誓いの儀式
※吸血シーンあり※
儀式用の部屋の扉の前でフィアはエリンに、俺はナルに最終的な礼服の確認をしてもらう。
「あの、吸血鬼の土地で襟元が開いている服というのも新鮮です」
フィアが纏っている純白のドレスは、普段パーティーなどで身に纏う襟の高いドレスとは違い襟が広めに開いている。胸元は露出し過ぎないように詰めているが、首筋のラインが見えやすいデザインだ。そして、その上に晒された肌が簡単には見えないように、前後胸下まである長いベールをかぶる。白い色については人間の土地でも同じらしくフィアはウェディングドレスだと喜んでいた。こっちでは儀式用の服ではあるのだが。
誓いの口づけをするのは俺の方からだけなので俺は白いシャツにスーツである。
「あぁ、こう言うのは家族や夫婦の間でしか普通は見せないんだ。他者に悪戯に肌を晒さないのがマナーだから」
そう、フィアの首筋に優しく指を伸ばす。ベールの上からだが。
その下は、儀式の時に。
「はい、パーティーの準備の時にも学びました。あ、だからこの中にはセシナさまのお兄さまたちと母さま、父さましかいないのですね」
「使用人も一切入れませんから」
「儀式が始まれば、我々もセシナさまたちがお部屋に入られるまでは屋敷の中は歩かないようにしています。妨げになってはいけませんから」
エリンとナルがそう告げる。いつもは黒装束のナルは本日は執事の姿をしている。
そう言えば今までナルを紹介したことがなかったな、と今更思って紹介したら。
―たまにセシナさまの側にいられる黒ずくめの方ですか?ナルさんと仰るのですね。ずっとお名前が気になっていたのです―
と言われて俺とナル、エリンの3人に激震が走った。
まぁ、ジル兄さんの時もそうだったので、ショックを受けているナルには気にするなと言っておいたが。
「それでは、行こうか」
俺がフィアの腰に手を回せば。
「この体勢で行くのですね」
「歩きにくいか?」
「い、いえっ!大丈夫です!」
「それでは」
「いってらっしゃいませ」
エリンとナルが両開きの扉を開けて、俺はフィアをエスコートしながら一緒に中に足を踏み入れる。そして扉が閉じられれば真っすぐにマティ兄さんが待っている場所まで行く。
その途中には兄さんたちや公爵夫妻が参列している。
「大丈夫だ、フィア」
「はい、セシナさま」
ベールで見えにくいが、その下はやはり桃色に染まっているのだろうか。かなり緊張しているようだ。
マティ兄さんの前まで辿り着けば。
「それでは、ローゼンクロス辺境伯家当主・マティアス・ローゼンクロスの名に於いて、セシナ・ローゼンクロスとフィア・フローリアの婚姻を承認し、祝福しよう」
『はい』
マティ兄さんの言葉にふたりで一緒に頷けば、次は誓いの口づけか。
フィアと向かい合ってたつ。フィアは緊張して俯いてしまっているが、静かにベールをめくる。
「・・・っ」
「大丈夫。落ち着いて」
フィアの顎をすっと指で上げれば、キラキラとしたフィアのブルーサファイアの瞳が煌めく。本当に、宝石みたいな瞳だ。
「はい」
フィアは目を静かに閉じる。
―――そして・・・
俺はフィアの首筋に唇を近づけ、そして痛くないようにゆっくりと優しく牙を食いこませた・・・
「ひぃあっ!?」
え?ひぃあっ??
そんなに痛かったのか?
・・・気を付けてはいたけれど。
ヒーリング魔法を掛けながら、ゆっくりと、ゆっくりとその血を啜れば、真っ赤な濃厚な魔力が宿ったフィアの血が、俺の中に流れ込んでくる。
その味を喉に流し込み味わえば、流れて滲んだ血を舌で嘗めとりヒーリング魔法で傷口を塞ぐ。
そして首筋から顔を離してベールを降ろそうとすれば。
「・・・」
固まってる・・・?
ヒーリング魔法を掛けながらだったから、痛みは緩和されているはず。傷口も塞がっている。だから大丈夫だったと思うが。まぁ、ひとまずは。
ベールをかぶせ直し、ひょいっとフィアを横抱きにして俺は颯爽と踵を返した。
「あら、本当に一瞬ね」
「うぅ、フィア・・・」
「セシナたんったら~」
「ま、そうなるだろうな。今夜ばかりは忍び込むのはやめる」
「まぁ、野暮にもほどがありますよ、ジル兄さん」
「お幸せにね~」
立会人たちの声をさらりと聴き流しながらも、扉を魔法で開けるとすたすたと廊下を進む。うん、予定通り誰ともすれ違わない。そして夫婦二人の寝室に辿り着き再び魔法で扉を開閉して素早くフィアをベッドに横たえた。そして俺もその隣に腰を下ろす。
「フィア?大丈夫か?終わったぞ」
ベールをとってやり、頭を撫でてやれば。
「はっ」
あ、戻ってきたか。
「あのっ、せ、セシナさま、髪がっ」
「あぁ、フィアの魔力のこもった血を啜ったから」
俺の髪は雪のように真っ白く変化していた。この姿は以前見せたから驚くことでもないと思うが。
「あ、う、や、やっぱり吸ったのです、か?」
「そりゃぁ、誓いの口づけをしないと儀式は完了しないから」
そう言って、フィアの横に寝そべりフィアの顔の正面に向かい合う。
「傷はヒーリング魔法ですぐに塞いだから、残っていない」
わざわざマーキング代わりに残したい吸血鬼もいるけれど、俺はそう言う派ではない。無論マーキングはしたいが、傷ではつけたくない。
フィアの首筋に指を伸ばして撫でる。
「く、口づけって・・・っ」
「ん?」
「きゅ、きゅ、きゅ、吸血のことだったの、ですか・・・?」
「え?」
何だと思って・・・
「あぁ、こっちも欲しかったか?」
そっとフィアを抱き寄せ、唇と唇を合わせる。
「ひぁっ!?あの、えとっ、きゅ、吸血~~~っ」
初めては、少し荷が重かっただろうか。取り敢えずフィアが落ち着くまで抱き寄せて頭を撫でてやった。




