王国の顛末
「それで、あっちはどうなったんだ?」
「無事に、人間の前国王夫妻は公開処刑されました。彼らはかなり抵抗していたようですが」
書斎にて、椅子の傍らに黒い影が舞い降りる。
「はっ、抵抗か。まぁ、潔く罪を認めるような奴が人道に反する犯罪に手を出すはずないか」
「吸血鬼の道にも反しますが」
「ま、そうだな。吸血鬼の王である叔父上に内密に吸血鬼の公爵一族と取引するだけでも叔父上に対する反逆行為なのに、その他違法な行為にも手を染めていたとなってはな。最終的な罪状はどうなったんだ?多分父さんがあっちに行っているなら、徹底的に吐かせることもできたんだろう?」
「えぇ、もちろんです。調査後我らが王も立ち合いのもと、改めて罪状が国民に知らされましたから」
俺はナルから書類を受け取る。えぇと、なになに?
・魔獣の不法売買
・人間の孤児の不法売買
・吸血鬼の血による不老の妙薬の提供
・王城内への吸血鬼の公爵家のスパイを招き入れ、王太子妃を不当に操ろうとした疑い
・カイム元第2王子の即位のため、アルノルト王太子を吸血鬼側へと誘拐しようとした疑い
・カイム元第2王子の妃にするためにフィアナ・フローリアを違法に攫おうとした疑い
「随分と、増えたな」
最後のは俺たちがふれあい合同演習のために留守にしている中、ローゼンクロス辺境伯領に潜入しようとしたやつらをゼン兄さんと部下たちが無事確保して処分したそうだ。あぁ、しかしながらフィアの不在も確かめずにやってきたとは何たる間抜け。
ブリックウォール辺境伯領を必死に隠れて抜けてきたんだろうが、まさかそこから既に目を付けられていたとは思うまい。
「それによりにもよってお留守番がゼン兄さんとは。哀れではあるものの同情の余地はないな。フィアを無理矢理連れ去ろうとしたんだ。相応な報いだろう」
あの解剖厨に捕まったのだ。行きつく先は・・・想像できるだろう?
「え?セシナさまに捕まった方があれじゃないですか?」
「え?どういう意味?」
「いえ、別になんでもないです!」
普段仏頂面のナルのその満面の笑みは何だろう。
「まぁ、それならいいけど」
そして魔獣の売買。監督するのはあの没落させた公爵家に仕えていたブリーダーなのだろうが。でもあそこで飼われていた魔獣の管理は酷かったからな。あちらにやった魔獣も酷いものだったのだろう。
まぁ、基本的に俺たちに従う魔獣はもともと“眷属”として仕える魔獣と、“準眷属”と呼ばれて吸血鬼に従うことを誓った魔獣たちだ。
その眷属に酷い扱いをする時点でダメだろう。因みにあの家で飼われていた魔獣たちは保護して周辺の叔父上に従順な貴族たちに任せて、今は毛艶もよくふっわもふになっているそうでめでたしめでたしだが。
そのため、吸血鬼の自治区の魔獣を売買することは基本禁止だ。だってそれは己の眷属を売り買いすることになる。それは吸血鬼の道に反するだろう。
人間の王国に常駐する吸血鬼の特派員の専用魔獣などは叔父上の許可の元できちんとした管理の元、彼らの主人と暮らしているので問題ないけれど。ブリックウォール辺境伯領にもウチの部隊の一部を叔父上の許可の元派遣して連絡係にしているから魔獣とその主人の騎士や文官が常駐している。確かリオもあちらで1匹飼ってたな。基本的に専属の主人のいない魔獣はあちらに滞在できないのだ。
―――そして、孤児の不法な売買。つまりはあの元国王夫妻。吸血鬼からの見返りを得るために、ブリックウォール辺境伯領をわざわざ介さず隣国を通じて売買していたらしい。つまり吸血鬼の“エサ”として売っていたのだ。どうやらあの吸血鬼の元公爵家には、吸血嗜好主義者が多かったらしい。
ウチに潜入させた時とは違う。集団で子どもを売買していれば目立つから、ブリックウォール辺境伯領は通れない。
あの家に売られた子どもたちは保護したが・・・無事に人間の土地に戻されたとしても果たしてまっとうに生きていけるかどうか。まぁ、元々は人間の王家がしたことだ。ウチはもうその種を根絶やしにした。あとのことは売り払った新王夫妻が担うことだろう。新王政権に変わったところで今までの王家の罪が帳消しになるわけじゃない。そこはしっかりと自覚してもらわないとな。
「不老の妙薬、というのも本当なのでしょうか」
「さぁ?吸血鬼は他者の血を飲んでその力の一部を受け取れるものもいるけれど、人間に同じことができるとは思わない。催眠でもかけられてたんじゃないか?」
「あり得ますね。随分とやつれてましたし」
「牢に入れられてたんじゃなくて?」
「多分大旦那さまのせいもあるでしょうが」
「あぁ、そっか」
尋問の際に血を通して色々とやったんだろうなぁ。
情けはかけないが。
―――王太子妃の方は・・・
「こっちは、吸血鬼の元公爵家の手勢を潜入させようとしたんだろうが」
「あぁ、大奥さまたちが周りを固めてましたね。何か気に入っちゃったって言って猫かわいがりしてましたよ」
「え、何してんのあの母親たち」
大奥さまたちと言うのはもちろん俺たち兄弟の母3人だ。父さんが動いていたなら、あの3人も一緒に便乗してたとしてもおかしくはない。
「俺の母さんのことは、あの元バカ王は気が付かなかったんだ」
「バカだったからでしょうね」
「あ、そう」
まぁ、気が付いて手を出そうとしたら他の2人の母親たちが許さないだろうし。ウチの母3人はよくある関係最悪な正室と側室の争いみたいのはない。何であんなに仲がいいのだろうと思いつつも、俺たち兄弟関係もそれに似たんだろうし、どうして仲がいいのか聞かれてもいいもんはいいんだと答えるしかないので放っておこう。
「あと、フィアナさまに会うのも楽しみにしていると」
「じゃぁ、フィアを取られないように対策しないと」
「応援だけはしています」
「だけ、かよ」
いや、あの母たちに抗えとは言わんが。
「というか、王太子の誘拐だなんてすごいコト考えたな」
「殺すよりも、吸血鬼のエサにした方が至高の血を提供してくれますからね。人間側の王家の直系ですから」
「違いない」
恐らくカイム元第2王子を次期国王に目論んで誘導したのも吸血鬼の元公爵家だろうなぁ。無能な王の方がよりよく操れるから。
「でも、バカを相手にするって疲れるんだよ。知ってた?アル兄さんが人間の王城に行って帰ってきた後に言ってたんだけど」
アル兄さんとは、従兄で吸血鬼側の王太子の名前である。
「確かに、それもそうです」
「よりにもよって叔父上の・・・吸血鬼の王の剣が付いている時に画策したんでしょ?バカだな」
「バカですね。それに気が付かないあの消滅した公爵家の者も」
「まぁ、気が付くほどの賢い者たちならば手は出さないだろう?叔父上がわざわざ目をかけて王の剣を派遣していたんだから」
血統だけを重視して知識をおろそかにするとは何たる体たらく。
「えぇ。因みにその王の剣と大奥さまたちは暫くあちらにいるそうですよ。監視と趣味を兼ねて」
趣味って・・・。母さんたちだけじゃなくて父さんも気に入ったのかなぁ、あの王太子夫妻。いや、もう新王夫妻か。琴線に触れると途端にやる気出すからな。
「そう。で、カイムの方はどうなった?」
「あちらもある意味公開処刑ですね。直接的に犯罪に手を染めてはいませんでしたが、フィアナさまやフローリア公爵家相手にやらかした罪は消えません。フローリア公爵自ら公開でぼっこぼこにされていました」
「あはは、そうか」
散々娘に手を出されたわけだからな。多分仕組んだのは父さんだろうが。
「その後、一生涯“塔”に幽閉されるそうです。公爵は修験院に送ることも進言したのだそうですが、同じような訓練を塔でさせればいいと旦那さまが提案しまして。その方が迷惑かかりませんからね」
「へぇ、何やるの?」
「一日一食に付き、塔を30周往復しないと食事が出ないと言う隷属魔法を掛けたそうです」
「鬼畜だな。まぁ、因果応報だと思うからいい気味だと思うけど」
塔がどのくらいの階層なのかはわからないが、まぁ、修験院と同じくらいだと言うのだから、相当な苦行なのだろうな。
「相手が旦那さまとセシナさまじゃなければ、もう少しマシだったのでしょうかね」
「いや、それなら公爵が修験院に入れるから、同じだろう。というかそれ以上じゃないか?」
隷属魔法で強制的にそうさせられるんだから。




