ベラドンナの慈愛
※お食事時には見苦しい描写がございますのでご注意をっ!
※ウザっ子の最後の悪あがき回っ!
※今回は第3者視点でお送りいたします。
賑やかなバーベキュー大会の声がこだまする中、ひとつ解体されないままの薄暗いテントの中を訪れる爛滕のおぼろげな光とひと影があった。
「あらあら、おもらししちゃったようね。いけない子」
そっと爛滕を下に降ろし、しゃがんだその女性は静かに横たわる少女に視線を落とす。嗚咽を漏らしながら、その少女は何故、このひとがここにとでも言いたげな表情で目を見開いていた。
もうひとりの“役”の少女とは違い、彼女は何も知らされていなかった。今日は何の日なのか。ここにいた恐い女たちは何者なのか、もうひとりの少女は何のためにここにいたのか。自分が何のためにこんなところで見るも無残な姿で転がされているのか。
濡れた短い髪は乾いて来てぼさぼさが目立ち、肌は痩せこけ、服はボロボロ。下半身には液体がそのまま異臭を漂わせながら残っている。
別邸に軟禁されていた少女は不意に監視の騎士が全て別邸を引き払ったため、逃げられると踏んだのだが。次の瞬間踏み込んできたのは、自分よりもはるかに見目麗しい武器を持った女たち。少女は嫉妬した。自分よりも美しい人外の存在たちに。
そう、呆けている間に腹を殴られ気絶させられ、気が付いたら足を鎖で止められこの場所にいたのである。少女からしたら訳が分からない状況だった。
しかし、誰も少女には何も教えなかった。ただその“役”として扱った。彼女がもう少しまともなら、誰かが教えてくれただろう。いや、そもそもこんな目には遭わなかっただろう。
何もわからぬまま自分を攫ってきた女たちが姿を消し、更にはもうひとりの少女も美麗な混血の青年騎士にエスコートされ、他の騎士たちと共に去ってしまった。いくら叫べども誰も来ない。誰も助けに来ない。空が暮れなずみ、楽し気な声が響く中、少女はたった一人この薄暗いテントの中に残された。
そしてたった一人、彼女の元を訪れた女性に少女は声を荒げた。
「早く、早く助けなさいよ!ベラお姉さま!私のお姉さまなんだから、妹の私を助けなさいよ!それとも・・・アンタが、お前が黒幕なの!?私にこんなことをしてただで済むと思っているの!?何か言いなさいよ!早く鎖を解いて、ここから出して!お風呂に入れて、肌をエステで磨き上げて、ステキなドレスを着せて、お化粧して、宝飾品で私を飾るの!私は選ばれたお姫さまなの!麗しの吸血鬼の王子さまが迎えにくるの!」
最早何を言っているか意味不明だが、目の前の美女・“ベラドンナ”は柔和に微笑みかける。
「イリスだけなんて許せない!イリスだけ混血とは言えイケメンの吸血鬼にエスコートされるなんて許せない!私はイリスのよりもカッコいい純血の王族の吸血鬼と結婚するの!そしてイリスが食べていた貧相な食事の何倍も豪華な食事をとって・・・あぁ、私のためにお金も必要ね。宝飾品も、ドレスも・・・イリスのよりもたくさん豪華なものを集めなさいっ!今すぐによっ!」
「ソフィ」
「はやぐううううぅぅぅっっ!!!」
「ソフィは」
「何しているのよ、早くしなさいこのクソババァっ!私は美しいの!かわいいの!アンタみたいな淡い色褪せた髪じゃない輝かしいブロンドヘアーを持つ美少女なのよ!早くしなさいよ!ウスノロ!!」
「吸血鬼がいいの?」
「そうよ!ありったけの美麗な吸血鬼の男どもを集めて、私に献上しなさい!そして私はイケメンに囲まれながら、なにひとつ不自由のないパラダイスで贅沢な生活を送るの!!」
「そう、そこまでソフィが言うなら、仕方がないわね。私がお父さまにお願いしてあげるわ」
「本当!?あぁ、大好きよぉっ!ベラお姉さまぁっ!ベラお姉さまには特別に私のハーレムで奴隷として雇ってあげるわよぉっ!!!」
「ごめんあそばせ。お姉さまはそこには行けないのよ」
「はんっ、冗談に決まってるじゃない!アンタみたいなウスノロ、私のハーレムになんて入れてやるもんか!バッカみたい!それもこれも、私に貢がなかったからよ!何もくれなかったからよ!その恨み返してやるわよっ!今に見てなさい!」
「・・・そう。それじゃぁ、元気でね」
ベラドンナはもはや精神が崩壊しているのではないかとも思えるひとの形をした得体の知れないものにも、かつての面影を重ねて最後の慈愛の眼差しを送る。爛滕を手に掲げすっくと立ちあがると、涎を垂らしながら不気味に笑い、血走った目で見上げるそれに目もくれずその場を後にする。そして闇の静寂が辺りを包むと、最早言葉を成さない奇声が辺りにこだまする。
けれど既にそこはバーベキュー大会をもよおした後全て撤収しており、たったひとつ残っていたテントも幻影のように消えてしまった闇の中で、少女だったものは脚を鎖で繋がれたまま嗚咽のような声を絞り出していた。
「これか?気持ち悪い。こんなのの血を飲みたいやつがいるのかねぇ」
「何でも、血筋だけは王家に近い一級品なんだとさ。愛好家にはモテるだろ」
「かもなぁ、一応洗浄しておこうか」
「あぁ、臭くてかなわない」
暗闇が赤や金、青い炎のように揺らめく不気味な光を宿し、魔法の呪文と共に嗚咽のような声が止む・・・。そして辺りは再び静寂に包まれた。




