ソフィアンナの顛末
※吸血シーンあり
※ソフィアンナ視点のお話
―――ここは、どこ?
私は、どうなって。
目を開ければ、そこは粗末な小さな部屋だった。
『何だ、今日は目を開けているのか』
だれ?目の前に現れたのは美しい女性だった。私よりもだいぶ年上。シスターかしら?
―――あなた、だれ?
口を開けようにもしゃべれない。
手を動かそうにも動かせなかった。
『自分のこと、覚えてるかい?』
私?私は、私は・・・だれ?
でも、首を振ることもできない。
『まず、簡単に説明しておくけど。ここは救血院さ』
は?何それ。聞いたこともない。
『こんなところに人間の娘が入るとはねぇ?何でもアンタの希望だって聞いたけど』
は?人間の娘って、どういうこと?
私の希望?そんなこと知らない。私は知らない。何も知らない。
『ほら、腕だしな』
そう女が言うと、いきなり私の腕を掴み持ち上げた。そして台の上に乗せると、その腕に注射器を突き刺したのだ。
ひいいぃぃっっ!?血が、血が吸われてっ!?
『何だ、目だけは動くのかい。そんなに驚くことかね?アンタ自身が希望したんだろ?吸血鬼が欲しいって』
そうよ。私は美貌の吸血鬼たちに囲まれてハーレムを。ハーレム?私のハーレムはどこ!?どこなの!?視界を目一杯探ると、あれ血を吸われているのとは反対側に、何か透明な液体が入ったパックが吊り下がっている。そこからチューブが伸びて、私の腕に刺さっている・・・?
『安心しな。それがあれば栄養補給はできるからね。吸血鬼の中にはヒーリング魔法を使えるやつもいっぱいいるからね。それと吸血鬼のヒーリング魔法を合わせれば、まぁ寿命くらいは全うできるんじゃないかい?』
は?私、ずっとこのままなの?動けないままなの!?どうして!?
それに、何で吸血鬼のヒーリング魔法なの?
『あんたの血は人気だから。もうすっかりお得意さまも付いちまった。一応、最初は注射器で血を抜いてお試しで提供するんだけどね。そのうち、直に飲みにも来てくれるさ』
直にって、何?どういうこと?
しかし女は私の血の入ったボトルを持ってどこかへ行ってしまった。
どうして、どうして、どうして?
私、これからどうなるの?
それから、どのくらいの時間がたったかわからない。部屋に誰かが入ってきたようだ。またあの女だろうか。瞼を開けた瞬間、息を呑んだ。私は、まだ息を呑めたのか。目の前には見知らぬ男。
しかも、顔に大きな醜い傷がある。だれ?あなただれ?
近づかないで。お願い、来ないで。
『そんなに脅えるなよ。アンタ、望んでここに来たんだろう?そう聞いたぜ。人間ってのは吸血鬼を恐れるもんだと思っていたが、自ら血を吸われに来るなんて滑稽としか言いようがない!!あっはははははっっ!!』
男は笑った。
何を、言ってるの?私はハーレムを作って優雅な暮らしを謳歌しに来たのよ?何で吸血鬼に血を吸われに来なきゃいけないの?
やだ、やだ、来ないで。私の血を、吸わないで。
しかし体は動かない。男は私の体に覆いかぶさると、その首筋に牙を突きたてた。
いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っっ!!!
―――
あれから幾日が経っただろう。毎日毎日栄養剤を注射され、ヒーリング魔法を掛けられ、見知らぬ吸血鬼が私の血を吸っていく。どういうこと?ここはどこなの?どうして私、ここにいるの?
そんな時だった。目の前で笑い声が聞こえた。今さっき私の血を吸った吸血鬼の声だった。
『お前、それマジなの?クックックッッ!あぁ、おかシイ!笑える話だなぁ!あ~っはははははっっ』
何?何なの?
『あのな、吸血鬼には血を吸うことで特別な能力を得る者がいるんだよ』
何それ、そんなこと、知らない。
『ここに吸血鬼に血を吸われるために入った物好きな人間の娘がいると聞いて寄ってみれば、お前、ここがどういうとこかも知らねぇの?』
どういうこと?
『俺は、血を吸った対象の心の声を一定期間聞けるんだよ』
はぁっ!?じゃぁ、助けてよ!今すぐ私をここから出してよ!
『やだね』
何で、何でっ!
『まずはここの話からしようか。ここはな、救血院。吸血鬼に血を捧げる場所。未亡人となった吸血鬼、俗世から足を洗い出家した吸血鬼の女たちが、同じく伴侶を喪った吸血鬼や血が大好きな吸血鬼たちに血を恵んで奉仕するところだよ。ま、それ以外は大体人間のとこの修道院と同じだね。アンタ動けないみたいだけど他の吸血鬼の修道女たちは普通に生活してるぜ』
な、何よそれ!私、未亡人じゃない!出家もしてない!
それに、私だけ動けないって何!?そんなの聞いてない!
ずるいずるいずるいずるいずるいいいいぃぃぃっっ!!!
『でも、望んだんだろ?』
望んでない!こんなところ望んでない!私は吸血鬼に囲まれてハーレムを作って楽しく暮らすの!
『お前、吸血鬼に囲まれて何がしたいの?』
は?
『吸血鬼が吸血鬼たるゆえんは、吸血するからだよ。そんなこともわからねぇでよく生きてこられてたな、人間の女』
吸血なんて知らない!私はイケメンに囲まれてっ!
『あんなぁ、吸血鬼が何でみんな見目麗しいか、知ってる?』
私を楽しませるためでしょぅ?
『何だ、その考え。ウケるんだけど。んなわけねーだろ。その見目麗しい見た目でエサを吊るためだよ』
は?エサ?
『お前らは、俺たち吸血鬼に血を捧げるエサでしかない。けど、飼育したら飼育したで反乱を起こすからなぁ、お前たちのような知能を持った人間どもは。だからさ、放牧してんの。この王国みたいにね。甘い汁を与えて懐柔すれば、呑気に放牧されちゃってあぁ愉快だねぇ、人間ってのは』
何を、言ってるの?放牧?何のこと?
『あ、そーだっ!イイコト考えた。人間みんな、アンタみたいに動けなくして飼えば反乱なんて起こす心配なくなるし、永遠に血を飲み放題!ね、いいと思わない?楽しそうでしょ?まさに吸血鬼のパラダイス!』
パラダイス!私は、私は吸血鬼に囲まれたパラダイスに行くのよぉっ!そこに行くべき選ばれた人間なのよぉっ!!!
『だから、アンタ。ちゃんといるじゃん。そのパラダイスにさ?さぁ、外の世界も同じようにパラダイスにしちゃおうかっ!あぁ、楽しみ楽しみ!!』
何を言ってるの!?パラダイスには私以外はいらないのよっ!!
『へぇ、じゃぁ、君が一人でずぅ~っとここで俺たちにパラダイスをくれるのかな?ふふふっ院長にもそう伝えとくよ。きぃっと喜ぶねぇ』
ちょっと、待って!私ずっとこのままなの!?助けて、助けて、助けなさいよぉっ!!
私は、私は・・・
ソフィアンナ・フローリアよ!!!
『そう、やっと思い出したね』
え?
『忘れちゃダメだよ?君の犯した罪。ま、これから訪れるパラダイスにまた忘れそうになっちゃうかもしれないけど、それもある種の報いだよね。それじゃ』
ちょっと、どこへ行くの!?置いていかないで!置いていかないでよおおぉぉぉっっ!!!
そして暫くすれば、別の男がやってくる。あくる日も、あくる日も別の男がひっきりなしに。
あの男のような心を読める吸血鬼は、二度と来ることはなかった。




