吸血鬼の土地の慣習
―――それは、冬の初めのとある日。
「け、結婚、ですかっ!?」
フィアの顔が真っ赤に染まっている。
「あぁ。人間の王国の方のアルノルト陛下の即位記念パーティーに呼ばれただろ?」
「は、はい。その、マティお兄さまの代わりに、セシナさまとジルお兄さまと伺うのですよね」
「そう。だから、籍を入れておこうと思って」
「・・・その、急展開すぎて付いて行けません~~~っ」
えっ!?何故かフィアがふらふらと倒れて、受け止めたけど。
「いや、セシナさま。急過ぎですけど」
と、エリン。
「だけど、吸血鬼の家に嫁いだらほぼもう内縁みたいなものだろ?単に戸籍上の籍も入れるだけで」
一応、きな臭い問題はほぼ片付いたし、いい機会だと思ったんだが。吸血鬼の王にはこちらで暮らす時点で婚姻の許可はもらっているし、元々王子であるギルが反故にした婚姻を引き受けたのだ。即許可が出るのは当然だ。
「多分、人間の女の子的には、結婚というのは特別なものかと」
「それは知ってる」
「でも突然籍を入れる話題はどうかと」
「え?」
「少し兄君たちに毒され過ぎではありませんか?」
「今更だろう。だって、変態しかいないんだぞ?」
「・・・それも、そうでした」
―――
「あ、あの。結婚式って、どうするんですかっ!?」
ソファの上に寝かせて目を覚ましたフィアは、開口一番にそう問うた。
「割と大丈夫なようだぞ」
「いや、セシナさま。テンパっているだけかと」
と、エリン。
「まぁ、とにかく吸血鬼の結婚式は、人間の土地とはかなり違いますね」
「え、そうなの?」
と、言えば。エリンがこっちをじーっと見てくる。
「平民はどうかは知りませんが、今のアルノルト王陛下の結婚式をちらっと偵察に行ったことがございまして」
あぁ、マティアス兄さんが仮面を厳重にしてわざわざ行ってきたやつね。あの女性アレルギーの兄としてはよく頑張ったと思う。一応、何も知らない令嬢たちに近寄られないようにミイラ男風古フェイスマスクに牛のような角を付けて送り出したのが功を制したのか、無事に帰ってきた件だ。
「王族は少なくともパレードをやって、国民にお披露目です」
「確か、俺たちが参加するパーティーの前にやるんだっけ」
「その後、教会で王族・親族の前で誓いをたて、諸外国や吸血鬼の王族貴族を招いて盛大なパーティーを開くそうです」
因みに吸血鬼側は王である叔父夫婦と、王太子夫婦、辺境伯一家のウチなどが参加する。
「まぁ、誓いはたてるし。パーティーは参加するわけだしそれは知っているけど、わざわざ誓いをたてた後にパーティーを開くのは吸血鬼では王族くらいじゃないか?」
王太子のアル兄さん夫妻はお披露目のために開いたはずだ。
「と、言うのが吸血鬼事情なのです、フィアさま」
エリンがフィアを見ると、フィアは驚いたように目をぱちぱちさせている。そんなに驚かせる内容だっただろうか?
「フィアは、パーティーを開きたいか?」
「い、いえっ!・・・お家に籠っていたいです・・・!」
フィアはソファーの上で膝を抱えてうずくまる。
「フィアは吸血鬼の慣習にとても合っているみたいでよかった。王や王太子じゃあるまいし、普通誓いをたてた後にパーティーは開かないよな」
「いや、セシナさま。多分セシナさまが思っている理由と違うと思いますよ」
「あの、どうしてこちらではパーティーを開かないのですか?」
「え・・・だってせっかく結婚したのに、何で見せびらかさないといけないんだ?1か月くらいは閉じ込めておきたいだろ。あちらの王城のパーティーは3週間後だから大丈夫だろうし、両親にも会ういい機会だから出席はするけど、一応その後1か月くらいは籠らせる!」
貴族ならバースデーパーティーを開いたり、後継のお披露目パーティーなんかを開く貴族も多いというか実際多いけど、ここは境界だしマティ兄さんがアレなのであまり辺境伯一家主催のパーティーは開かないのだ。呼ばれればは兄たちとローテで行くけれど。
「冬籠りっ!素敵です!」
「いや、騙されないでください。フィアさま。このひと今すごいこと言いのけましたよ」
え?そうか?こちらでは普通だけれど。諜報で色々なところに同行しているエリンならではの視点での話か?
「だが、フィアも納得している」
「お籠りお籠りお籠り・・・っ」
フィアはお籠りライフをとても楽しみにしてくれているようだ。
「じゃぁ、誓いだけたてようか。フィアの両親には手紙をもう出していて、馬車もウチから出すから」
「ひぇっ!?お父さまとお母さまが来るのですか!?」
フィアが急に顔を上げてひどく目を見開いている。
「あれ、そこは人間の土地でも同じだった気がしますが」
そうだよな、エリン。
「こ、心の準備が・・・でも、お籠り・・・っ」
何だろう、フィアがソファーの上でテンパっている。
「ほら、大丈夫だから」
そう言ってソファーの隣に腰を下ろし、フィアの頭をなでてやると少し落ち着いたようだ。
「・・・私がしっかりしなくては」
そしてエリンがそう小さく呟いたのを聞いたのだが、エリンは元々しっかりしていると思うぞ。




