儀式のその後のこと
朧気に瞼を開いたフィアが、むくりとベッドから起き上がる。
「フィア、大丈夫か?夜食を用意したから食べようか」
「ふぇ?は、はいっ!」
ふぇって、寝起きのフィアもなかなかかわいいな。
「ほら、おいで」
フィアをそっと腕に抱きかかえ、ベッドの傍らのソファーに座らせる。
「あ、お食事」
ソファーにふたりで座れば、テーブルの上に軽食が用意されていることにフィアも気がついたようだ。これらは先ほどエリンに頼んで用意してもらったもので、部屋の外にワゴンを置いてもらってそこから俺が運んだものだ。
「あの後、すぐに寝ちゃったからな。緊張して疲れただろう?」
「い、いえ、疲れただなんてっ!せ、セシナさまのほうこそ、抱っこを・・・」
フィアが恥ずかしそうに頬を赤らめながら告げる。
「いや、俺はフィアの血を飲んだから。むしろ力が満ち溢れたかも」
それほどまでに魔力の濃い血だった。さすがはエステル夫人の娘だなと感じる。
今は数時間経ってフィアの血も馴染んだから、再び髪の色は元に戻しているが。今も魔力が満ち足りているのは感じる。
「ち、血・・・」
「恐くなったか?」
―――吸血鬼が。
「あ、いえ。その・・・その、私っ!」
「ん?」
「あの、ち、誓いの口づけが。吸血だとは、知らなくてっ!」
え‶っ。
あぁ、さっき寝入る前の唇同士の口づけのくだりは、そこだったか。
「すまん、多分認識にずれがあったんだと思う。吸血鬼の婚姻の儀式での口づけは、十中八九吸血だ」
「そ、そうなの、ですね。私はてっきり、お口でのだとっ!人間の土地ではそうなのです!」
まぁ、吸血しないからな。言われてみればそうだ。何故か俺も含めてみんな抜けていたと。いや、儀式だからそれが当然だと思っていたし、だからこそのあのスタイルだったからな。
吸血鬼は血の匂いに敏感だ。あの儀式を行えば当然のことながら血の匂いが周囲に広がる。だから他者は絶対にあの場に入れず、両親や兄弟姉妹だけが立ち会う。
家の外では決してやらない。伴侶の血の匂いに寄って来られては困るし、その匂いに刺激されても困る。
傷口を塞いでも、特に魔力の濃い吸血鬼の血は、例えるならば体の周囲にまとわりつくように魔力と共に暫く停滞し簡単に霧散することはない。人間でも特に魔力の濃いフィアならなおさらだ。だから他者の目にあまり触れぬように“隠す”のだが。
エリンにも夜食を用意はしてもらったものの、未だフィアの周りには濃い魔力の気が残っている。エリンは心配していたものの、彼女も吸血鬼の血を曳いているから基本的に部屋の中には入らない。
少し魔力の気が薄くなれば最終的なパーティー用のドレスの衣装合わせの時にエリンを招く予定ではあるが。
「突然のことで嫌な思いをさせたか?」
「い、いえっ!セシナさまのことは、そのっ。信じております、からっ!」
「そ、そうか。じゃぁ、これからの蜜月にやることは知っているか?」
「み、蜜月、ですかっ!?」
頬を赤らめているのでその意味だけは知っているようだ。
「蜜月は1か月くらい部屋に籠ることもあって、その期間伴侶の血も含めてたっぷり味わうのが慣習だ」
「あ、味わう、のですね」
フィアがもじもじしている。
「とは言っても、本格的なのは即位記念パーティーの後だな。最終的な衣装合わせもしないとエリンに怒られるし、明日はフィアの両親も領地に帰るから挨拶するだろう?」
「は、はい!そしてパーティーが終わったら、お、お籠りライフが待っているのですよね。お籠りは、好きなので頑張りますっ!」
「まぁ、無理はしないでいいから。パーティーまでは暫くあるからその期間はしっかり休んでいて」
「はい。ありがとうございます」
「こんな話をしといて何だが、食べられそうか?」
ぐぅ~~~
「ひゃっ」
フィアは自分のお腹の音に驚き、顔を赤らめる。
「それなら心配なさそうだ」
「はい・・・っ」
フィアは照れながら頷くと、早速夜食が盛られた皿に手を伸ばした。




