蜜月が明けて
―――1か月後・・・
「んん・・・んにゅぅ・・・」
そんなかわいい寝言を呟かれたら、また蜜月を延長したくなるのだが。
この1か月、新王政権が発足したが特に目立った不祥事もなく、新王の治世の評判も王妃殿下の評判もうなぎのぼりである。
叔父である吸血鬼の王と叔母である王妃が積極的に支援しているというのもあるけれど。やはり人が変われば随分と平穏になったと思う。
一応報告だけは受けている。フローリア公爵・・・お義父さんは相変わらず領地に籠っているそうで。現在は辺境伯領と合わせて武術指南をしているらしい。公爵夫人のお義母さんは魔法使いの育成に力を入れていて、何かウチの母親軍団もしれっと混ざってるという恐ろしい報告を聞いたのも覚えている。
目の前で無防備な寝顔を見せるフィアの滑らかなアッシュブルーの髪を梳いていれば、不意にその先にメイド服が映る。
「何してるんだ?エリン」
「出てこられるのを黙って放っておくと、セシナさまがお籠り期間を延長しそうなので迎えに参ったのです」
「・・・」
何故バレたっ!
「それに、そろそろお仕事してください」
「う、わかったから」
暫くは部下たちから報告を受けるだけで俺自身は動いてなかったからな。その代わりジル兄さんも動いてくれていたはずだ。
むくりと体を起こせば。
「あぅ、セシナさま・・・?」
眠たげな眼を擦りながら、フィアもむくりと体を起こす。
「まだ眠ければ、寝ていていいぞ」
「ん~・・・セシナさまと、一緒にいます」
がはっ
「そ、そうか。それじゃぁ」
「フィアさま。あんまりセシナさまを甘やかしてはダメです。でろっでろになりますから」
「エリン?蜜月が、明けたのですね」
エリンに気が付いたフィアは、そう言えばと思い出したようだ。
「お籠りライフ、終わってしまいました」
「じゃぁ、またやろうか」
フィアの頬に手を伸ばせば、その横からずいっとエリンが顔を近づけてくる。
「長期間は婚約時のみですよ。今度は長くても2週間にしてくださいね」
「えぇ~」
「そろそろジルさまが弟切れでテンションがヤバいので」
「てんしょんがやばいって、どんなかんじですか?」
いや、多分ダークオーラマックスで暴れまくっただけだと思うけど。
「フィアさまはそのまま純粋でいてくださればよいのですよ。さ、お支度をしましょうか」
「?う、うん。エリン」
フィアがエリンに華麗に連れて行かれる中、俺もベッドから降りれば。
「そう言えば、朝からお客人が来られていますよ」
そう、ナルが告げながら俺の服を用意する。
「朝から?」
着替えをしながらナルの報告に耳を傾ける。
「どうしてもフィアさまと朝イチでお会いしたかったそうで」
「・・・一応、誰が来ているのか聞いておこうか?」
まぁ、だいたい予想はつくんだが。
―――
「まぁっ!フィアちゃん、元気にしてた~?」
「セシナちゃんとの時間はどうだった?嫌なこととかあったら言ってね」
「今日も一段とかわいいわね~」
ダイニングに入るなり、3人の母たちがフィアを華麗に強奪していく。しかもその中にエリンとレティまで入っている。
「何でレティまでいるんだ?」
「あら、報告があったのよ」
そう言うと、レティはさっと身を翻したと思えば、ひとりの青年の腕に飛びつく。
「トールさまと婚約したのよ」
「えぇと、実はそうなんだ」
「えっ!?兄さまがレティちゃんとですか!?」
フィアは突然のトール義兄さんとレティの出現に加え、その電撃発表にとても驚いているようだった。うん、俺も驚いた。
「ベラちゃんとね、よく話す機会があって。ベラちゃんとフィアちゃんのお兄さんのお嫁さん候補を色々と探してあげたのよ~」
と、マティ兄さんとゼン兄さんの母、エカチェリーナことリーナ母さん。
いや、本当にいつの間に仲良くなったんだ。そっちの方が驚きだ。
「ふふっ、世の中何があるかわからないよねぇ。でも楽しいからいいや」
と、楽天的なことを言いつつ、父さんが俺の背中にのしかかってくる。
「ちょっと、いつの間に父さんまで」
いや、母さん軍団がいる時点で父さんもいそうなものだが。
「ずるい。お兄ちゃんだってセシナたんの背後に忍び寄りたいのに」
と、俺の背後を取り合う父さんとジル兄さんはどうでもいい。
「今度は俺も、そちらに挨拶に伺いますね。トール殿」
「え、えぇ。ルシウス殿」
何だかすごい紳士風に挨拶をしているルシウス兄さん。
しかしその主たる目的は、ハーパンショタっ子のイオくんをその目に収めたいだけである。トール義兄さんは完全に親睦を深めようとしているので気が付いていないが、レティはしっかりと気が付いているので問題ないだろう。
「次はゼン兄さんと一緒に行くことにしてるんだ」
「わぁ、嬉しいっ!セシナくんっ!」
わぁい、と喜ぶゼン兄さんの後ろで、「え~っ」とルシウス兄さんが文句を垂れる。
「フィアちゃん!今日はお兄ちゃんの隣に座らないかっ!!」
完全に空気が読めていないマティ兄さんがそう宣言する。
「ちょっと、ずるいわ。マティ。お母さんだって!」
案の定実母リーナ母さんや他の母さんたち、レティとの奪い合いに発展する。
さてと。俺は・・・
「フィア、席に着こうか」
その隙にフィアの腰を抱き寄せていつもの席へ案内して座る。
「あの、セシナさま。お義母さまたちは大丈夫でしょうか」
「いや、父さんの周りに座ってもらえばいいし」
てか、息子と妻たちの争いに爆笑してないで早く何とかしろよ父さんと思いつつ。レティを呼んでフィアの隣の空席に案内する。
「あら、優しいのね。さすがだわ」
「その方が騒がしくならないだろ?」
「確かに。私もフィアちゃんの隣で嬉しいもの。トールさまはジルさまのお隣にお座りになって」
「あ、あぁ。レティ」
繰り広げられる不毛な争いにあたふたしていたトール義兄さんも、レティの言葉にレティの正面に腰掛ける。そして他の兄たちも席に着けば、ようやくマティ兄さんを救出した父さんが、マティ兄さんのいつもの席の隣に腰掛け、母親軍団たちがその周りに座る。
「結局こうなるので、放っておいていいですよ」
「あら、ドライね。セシナ」
俺がトール義兄さんに告げれば、レティがそれを聞いて苦笑する。
「お籠り明けに騒がしくてすまないな」
「い、いえ。セシナさま」
母親軍団たちとの抗争をちらちらと不安げに見ていたフィアの髪を優しく梳く。
「セシナさまとふたりの時間も大好きですけど、家族みんなで賑やかなのもステキです」
だ、大好きか・・・。
「フィア、甘やかすとセシナがどんどん重症化していくわよ」
とのレティの言葉にフィアはきょとんとしていた。
いや、重症化ってなんだ、重症化って。
それにしても家族、か。
早速フィアの実家に遊びに行く計画もたてるか。
「セシナさま」
レティがフィアに色々と講義しているのを聞きつつ、後ろからナルに呼ばれて振り返る。
「わかってる。まずは溜めた仕事を片付けないとな。留守の間はエリンに任せるから」
「承知しました」
そう答えると、ナルは早速手配に向けて動き出す。
幸せそうに微笑む伴侶の顔を眺めながら、ご褒美のためにもとっとと片付けないとな。
考え込んでいたからか、フィアが俺に顔を向けてくる。
「どうした?」
「いっ、いえ。今日からお仕事、なのですよね。頑張ってください!」
「頑張ったら、またご褒美をくれるか?」
「ご、ご褒美ってっ!」
少し恥ずかしそうにするフィアの首筋に、軽い口づけを贈る。
「ひゃっ!?」
そこは蜜月の間何度も味わった場所で。
フィアは頬を桃色に染めながら小さく頷く。
―ドゴン。
何故かダイニングテーブルに突っ伏しているフィアの兄の姿が目に入る。
「慰めてやったら?」
きょとんとしているフィアの隣に座っているレティに声を掛ければ。
「そうね。散々見せつけてくれちゃったんですもの」
そうレティが苦笑し、トール義兄さんを慰めてあげていた。
―――そして辺境伯一家のダイニングルームには今日も変わらず賑やかな声が響くのだった。
人間の中で「余りもの」と呼ばれた人間の姫は、とある混血の吸血鬼に唯一の伴侶として迎えられ、生涯にわたり愛され幸せに暮らしたという。
《完》
それでは本編は一旦これにて完結になります(`・ω・´)ゞ
ありがとうございましたっ<(_ _)>




