首を傾げる。
「なに?」
リリア先生は私の目を見る。
「魔法は、競争ではありません。」
「誰かより強くなるためだけのものでもありません。」
「自分の心と向き合い、どう使うかを考える力です。」
その言葉は、お母さんが以前言っていたことと似ていた。
魔法は誰かを傷つけるためではなく。
誰かを守るための力。
私はもう一度、強く頷いた。
「うん。」
「だいじょうぶ。」
「わたし……まもるために、つかう。」
その返事を聞いた瞬間。
リリア先生の表情が少しだけ柔らかくなった。
「……素敵な答えですね。」
そして、空を見上げる。
「それでは、明日から本格的に始めましょう。」
「まずは魔法の基礎。」
「魔力の流れ、魔法陣、詠唱について。」
「そして――。」
先生は少し間を置いた。
「あなた自身の魔法について。」
私はその言葉に胸を高鳴らせる。
私自身の魔法。
まだ知らない力。
まだ見たことのない世界。
その扉は、もう開かれていた。
夕暮れの庭。
家族と、新しい先生。
大切な人たちに囲まれながら、私は小さな一歩を踏み出した。
これから始まる魔法の学びが、どんな未来へ繋がるのか。
この時の私は、まだ知らなかった。
第十二話『新たな出会い』を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回は、シルヴィアにとって大きな転機となる出会いを描きました。
リリアという新たな先生との出会いによって、シルヴィアの魔法への道は本格的に始まります。
まだ小さな光しか生み出せないシルヴィアですが、その一歩一歩が、いつか大きな力へ繋がっていきます。
そして、魔法はただ強くなるためのものではなく、どう使うかが大切な力です。
これからシルヴィアがどんな魔法を学び、どんな困難や出会いを経験していくのか。
楽しみにしていただけると嬉しいです。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
――藤田慎二




