伴侶の義務とお父さんの儀式
※少々つじつまが合わない場所があったので微修正しました
「フィア。誓いの儀式の手順は大丈夫か?」
「はい。エリンに習いました。セシナさまと一緒に誓いの儀式のお部屋に入るのですよね」
俺たちは最後のおさらいをするために、俺の書斎のソファーに並んで腰掛けていた。
「そう。中にはマティ兄さんと、フィアの両親、ウチの他の兄たちが既に揃ってる。エスコートは俺に任せて」
「はい。その後、家長のマティお兄さまが婚姻を認めると告げてくれるのですよね」
「そうそう」
「人間の土地では教会の司祭さまなので、新鮮です」
「まぁ、部外者と言うか他人は入れられないから。普通は新郎側の家長が務める。今のウチの家長は当主のマティ兄さんだからな。代表して認めるとの言葉を俺たちにくれるんだ」
吸血鬼側の土地にも教会はあるが、他人である司祭を儀式に入れるわけにはいかない。親兄弟に司祭がいれば別だが、儀式に於いては司祭である必要は特にないのだ。
むしろ呼んだら色々と問題がなぁ・・・
「それに、普通は教会で行うのでお屋敷の中でやるというのが新鮮なのです!みなさんそうなのですか?」
教会で、か。いや、無理無理。吸血鬼は無理だな。ないわ。
「王族は王城に専用の儀式の部屋があるはずだし、貴族も大体儀式を行うときに専用の部屋を設える。平民もだいたいはそうだな」
あれを外でやるなんて冗談じゃない。
「お籠り主義ってすてきですねっ!外に出ないので安心できますっ!」
「だろう?それで次は・・・」
本当にこれが普通で良かったと思う。
「誓いの・・・その、く、く、口づけ・・・ですよね」
照れながら告げるフィアもかわいらしいな。
「そうだよ」
「するの、ですか?」
「俺からするから、フィアはリラックスしていていいよ」
「そう、言われましても」
「リラックスして、俺に身を任せていれば平気」
「は、はい」
頭をなでなでしてやると少し落ち着いたようだ。やっぱり好きなのか、なでなで。
「その、その後は」
「その後は真っすぐ部屋に行くから」
「私の、今寝ている寝室ですか!?」
「いや、夫婦の部屋を用意しているけど。今後何かあった時のためにフィアの部屋にも俺の部屋にもベッドは残しておくけれど、基本はこれからはその夫婦共同の寝室を使うから。何か不満か?」
「い、いつの間に用意、したのですか?全く知らなくて」
「あぁ、寝室を用意するのは夫の仕事だから。人間の土地は違うのか?」
「え?・・・?」
フィアは考え込んでいる。
う~んと考え込んでいる仕草もかわいらしい。
「一緒にコーディネートをしたりとか、インテリアを揃えたりとか一緒にしないのですか?」
「伴侶の好みくらいは熟知しているから問題ない。人間の土地は違うのか?」
「えっ、私の好みを熟知、ですか!?」
「うん」
「で、では、シーツの色は」
「白」
「掛布団と毛布の色は!!」
「掛布団がダークブラウンで毛布がモカブラウン」
「カーテンの色はどうですか!?」
「オレンジ」
「・・・調度品は・・・」
「小型のテーブルとブラウンのソファー」
「ふにゅぅっ!」
え?何?ふにゅぅっって!!
「違ったか?」
「・・・違いません」
「うん、これが当然だ。でも、変えたいところがあればいつでも言っていい。増やしたい家具があれば注文しようか」
「は、はいっ。その、セシナさまはすごいですね」
「そう?父さんも叔父上も普通にやったそうだけど」
「えっ!?」
何故そんなに驚いて。
「そこで、一緒に、寝るのですよね」
「あぁ、夫婦になったから。やっとフィアの隣で寝られるな」
「と、隣で・・・そのっ、セシナさま!」
「ん?」
フィアが急に決意が整ったような視線を向けてくる。
「単にこうして座っている体勢の背を倒して脚を伸ばすだけですものねっ!!」
「え?」
・・・何だか妙に心配になってきた。
―――フィアが迎えに来たエリンと一緒に書斎を後にして暫くして、ノックの音がした。
ドアを開けてみると。
「その、セシナくん」
「公爵閣下?」
フィアの父・フローリア公爵だった。
「ちょっと、話をいいだろうかっ!」
うおぉっ。元近衛騎士団長の迫力っ!そう言えばマティ兄さんに聞いたことがあるけれど、人間の土地ではお父さんの儀式というのがあるらしくて。「娘さんをください」と言う儀式があるらしい。両家の顔合わせは済んでいるはずだし、最初に迎えに行った時にフィアを伴侶として迎える許可は取ったのだが、そのことではなかったのか。ひょっとして俺の知らない人間の土地の儀式がまだあったのか?
「どうぞ」
「そ、そうか。君は怯まないな。そう言えば、マティアス殿も、ルシウス殿も」
「え?怯む、ですか。こちらへどうぞ」
「あぁ、済まない」
何だか緊張した面持ちでソファーに腰掛ける公爵の向かいのソファーに俺も腰掛ける。
「その、俺は、よく顔が恐いと言われる」
「・・・」
まぁ、確かに迫力はあるけれど。
強いて言えば、兄たちの変態顔の方が100倍くらいヤバいし、解剖明けのゼン兄さんはもっとヤバいし。
「その分、見どころはあると思っていた」
「はい。それは、どうも?」
これは褒められているのか?
「何より、娘を窮地から救ってくれた救いの手だった。あの頃は本気で当時の国王とバカ王子を暗殺しようと思っていたっ!!」
マジでかっ!!多分、ウチとの縁談が無ければやりかねない迫力なんだが。そしてその実力を兼ね備えた元近衛騎士団長。つか、人間の土地では絶対に言えない。ここも声は外に漏れないようになっているし、今はジル兄さんは締め出してナルが影に潜んでいるだけだから問題ない。
「そして、その・・・フィアのことはずっと心配していた。吸血鬼は伴侶を大切にすると聞いていたし、ローゼンクロス辺境伯家ならブリックウォール辺境伯からも聞いているからその心配もない。なにより、その、ウチに来た時にまさか君だとは思わなくてな」
「あぁ、相手がルシウス兄さんだと思ってた件ですか?」
「いや、その、そう言う意味ではないっ!!そんなうまい話があるわけがないと思ってな。その、父君のことは、よく知っている」
「え、初耳です」
あの飄々とした父と堅物そうな公爵が知り合いだとは。一目会ったらケンカしそうだけども。
「何故か城内を平気でうろうろする癖に誰も気が付かないっ!!まぁブリックウォール辺境伯に色々と相談して諦めたが」
ほぉ、あの父がわざと公爵に姿を見せたのか・・・それとも。フィアのこともあるし、フィアが潜んでいるジル兄さんに気付いたり魔獣に異常に懐かれたりするのはこのひとからの遺伝なのだろうか。そう考えればあの父を認識できたのにも納得できる。周囲は気が付かなかったらしいし。
「だからローゼンクロス辺境伯家と聞いて安心した半面、あの男と縁戚関係になるのだと思ってな・・・」
「まぁ、基本自由奔放なのでそんなに真面目に考えていると疲れますよ」
テーブルの上に用意しておいたコーヒーを注いで公爵に出す。
「あ、ありがとう。だが、その、最終的に君がフィアの伴侶になることがわかってな」
「はい」
何か公爵一家からすごいびっくりされたことを思い出す。
「君は、昔、フィアを助けてくれただろう」
「・・・」
「あの時から既に、あのバカはフィアを虐げていたのだな」
まぁ、俺がその証人だし。
「その時は子ども同士の諍いだと思っていたし、長年にわたってフィアに酷いことをしていただなんて思わなかった」
「俺もあんなことを長年にわたって続けていたとは思いもしませんでしたね」
「俺ですら気が付かなかったことを、君が気付いて助けてくれたんだな。あの後トールが慌ててフィアに駆け寄っていくのを見て、俺たち夫婦も駆けつけたが。フィアはずっと君が立っていたという場所を見つめていた」
「・・・」
それは知らなかった。
「かなわぬ思いなのだということも分かっていた。相手が相手だったからな」
まぁ、曲がりなりにも当時は王子だったからな。簡単には婚約破棄もできまい。
「だから、君には感謝している」
「・・・当時、その場でかっさらってしまえばよかったでしょうか」
なら、長年にわたってフィアが苦しむこともなかっただろうに。
「それでもよかったな」
え、本気かこの公爵。
「いや、俺が気が付けなかったのが一番の罪だが」
「いえ、一番悪いのはあのバカですよ」
俺もコーヒーを啜る。
「・・・すまん、気を遣わせたな」
「いいえ」
「フィアは、君といると楽しそうだな」
「公爵からもそう言っていただけるのであれば光栄ですね」
「その、フィアを幸せにしてやってくれるか」
「・・・もちろんですよ。吸血鬼の血に賭けても」
「そうか、ありがとう」
公爵は照れながらもそう告げて、コーヒーを飲みほした。
「コーヒー、ありがとう。ではな」
「はい」
公爵を扉の側まで送り、そして俺はソファーに座りなおした。
「“娘は嫁にやらん”とか言われなくて良かったですね」
不意に現れたナルが告げる。
「え、何それ。昔ルシウス兄さんが言ってたけど」
“弟はお嫁にあげないもんっ”というショタっ子妄想だ。
「人間の土地に伝わるお父さんの儀式ですよ。あと、神聖な儀式なのでルシウスさまの変態と一緒にするのはやめた方がよろしいかと」
「まぁ、そうかも」
あれは不純な妄想だからな。神聖な儀式と一緒にしては公爵に悪い気がした。




