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【完結】辺境伯一家吸血鬼5人兄弟の混血の末っ子と余りものの人間の姫  作者: 瓊紗(夕凪.com)


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夜闇に紛れるもの

※今回は第3者視点の提供でお送りします※

※流血シーンや残虐的なシーンがございます※

※誤記修正しました※



救血院という名の俗世から切り離して生きる彼女たちの住まいを後にして、夜闇に紛れ闇色の太刀を濡らす鮮血を振り払うように拭えば。夜風に白い髪をなびかせ闇の中で怪しく揺らめくルビーのような双眸がもう闇に紛れる影を捉える。


「どう言う風の吹き回しかと思ったら。随分と物騒な思想をぶちまけてきたよな、父さん」


「えぇ~?どこら辺が?」

静寂の闇の中で、憂晴らしのごとく言葉をつむぐ息子に、“父”と呼ばれた美しい闇の眷属がわらう。昼間はプラチナブロンドに輝く美しい髪は、今は夜闇に全て色を吸いつくされたかのように白く、赤く妖艶な双眸は見る者すべてを魅了する。雪のように白い肌に計算しつくされたかのような端整な顔立ちの美麗な男だった。ほっそりした体に夜風を纏うようにくるくると回れば、横に広げた細くしなやかな腕と指先が際立つ。


父子おやこは闇の眷属に相応しい闇色の装束を身に纏い、かつてその場所にあった豪華絢爛な古城など、最早見る形もない哀れな残骸と成り果てた荒れ地に立っていた。


「全体的に。エサ場理論とか、人間放牧王国思想とか本当にやめてよ、もぅ」

そして、そんな夜闇の静寂に似合わぬ会話をし出す。そしてその場に紛れるいくつもの闇の眷属が愉快そうに嗤う声が響く。


「えぇ~、面白そうじゃない?そう思わない?」


「叔母上にチクるけど」


「むぅ~、お父さんの妹にチクるのは反則ぅ~」


「都合のいいことばっかり」


息子はそう言って溜息をつくものの、数ある吸血鬼の能力のひとつを披露してきた父親は軽快にわらう。


「ふっふっふ♪それにしても久々に楽しかった。あれはある意味人間国宝ものだよ」


「はぁ~。あれが人間国宝になったら世も末だよ」


「それに今のもねぇ」

父親が目を向けたのは、人間の王族が暮らすと言われる方角。


「何かやる気?」


「そりゃぁ、吸血鬼だもの。伴侶に手を出されたら徹底的にだよ?教えたでしょ?」


「自分の血が知ってるよ。半分とは言え誰よりも濃い父さんの血が流れているから」


「そうだねぇ。だからお父さんも行ってこようかな?」


「母さんと何かあったの?」


「何かってほどじゃないけれどね。昔、お母さんのことを妾にしようとしたからさ。その時に散々教えてやったのに、それを忘れてのうのうと生きているんだよ?許せる?まぁ、かわいい義弟おとうとが止めるから殺戮劇場はやめて人間放牧牧場はそのままにしといてあげたけど~」

そのかわいい義弟おとうとは既に成人しており、子持ちのため息子はその表現に首を傾げるが。


「だから放牧牧場はやめてって」


「でもね、また出したでしょ?かわいいかわいい義娘むすめにね。だからもうだぁめ」


「まだ紹介してないけど」


「でも知ってるよ。とってもかわいい子だね。お父さんの趣味とそっくり」


「心外」


「ひどぉいっ!」


「言っとくけど、“王太子夫妻”は」


「知ってる♪だから生かしてあげるよ。せいぜい愚鈍な子孫を作らないようにって忠告しないとね。だって、そうしないとせっかくの人間放牧牧場が瓦解してしまうでしょ?せっかくおいしい貴重な最高級の血なのに人間が大好きな革命とかで処刑されたらもったいないもの」


「結局はそれかよ」


「でも、ギルくんは大満足なようだね」


「まぁな。直系のお姫さまの血を毎日飲めて本当に幸せそうだよ」


「相当気に入ったみたいで安心したよ~。あ、それでそれはどうするの?」


「ん?あぁ、これ?」

息子は父親の視線を追いかけ、地面の上に芋虫のように転がる赤毛の女を見降ろす。この場で彼らの眷属以外の唯一の生き残り。


『んん~~~っ、ん~~~っ!』

猿轡さるぐつわを嵌められ鉄の鎖で大地に縫い付けられたそれは、かつては祖を同じくする闇の眷属だったもの。しかしいつの間にかその血は分かたれ、彼らはその血が求めるままに伴侶を愛し、その血を愛した。しかし彼女たちはその血を何よりも大切にし、その血を何よりも純粋に守り、薄めぬように努めた。その結果吸血鬼が持つ血の本能を忘れたその末路は、ご覧の通りである。


「まぁ、男の方はさっさと処分しちゃったけど、こっちは需要があるから。もうすぐ着くと思うけど」


「あぁ、聞いてる聞いてる。ウチでやらかしてくれちゃった子でしょう?君が悪いコトしなければただ単に飼い殺しにするだけで済んだかもしれないのにね?伴侶に手を出されたら徹底的にやるのが吸血鬼。だからこそお互いの伴侶を傷つけることはしない。ん?なぁに?あぁ、“知らなかった”って?」

父親がぢゅるりと唇の下から垂れた彼女の血を舌で嘗めとれば、その思考を読んでわらう。


「そうして何も知らないイリスを罠にめたのは誰だったっけ?」

息子の方は大体突っ走りまくって失敗するものの、ごくごくまれに素直になると割と根の良さがにじみ出る幼馴染みの名を告げる。


『・・・っ!!』

その名を聞いて赤毛の女が目を見開いた。


「お前が男に命じてちょっかいを出したんだろう?ちょっかいだけならいざ知らず、彼女を殴って血を出させたのはお前だ。吸血鬼なら吸血鬼なりのルールであがなえ」

炎のような色の瞳で凍てつくような視線を投げかけられ、赤毛の女はビクッと肩を震わせる。


『~~~っっ!』


「さて、着いたようだ」

女が何かわめいているようだが、気にもせず父親が飄々と告げた先には新たな闇の眷属が闇の中から現れる。闇に染まる漆黒の髪に月と同じ色の瞳を持つ青年騎士は、その女の前に立ち刃を突き付ける。



『~~~っっ!!?』


「君のこと、知らないんだって」


「そうですか。言っておきますが、そう言ってお嬢を、イリスを傷つけたのはあなたです。情状酌量の余地はありませんね」

先ほどの血を嘗めとった影響で心の声が聴こえている父親が飄々と告げれば、青年騎士は我関せずと言う雰囲気で続ける。


『んんっ!!』


「殺さないでって言ってるよ」


「すみませんね。一応痛めつける予定があればと、先代辺境伯さまにお願いしていたのですが抹殺のお沙汰が下りましたので、死んでくださいね」


『~~~っっ!!?』


「あ~ぁ、俺の人間放牧牧場にさえ手を出さなければこのまま隠居して平民として暮らすこともできたのにねぇ~。もったいない」

彼女たちの一族は古き良き血統を受け継ぐことを何よりも大切にしてきた。そして欲を出した。その血を確実に絶やさず、そして高潔に生きるために最も優れたエサを王の目を盗んでこっそりと独り占めしようとした。


「だから人間放牧牧場はやめてください」


「ふっふふ、でも、手を出しちゃった以上はもうだぁめ。後継の伴侶はかわいい義娘むすめのお気に入りだからね」


「これでイリスを脅かすものがまたひとつ、減りますね。俺を脅かした一族も滅びます。また安心して暮らせます」

青年騎士はそう言って目を細める。


「早く実るといいな。大変だぞ、あのツンデレは」


「それは言わないでください。悲しくなるので」

息子がそう告げれば、青年騎士はこめかみを引くつかせながらも答えを返す。


『~~~っっ!!!』


「何て言ってるの?父さん」


「ん?時間切れっ♪」


『~~~~~っっ!!!』

最期の女の叫びに、父親は無慈悲にもそう言い捨てる。そして。


「さようなら」

青年騎士の刃が、女の首を斬り落とした。


『っ!!!』


―――


小高い丘の上に、無数の闇の眷属たちがうごめいている。


「さてと、それでは全部処分しようか」

そして父親の吸血鬼がそう告げて両手を前方に突きだせば、その瞳と対極の青い炎を纏いながらかつて祖を同じくしながらも道をたがえた異形の者たちが灰燼かいじんしていく。


「よく燃えていますね」


「うん?」


「俺の両親は“こちらの”境界で隠れてひっそりと暮らしていました。でも、古き良き純血を最も尊く考えるコイツらに殺されたんです。この血の燃える匂いが教えてくれます」

全ての境界が“彼ら”が守る境界のように平和に暮らしているわけではない。古き良き純血を守ってきたこの血の境界は不純を許さなかった。


「来る日も来る日も追われ、父は殺され、人間であった母は狩人ハンターでした。俺を守るために必死に。俺も大怪我を負った。死ぬのかと思いました。でも、生きていた。俺は運がいいのか悪いのか、川に投げ出されてそのまま流れ着いた場所が、あちらの境界でした。どうして生きていたのか、これも吸血鬼の血の恐ろしさなのかもしれません」


「だけどそのおかげで、君は伴侶を見つけられたんでしょぅ?それも運命かもねぇ」


「だと、いいんですが。先は長そうです」

安堵の吐息なのか溜息なのか、青年騎士はほっと息を吐き捨てると改めて青く燃える炎に目を移す。


「ありふれた物語のように吸血鬼は太陽に晒されて灰になって死ぬことはないのですよね。斬られて死んでも自然に灰燼に帰すことはない」


「あぁ、人間放牧牧場でいつの間にか広まっていた話?あれ、面白いよね。ニンニクが嫌いとか?」

おどけたように父親が嗤う。


「ニンニクはしっかり料理すればおいしいですよ」

と、息子。


「聖水が弱点とか」


「俺、聖水作りなら得意ですけど」

と、再び息子。


「あ~ぁ、最期に謝るから助けて欲しいだなんて願うなら、あんなことしなければ良かったのに」


「聞こえてんじゃないですか、最期の言葉」


「あはっ、本当だぁ~」

息子の指摘に、父親は再びケラケラと嗤うのだった。


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