ローゼンクロス辺境伯一家の事情
「フィア、今度、約束していたブリーダーのところへ行こうか」
「はい、セシナさま。楽しみです」
ふれあい合同演習とバーベキュー大会を終え、俺たちはフローリア公爵家とブリックウォール辺境伯家の人々に別れを告げ、再びローゼンクロス辺境伯領に戻ってきていた。
フィアを書斎に呼んだ俺は、共にソファに腰掛けていた。
「もふもふ、たくさんしたいです」
キラキラと目を輝かせるフィア。やっぱり尊い。そして唐突に書斎の扉が開く。
「セシナよ」
何カッコつけてんだ、2次元妹ヲタ。という本音はさておき。
「何か用?」
せっかくかわいいフィアを愛でていたのに。
「お兄ちゃんは決意した」
「はぁ」
俺とフィアの座るソファの正面に腰を下ろした2次元妹ヲタ・・・じゃなくてマティ兄さん。
「フィアちゃん」
マティ兄さんは唐突にフィアに仮面越しに視線を向ける。
因みに今は顔の上半分を覆い目元のみを隠す仮面を付けている。
「はい。マティお兄さま」
「ひゃぅっ!!いい響きっ!!お兄さまだなんてっ!」
仮面を付けているくせに両手で顔を覆って照れ始めるマティ兄さん。
「あの、マティお兄さま」
伸ばしかけたティアの手を、俺がそっと掴む。
「やめておけ、フィア」
これ以上はマティ兄さんに更にご褒美を与えるだけだ。ただでさえ2次元妹ヲタなのに最近はフィアに対しても妹ヲタを発症し始めた。いや、これは辺境伯家としては吉にでるのか?女性アレルギー克服に繋がる第一歩なのだろうか。いや、確実に違う方向に突っ走っている気がしなくもないけれど。
「セシナさま?」
フィアは気が付いていないのかこてんと首を傾げる。本来ならば、目の前のソファーの上でゴロゴロと悶えている妹ヲタには見せたくないかわいらしさなのだが。
「見てくれ、フィアちゃん!」
「あちょっ、マティ兄さっ」
止めるのが一足遅かった。
マティ兄さんは勢いよく立ち上がったと思えば堂々と仮面を取っ払い、その美しい顔をあらわにさせたのだ。
「・・・っ」
俺と揃いのルビーのような双眸をフィアに向けるマティ兄さん。マティ兄さんをまっすぐに見上げるフィア。
そして。
「ぐふっ♡妹の御尊顔が尊いっ!」
※完全にテンパってるので語句の使い方や文法などについては無視してください
マティ兄さんは別の意味でソファにうつ伏せに突っ伏した。辺境伯の威厳も何もねぇっ!!
「あの、セシナさま。マティお兄さまは」
「あぁ、大丈夫大丈夫。そのうち補佐の誰かが回収にくるから」
多分休憩時間なんだと思うが、マティ兄さんの執務を手伝っている補佐の誰かが時間になったら仮面ごと回収にくるだろう。
「そうだ、フィア。ウチの家族構成について、まだはっきりと伝えていなかったと思うけど」
「はい、セシナさま」
本来は先に話しておくべきことなのだろうが、フィアを迎えに行った時はそんな余裕はなかったのだ。
「ウチさ、マティ兄さんが家督継いでるけど。前辺境伯のウチの父さんって、妻が3人いるんだ」
普通の吸血鬼なら伴侶はひとりの場合が多い。伴侶をその体に流れる血の一滴をも含めて大切に扱う吸血鬼はその傾向が多いのだが。一部特殊な吸血鬼はそのような枠組みに収まらない場合がある。
「まぁ、兄さんたちが純血鬼で俺が混血な時点で予想はついていたと思うけど」
「では、お母さまが全員で4人になるのですね。楽しみです」
え?そ、そう?嫁姑問題とかは気にしないんだろうか。いや、あの母親たちはそんなタイプじゃないけども。
「俺はあんな甲斐性はないし、フィアが唯一だから妻に迎えるはフィアのひとりだけだが」
「つ、妻っ」
フィアが途端に頬を桃色に染めて俯く。そんな仕草ですら愛おしい。これはやはり吸血鬼の独占欲だろうか。
「まぁ、父さんはいろいろと特殊な能力を持つ吸血鬼だから事情があってな」
「特殊、ですか」
「うん。その血を俺も受け継いでいるわけだけど」
「セシナさまはセシナさまですよ?」
自然に俺の手に掌を乗せて見上げてくるフィア。この子は、本当に・・・―――
「少し驚くかもしれないけれど、見ていて」
「・・・はい」
突然の話に戸惑ってはいるようだが、フィアはコクリと頷く。それほどまでに信頼してくれているのだろうか。
―――すぅっと息を吸い込み、魔力をいつも以上に体全体に浸透させれば、俺の髪はまるで色が抜け落ちたように白く染まり、肌は吸血鬼に多い血色の薄い青白いものへと変化する。
「これが、もうひとりの俺だ。魔力を高めたり、外から取り込めばこういう姿になる。父さん曰はく、ウチの始祖の外見に限りなく近いそうだ」
白髪紅眼の吸血鬼。父さんの場合は昼間はマティ兄さんと同じプラチナブロンドに近い髪色に見えるが、夜はよりいっそう白く色の抜けた色に近づき白くなる。
「私はどのセシナさまも大好きです」
ぐはっ。やっぱり天使か何かなんだろうか、フィアは。
「ヤバいな。やっぱり放せそうにない」
そっとフィアを抱き寄せれば、少し肩を震わせつつもフィアが身を委ねてくる。
それほどまでに信頼してくれたと言うことだろうか。昔一度だけ会い、そしてまだこちらに迎えてそんなに経っていないのに。こんなにもフィアは・・・
「あぁ、“お兄さまだい好き”かぁ、妹っていいっ!」
せっかく感慨にふけっていたのに。妹ヲタ兄は勝手にセリフ変換をしだしたらしい。てか、もう追い出してもいいだろうか、この妹ヲタ。
そう思っていた頃にマティ兄さんの補佐たちがやって来て、無事にマティ兄さんを連れて行った。
「ご迷惑をおかけしました、セシナさま」
「いや、いい。お前たちも大変だな」
そう声をかけてやれば。
「慣れています」
と、答えが返ってきた。まぁ、そうだよな。父さんの頃からいてくれる者たちがほとんどだし。はぁ、父子2代揃ってこうなのだから、多分これはウチの遺伝なのだと思う。
「あの、セシナさま」
補佐たちがマティ兄さんを回収していった後、不意にフィアが声をあげた。
「フィア?苦しかった?」
少し抱擁を解いてフィアの顔を覗き込めば。頬が真っ赤に染まっていた。
「風邪か?」
「い、いえ、そうじゃなくて」
「そろそろ、フィアさまを回収していいですか?」
音もなく、エリンが傍らに立っていた。
「え、何で」
「時間制限があるので」
「初耳なんだけど」
「続きは夕食後にお願いします」
何だか腑に落ちないが、一旦エリンにフィアを任せて別れると書斎の椅子に腰掛けた。
「セシナさま」
その傍らに跪いたナルが現れる。
「大旦那さまより。無事、退位と即位の算段が整ったそうです」
「そう、あっちも無事終わったか」
「えぇ」
ならば更にフィアとの将来が安泰と言うことか。ま、それに越したことはないけれど。
※私用により次回更新少し遅れます。多分夜になるかと思われます<(_ _)>※




