新王の即位
新王アルノルト陛下の即位記念パーティーはつつがなく進行した。
吸血鬼の王である叔父上夫婦が直々に新王とその王妃に挨拶しに来たことで、新王政権も順風満帆とみなされたことだろう。
ついでに先王夫妻の即位の時は使者をやって形式上のお祝いの手紙を届けただけだったらしい。それに比べてアルノルト陛下とクラリス妃殿下の場合、彼らの結婚式に同じ王太子夫妻のアル兄さんとディア姉さんがわざわざ出向いていたというのだから、その時から既に先王政権は見限っていたのかな。
まぁ、アルノルト陛下の祖父王の治世は長かったから間に入った先王夫妻は治世が短かった。そのおかげで外国から変に付け入られる前に世代交代できたようだし。これでめでたしなのかもな。
ついでに、吸血鬼の王太子夫妻であるアル兄さんとディア姉さんも叔父上叔母上に付いて挨拶に行っている。久々のクラリス妃殿下との再会に、ディア姉さんも機嫌がよさそうだ。
「フィア、俺たちも行こうか」
「は、はいっ!セシナさま!」
フィアとクラリス妃殿下の再会は本当に久々だ。フィアも緊張している様子だった。
まぁ、父さんと母さんズもフローリア公爵夫妻と共に挨拶に向かったので、俺たちもそれに続いてローゼンクロス辺境伯の代理として挨拶する。
一時体調を崩していたというクラリス妃殿下だったが、今ではあの母さんズのノリにすっかり中和されたのか随分と元気そうだった。
「フィア、ようやく会えたわね」
「クラリスお姉さまっ!」
クラリス妃殿下は、周囲の目もあるが躊躇いなくフィアを抱きしめる。アルノルト陛下もそれを優しく見守っている。今は縁戚関係はないとはいえ、一時は義理の姉妹として過ごしたふたりの仲の良さがひしひしと伝わってくる再会だった。
「そのペンダント、持っていてくれていたのね」
「はい、お姉さまからいただいたものですから」
クラリス妃殿下はフィアの胸元で輝くブルーサファイアのペンダントに視線を落とす。
「フィア。フィアが今、とても幸せそうでよかった」
「はい。セシナさまのおかげで、私、幸せです」
そう言って満面の笑みを浮かべるフィアに、クラリス妃殿下も優しい微笑みを返す。
俺がそんなフィアを抱き寄せれば。「じゃぁ、私も」と陛下がクラリス妃殿下を抱き寄せて、お互いに苦笑する。
「どうか、私たちの妹を宜しくお願いします」
そう、クラリス妃殿下の言葉に陛下もまた頷く。
「えぇ。お任せください」
そう答えれば、フィアが幸せそうに微笑んでくれた。
国王陛下夫妻への挨拶を終えて、フィアと共に歩んでいれば。
「帰ったら蜜月の期間をいっそ延長してもいい気がするな」
「お籠り期間ですか?」
「そう」
「でも、お兄さまたちやエリンと会えなくなるので・・・」
まぁ、フィアはエリンや兄さんたちとも打ち解けてるし、あまり長くするとエリンにまた叱られそうだ。それに、フィアの実家にも弟のイオくんがいるからな。
「それじゃぁ蜜月が明けたら、基本屋敷に籠って、たまにフィアの実家に遊びに行くことにしようか」
「あ、それいいです!」
と、その会話を近くで聞いていたらしい、フィアの姉・ベラドンナ夫人とその夫のルークさんがこちらにやってきた。
「あら、いいじゃない。その時は私にもお手紙ちょうだいね。また実家に帰るから」
「えっ、ちょっ、でもこれからは王都に住むんだから」
ルークさんがあたふたしている。
「大丈夫よ。私の仕事は片づけて実家に帰るから。あなたには迷惑はかけないわ。任せてっ!」
「え」
夫と一緒に来るという選択しがもはやないような気がするんだが。
「(その時は夫婦で招待してやるか)」
「(でも、ルークお義兄さまはお忙しいのでは?)」
「(たまには息抜きも必要だろう)」
そうでもしないと、またベラドンナ夫人が旦那を放ったらかしてひとりで帰省しそうだし。夫婦で一緒に来た方がフィアと一緒の寝所に寝たいと言い張るベラドンナ夫人をルークさんのところで引き取ってもらう口実ができるからな。と、考えていることはフィアには黙っておこう。
「因みに、お兄ちゃんもその時はセシナたんと寝たい」
何を言い出すんだ。いつの間にか背後に忍び寄ってきたこの兄は。てか、俺の脳内思考を読んだのか?その上でのこの発言なのか?
「いや、次はゼン兄さんを紹介したいし、あとマティ兄さんも慣らさなきゃならないから、当分はお留守番で」
「そんなっ!」
ルシウス兄さんをそれとなく省きつつも、絶望に打ちひしがれるジル兄さん。でもこれしきの事で諦めるブラコンではないので先が思いやられるわぁ。
お祝いムードなパーティー会場で、俺はフィアをなでなでしつつ、ひとり変態兄どもの今後に思いを馳せていた。




