夜会の日
―――人間側の王都・王城前
「あ、あわわわ、だ、大丈夫でしょうかっ!セシナさま!」
「大丈夫だ、フィア。おいで」
馬車を降りてフィアの腰を引き寄せ共に歩く。
「そうだ。お兄ちゃんも後ろで殺気を放っておくから平気だ」
いや、それはそれでどうかと。
「あれはローゼンクロス辺境伯家の三男の兄です。不審者じゃないので」
『え、えぇ、伺っております・・・よ』
さすがはフローリア公爵の元部下(※つまりは近衛騎士団員)。ちゃんと教育は行き届いているようだ。確かにジル兄さんの殺気は周りへの牽制にはなるかと思うが、こうして俺が毎回毎回城の連中に説明せねばならん弟の身にもなれ。
今回はエリンとナルも一緒に来てくれているので、早速割り当てられている控室に案内されてヘアメイクや衣装の崩れを整えてくれる。
「き、きんちょぅ、しますね」
なんせお籠り明けだからな。
「大丈夫だよ。まぁ、顔だけは出すって言ってた公爵夫妻もこちらに来てくれる予定だし」
「そ、そうですね。お父さまとお母さまがいらっしゃるなら、私・・・」
―――フィアがそう、安堵しかけた時だった。
「やだっ!この子ね!」
「何だか小動物みたいでかわいいわぁ~」
「ほ~ら、なでなで~」
「ひゃっ、ひゃひっ!?せ、セシナさま~~~っ」
突如襲来した3名の美女が、瞬時にフィアを俺から引き剥がしそして思う存分撫でまわし始めたのだ!しかもフィアが脅えてっ!
「ちょっ!?何やってんだ!」
俺が手を伸ばした瞬間、そのうちのひとりの美女が俺の前に立ちはだかる。
「わかっているのよ、セシナちゃん。あなたが・・・母親には本気で抵抗できない優しい子だってことはね!」
そう言ってのけたのは俺と同じダークブラウンの胸元までの髪をふわりと揺らし、珍しい金色の瞳に美しい顔立ちをした女性だ。髪には赤い髪飾りを、襟の高いケープとセットになった淡い金色のドレスをはためかせ、悠然と立ちはだかる。
「いや、卑怯だぞさすがにそれはっ!」
「は、ははおや?」
他のふたりの美女に抱き着かれているフィアがこてんと首を傾げる。
「あ、俺たちの、母親」
とジル兄さん。
「まずは名乗ったら、“母さん”」
「ごめん、いつもの癖で」
どんな癖だ全くもう。
「このひとが俺の実の母のユリーカ」
「よろしくね~、フィアちゃん。“お義母さん”でいいわよ~」
「はっ、はい!」
ダークブラウンの髪の美女・ユリーカににっこりと微笑みかけられたフィアは、緊張しながらも頷く。
「で、このひとがマティ兄さんとゼン兄さんの母親で、エカチェリーナ」
「リーナお義母さんでいいわよ♡」
そうにこりとグラマラスボディーをフィアに押し付けながら微笑んだのは、金茶色の髪の長身の女性で、前髪をぱっつんに、そして腰よりも長い後ろの髪を縦ロールにしている。瞳はオレンジで、肌は雪のように白く、その肌によく映える立襟の赤いドレスに薄紅色のストールを身に着けている。
「そしてこのつるぺたでちったいのが俺とルシウス兄さんの母さ・・・もへっ」
「こらこらこらー、誰がつるぺたでちったいのかしらー?」
フィアを片腕で抱き寄せながら器用にジル兄さんのほっぺを引っ張ったのが、ジル兄さんとルシウス兄さんの母親。
黒い胸元までの髪に、まったりとした青い瞳を持つかわいらしい顔立ちの女性は、一見少女のようにも見えるのだがれっきとした成人女性で2児を産んだ母である。
本日は右側に赤い生地でラインを入れた立襟のドレスを身に纏っており、打ち合わせ部分と腰のリボン以外の部分は黒で統一されている。
「ハリカよ。私もお義母さんって呼んでねっ♡」
「はっ、はいっ!ほ、本当にお母さんが、よ、4人ですっ!」
え?4人?俺たちの母親は3人・・・
「こんなにかわいい子がいるなんてもっと早く知りたかったぁ~」
「セシナちゃんったら水臭いわね~」
「いいな~、あ、小さい頃の写真とか見てみたいわ~」
「えぇ、もちろんよ~」
「も、もぅ、母さまったら」
フィアがウチの母軍団3人にあたふたしつつも、ノリノリなエステル夫人の手を掴みながら告げる。
あれ、エステル夫人?
あのひといつの間になじんでんだ、ウチの母軍団に!!
「ん、ある意味、すごい?」
「あぁ、そうだなジル兄さん」
―――俺たちはただ、たそがれるしかなかった。
「本当だね~、みんなが言う通りとってもかわいい子だね」
妙に聞きなれた艶やかな声が聴こえれば、3人の母親たちはさっとフィアの前を開けてその声の主を迎え入れる。
夜会前の夜に向かう時間なだけに、プラチナブロンドにも白が入り混じるように光を帯びる髪に、赤い妖艶な瞳を持つ美麗な吸血鬼が、フィアの前でにこりと微笑みその手を取る。
「初めまして、フィアちゃん」
にこりと微笑みかける人外の美貌の主の登場にフィアは完全に「?」だ。
「こら、父さんったら」
俺が父さんの手を取ろうとしたら、先にしゅぱっと他の逞しい手がその手首を掴む。
「・・・娘を放してくれるか」
コワモテを更にコワモテにしたような形相で、フローリア公爵が父さんの手首をにぎぎぎぎっと掴んでいた。
「え~、セシナのお嫁さんなら、俺の娘でもあるよね~」
『ね~』
と、4人の美女。てか、エステル夫人も混ざってる。完全に混ざってるけどそこはいいのか公爵。
「いや、何か納得できんっ!!」
か、完全に脳筋理論に逃げたっ!!
「あ、そうだっ!かわいい義弟と妹に挨拶に行くの忘れてた。じゃぁまたね~」
と、いつの間にか公爵の手を逃れ、扉付近にひらりと舞いながら移動していた父さんは、叔父上と叔母上のところに行くらしい。てか、吸血鬼の王と王妃なんだけど。忘れんなよあの父は。本当に自由人である。
そして唖然とする公爵をよそにとっとと行ってしまう父さん。あの自由奔放な父さんを飼いならしている叔父上はやはり王なんだと改めて感心してしまう俺。あははは。
「くっ、アイツはいつもいつもっ!!」
悔し気な公爵に対し、慣れている母さんたちは特に気にしたそぶりもなく。
「そうだっ!夜会まで時間があるし、女子会しちゃいましょっ」
「エリンちゃん、お茶お願い!」
「はい、大奥さま」
いや、普通にお茶する気だし、あの母親たち。
「あの、公爵。あの父は基本的に自由人なので放っておくのが一番ですが」
と、声を掛ければ。
「・・・その、お、お義父さんでも、いいんだからな」
「え?」
「フィアと君は、結婚したわけだし・・・」
何だか目線を逸らしながら言ってくる公爵。え?・・・ツンデレ?
「はぁ、お、お義父さん?」
「よ、読んでもらったからって嬉しいわけじゃないんだからなっ!」
やっぱツンデレじゃねぇか。あれ?確かこのひととブリックウォール辺境伯って従兄弟だったよな。まさかブリックウォール辺境伯令嬢のイリスのツンデレは、この一族の遺伝なのか・・・!?
俺は、こんな時に恐ろしい真実に気が付いてしまった。
リオにも一応、知らせておいた方がいいだろうか。イリスのツンデレ攻略のヒントになるかもしれないし。




