イリスと素直な気持ち
「だいったい何なのよ、あの女っ!」
私は会場からセシナが持ってきたと言う骨付きチキンにかぶりつきながら悪態をついていた。
「本当に、お前猛獣だな。さっきじゃじゃ馬と言ったのは取り消す。猛獣だ」
「ちょっとリオ!聞こえてるんだから!」
壁にもたれるリオにビシッと指を伸ばす。
「当たり前だ。聞こえるように言ってんだから」
「むぅ~~~っ」
「相変わらず、痴話げんかがお好きなのね」
『痴話げんかじゃない(です)っ!!』
レティの言葉に不覚にもリオとセリフが被ってしまった。
「ふふっ、あなたも知っておいた方がいいわね。あのご令嬢は吸血鬼の中でもより濃い純血を守り続ける公爵令嬢よ。その伴侶のほとんどが王族筋なのですって」
「へぇ、血統第一主義ってやつ?私そう言うの好きじゃないわ」
「え?じゃぁ何?お前の夫は吸血鬼がいい主義は違うのか?」
セシナが何故か呆れたような視線を向けてくる。コイツは昔っからかわいくないんだからっ!吸血鬼って伴侶を大切にするって言うけれど、コイツが伴侶をでろでろに甘やかしている姿とか全く想像できないんですけどっ!?
「全くあなたたちは顔を合わせればそうやって。けんかするほど仲がいいのだろうけど」
『よくないっ!!』
ふぐぅっ、今度はセシナとセリフが被ったぁっ!!
「話を戻すけど、彼女あんまり評判が良くないのよ。今回はセシナくんがとっさに来てくれたから何とかなったけど」
「どう言うこと?」
レティが申し訳なさそうに口を開く。
「いくら私が侯爵令嬢でも家格は私の方が下だし、周りの吸血鬼に公爵家のものがいても大半は見て見ぬふりをするでしょうね。違った?」
そのレティの言葉に私は答えを返せなかった。確かに。あの場では嘲笑する声は聞こえど、誰もが遠巻きに見ているだけだった。
「私が、人間の小娘だからよ」
「だから狙われたのね」
「狙われた?私が何で・・・はっ!?私が美少女だから!!」
「脳みそお花畑かお前はっ!」
「何よリオのバカッ!」
「いいからふたりとも、それは家に帰ってからやってちょうだい」
『ご、ごめんなさい』
何故だろう、リオもレティにベラお義姉さま感を抱いたような気がするのは。
「人間を毛嫌いする吸血鬼もいるのよ。その中で、ブリックウォール辺境伯家は境界をまもる人間側の貴族として特別だから親交のあるローゼンクロス辺境伯家の社交の場に参加しているけれど。状況をわかっていない人間の子女を狙うことなんて珍しくないわ」
「大人しくしてろといったのに」
「してたっ!」
「現にルークさまの近くを離れてただろうがっ!」
「あぅ、ごめんなさい。お話が別次元すぎてちょっと抜け出した」
「あぁ、お前はもう本当に脳みそ・・・すんません」
何故かレティに目を向けられて黙るリオ。わかる、その気持ちだけはすっごくわかるわ、私も。
「まさか連れてくるとも思わなかったけど、連れてこない理由はないし。ウチも叔母上の体裁があるから、派閥じゃなくても招かないといけない家なんだ」
確か、セシナの叔母さまが吸血鬼の王妃さまだったわね。その実家として歴史ある血統家を招かなければ王妃さまが彼らを嫌ってるとか、無駄な探りを入れられそうだわ。
「でも、これであれをウチに入れない理由はできた」
「そんなことできるの?」
「そりゃぁそうだ。境界の平和が保たれているのは、ウチの辺境伯家とブリックウォール辺境伯家の親交あってこそだ。じゃないと常に緊張状態が走るし、それこそブリックウォール辺境伯家は国境を抱えているんだ。その隙に他国に攻めいられたとしたら面倒だ。こちらは自治区で人間の王政を認めているとはいえ同じ国。吸血鬼側がその中に納まっているのにも理由があるから」
「理由って何?」
「吸血鬼が求めるものと言えばひとつしかないだろ?」
彼らの生きる糧・血。
それは必ず摂取しなければならないものではないのだ。けれど中には、とある特別な血を飲むことで大いなる力を得るものもいると言う。その力にこの人間の王国の王家や貴族が関わっていると言うことかも。
「だからこそこの境界を荒らすわけにはいかないし、その息女に手を出し更には出血させたのは大いなる問題だ」
「そうね。婚約者がどうこう言いながら他者に出血させるなんて、血を何より大事にする私たち吸血鬼の中でも最低の行いよ」
セシナの言葉も驚きだが、レティの言葉を聞くと確かにそうだ。吸血鬼は伴侶というものをとても大切にする。そして吸血鬼が吸血鬼であるが故にその血の一滴すらも吸血姫たちは大切にし、無為に流すことを好まない。だからこそ、あの粗暴女が私にしたことは・・・
―吸血鬼の血を穢す行為―
彼女たちを締め出すにはもってこいってことね。
「お前が昔、イケメンがいいと言って暴れたあれとは雲泥の差があるな」
「いいでしょーが面食いでもっ!」
「はいはい、いいからいいから」
レティに言われ、大人しく食い下がる私とセシナ。んむぅ~。
「多分今頃、マティ兄さんが締め出してる頃だと思う。ことが片付いたらお前の両親と兄もこっちにくるだろ」
「よかった。みんなも無事なのね。でも、そんなことしていいの?相手は歴史ある名家でしょ?」
「ウチもそうだからだよ。だから叔母上は叔父上に嫁いだんだ」
「あ、なるほど」
「お前は、そんな名家のセシナさまにけんか売ってんだぞ」
「い~だい~っ!」
リオがいつの間にか私に近づいて、頭ぐりぐりしてくるぅ~っ!
30秒くらいやられて、やっとの思いで解放されたけど。
「何で助けたのよ」
「ウチとブリックウォール辺境伯家の関係が崩れたら困るだろ」
「確かにそうね」
「あと、血の匂いが充満するのはホストとしてさすがに見逃せない」
「言われてみればそうよね」
「それに、女の子が暴力振るわれてたら、普通行くだろ」
それでも、来てくれたのはコイツだけだったけど。倒れる寸前にコイツのお兄さんの声も聞こえたけどね。
「ば、バカ・・・」
「・・・ミンミンゼミ」
誰がミンミンゼミよ。でも怒る気にはなれなくて。
「あ、ありがと」
「別に」
そう、短い言葉を交わした後、私はお母さまお父さま、お兄さまに迎えに来てもらい、リオも一緒に念のための警護付きでブリックウォール辺境伯領まで帰還したのだった。




