突然の手紙
―――数日後
「あのっ、セシナさま!」
朝食に向かおうとしていたら、廊下を走ってくるフィアとその後に続くメイドのエリンの姿が見えた。
「どうしたんだ、フィア」
「あの、今朝クラリスお姉さまからお手紙をいただきまして」
あぁ、人間の王国の王太子妃・・・いや、王妃か。
「そうなのか、案外早かったな」
「早い?」
「いや、何でもない」
フィアにクラリス妃から手紙が行ったということは、恐らくあちらも落ち着いたのだろう。
「何か言っていたのか?」
大体予想はつくけれど、素知らぬふりをしてダイニングに向かいながらフィアの話に耳を傾ける。
「あの、実は人間の王国の国王夫妻に不幸があったそうで、王太子殿下が即位されるにあたってクラリスお姉さまも王妃さまになられるそうです」
「へぇ、随分と急だな」
と、言うわけでもなく。離反が分かった時点でこちらは動いていたわけだが。
「はい、突然のことだったらしく私もあまり心の整理がつかないのですが、こちらがお手紙です」
「あぁ、見せてもらうよ」
クラリス妃は、フィアのことを考えてなるべくショックが酷くならないように言葉を選んで紡いでくれていた。ざっくりまとめれば先王夫妻が行っていた罪により処刑されて、世代交代したこと。そしてカイムが今まで働いてきた悪行が明らかになり、王族の籍を抜かれて塔に幽閉となったことが書かれていた。俺も数日前に報告を受けてなるべく血生臭いことになりそうだからどう話そうか考えていたのだが。クラリス妃がその役を買ってくれたようだ。まぁ、母たち3人の入れ知恵かもしれんが。因みにフローリア公爵(※フィアの父)がカイムをぶん殴ったことは書いていなかった。
「これから、大変なことになるんでしょうか」
「大丈夫だよ、フィア。アル兄さんもディア姉さんもあのふたりのことは気に入っているから、叔父上叔母上含めて力になってくれるだろうし」
「そ、そうですね。なら、安心です」
「フィアもクラリス妃に手紙を届けてあげたらどうだ?」
「はい、そうですね」
フィアに手紙を返せば、久々のクラリス妃からの知らせにとても安堵したように手紙を抱きしめる。
「マティ兄さんならもっと事情を知っているかもしれないし、ちょっと聞いてみようか」
「は、はいっ!辺境伯さまですものね!」
まぁ、報告は俺が挙げているので、俺も多分知っていることだけど言わないでおこう。
ダイニングに入れば、久々に身を持ち直して素顔を見せているマティ兄さんが目に入る。
「あれ、仮面はもういいの?」
「うん、お兄ちゃんもそろそろ現実の妹萌えに目覚めたと思うんだ!!」
バッとフィアを見つめるマティ兄さん。まぁ、本当にだいぶ慣れたみたいで何よりだが。
2次元飛び出して妹萌え起こし始めたか。これはどうするべきか・・・。
「とにかく座ろうか」
華麗にフィアをエスコートする。
「えっ!?お兄ちゃんの隣は!?」
「いや、隣はルシウス兄さん、その隣がジル兄さんでしょ?」
そして、マティ兄さんの正面がゼン兄さん、その隣が俺、フィアである。
更にそれぞれの兄たちも来てテーブルに腰掛ければ、給仕たちが食事を運んでくれる。
「妹萌えのために席替えを所望する!」
「却下」
※俺
「え~、せっかくセシナたんの正面なのに~」
※ルシウス兄さん
「俺も斜めだが、斜めからのセシナもいい」
※ジル兄さん
「お兄ちゃんもセシナくんの横で満足ですよ」
※ゼン兄さん
「満場一致な」
「いや、フィアちゃんは!?」
「あ、あの、その、私はセシナさまのお隣であればいいです」
「ぐはっ」
マティ兄さんが天を見上げた。
「あの、セシナさま?」
「あぁ、気にしなくていいよ、フィア」
フィアが俺の隣がいいというのならば、俺もこの席で別にいいので席替えは却下と言うことだ。
「それとも、家長が本来座る席に行く?」
ダイニングテーブルの側面ではなく、一番の上座。当主の席。
「いやあああぁぁぁっっ!!!何かお兄ちゃんだけ疎外されている気がするもぉんっっ!!!」
無駄に長い我が家のダイニングテーブルは12人席である。俺たちはその真ん中でそれぞれ向かい合って座っているため、上座に座ればマティ兄さんだけがすっごく遠くなる。俺たちが近づけばいいのだとも思われるかもしれないが、ここが一番日当たりがいいし明るいのだ。
まさかの当主席は一番日陰者なのである。誰だ、この屋敷設計したのは。
とまぁ、兄の寂しがり屋な提案を受けて俺たちはそれぞれ向かい合って食事をとっている。
「あ、そう言えばフィアちゃん。手紙が届いててね」
「お手紙、ですか?」
マティ兄さんが現実逃避から暫く帰ってこないので、ルシウス兄さんが手紙を差し出す。元々はマティ兄さんから出そうとしていたものだろうな。
「今日、叔母上とディアちゃんがお茶しに来るって。あと、セシナの友だちのレティちゃんって言うフィアちゃんに年齢の近い令嬢も紹介するって言ってたよ」
「同世代の方ですか・・・仲良くなれますかね」
「うん、大丈夫。いい子だから」
「それなら安心ですね!」
え?ちょっと待って。今日?
「あの、聞いてないんだけど」
と、俺。
「だって今日届いたんだもん。ねぇ、マティ兄さん」
「う~ん」
ルシウス兄さんがマティ兄さんの肩をぐらぐら揺らすとかすかに肯定の声がした。
「いや、事前に言えよそう言うの」
「叔母上的には実家に帰るだけだから別によくない?って考えなんじゃないかな」
さすがは甥、わかっている。
―――だってウチの父さんもそうだからっ!!
「あ、適当にお茶菓子とスペース取ってくれればいいって言ってたから、特に気にしなくていいと思うけど」
ぐっ、ルシウス兄さんめっ!絶対ハーパンショタっ子のレオが来るとなったら気にしまくるくせにぃっ!!




