ベラドンナと末の妹
「みなさん、とり押さえてくださる?」
私が女性騎士たちに声を掛ければ、彼女たちは頷いてソフィを捕えて床に押さえつける。
「ちょっとぉっ!?何で私の命令は聞かないのにベラお姉さまの命令は聞くの!?おかしいじゃない!ベラお姉さまはもう嫁いでいるのよ!赤の他人なのよ!?」
「あら、姉に向かって赤の他人だなんて、悪い子ね。私は今でもソフィを大切な妹だと思っているのに」
私、ベラドンナはかわいい妹の変貌っぷりに少し落胆しつつも冷静に慈愛の姉心を込めてソフィを見据えたわ。
「あんたのことなんて、姉だなんて思ったことないわよ!いつもいつも、フィアナにばっかり優しくして私には何もくれなかったじゃないっ!」
「じゃぁ、あなたにとって“姉”とは、何でも物をくれるひとのことを言うのかしら」
私はしゃがみ込んでソフィを見降ろした。ソフィはギロリと私を見上げてくる。
「当たり前じゃない!私はかわいいの!この世界に選ばれたの!そんな妹の私が欲しいと言っているのなら、全部寄越すのが筋ってものでしょう!?けど、私の物なのにお父さまは没収して返してくださらないし、フィアナの婚約者も何で私のものにならないの!?」
「あら、それってセシナさまのことかしら?それともルシウスさま?」
ゼンさまからのお手紙で、何だかソフィがルシウスさまに言い寄ったという情報は掴んだのだけど。
「まぁっ!ベラお姉さまも私にこそルシウスが相応しいと思うわよねっ!?」
あらまぁ。先ほど私のことなど姉だと思ったことは一度もないと言っていたのに相変わらず“お姉さま”と呼ぶのね、いけない子。そしてどうして今の会話でルシウスさまが相応しいだのなんだの言う言葉が出てくるのか不思議だわ。
大切な妹だけれど、大切な妹だからこそ。一度ゼンさまに脳みそを解剖してもらった方がいいのかしら?
「ソフィ。あなた、吸血鬼の愛が欲しいの?」
「当たり前じゃない!あんなにお美しい方は他にはいないわ!カイムもイケメンだったけどやっぱり吸血鬼にはかなわないわ!」
「なら、レナードさまはどうなのかしら?」
フィアの2番目の婚約者・レナードさまもソフィは横恋慕したのよね?
「は??レナード?あれはないわよ。カイムに比べたら豚と真珠よ」
あらあら。それを言うなら豚に真珠じゃないかしら?それに意味的には月と鼈だと思うのよねぇ。まぁ、ソフィには豚に真珠という言葉がとても似合っているとは思うけど。
「フィアナが何だか幸せそうにへらへらしているからちょっとムカついただけじゃない。それを横恋慕だのなんだのって。大体、妹の私に譲るのは姉としての立派な役目じゃない」
あらあら。この子は姉を一体何だと思っているのかしらね。
「それよりもルシウスだわ!ルシウスに相応しいのはフィアナじゃなくて私の方よ!お願いベラお姉さま、ブリックウォール辺境伯家の方がローゼンクロス辺境伯家と親しいでしょ!?私の方がルシウスに相応しいって言ってよ!ねぇ、言ってよ!妹が困ってるんだからあああぁぁぁぁ―――っ!!!」
都合のいい時だけ妹気分なのねぇ。これならウチのツンデレっ子なイリスちゃんの方が100倍いい子ね。手のかかる子だけど。
「そんなに吸血鬼がいいの?」
「当たり前よ!」
「そう・・・それじゃ、考えておくわね」
「本当っ!?」
ソフィはぱあぁっと顔を輝かせる。
「申し訳ないけれど後のことは頼めるかしら?」
私が女性騎士たちに問うと、彼女たちは頷いた。ソフィは何か勘違いをしているようだけど、少し機嫌が良くなったから彼女たちの負担も暫くは減るわよね。
「トールお兄さま、行きましょ」
「え、えぇっ!?ベラ、本気か!?」
「ほら、早く」
私はお兄さまの手を引っ張り別邸を出た。
「あの、ベラ」
「トールお兄さま」
「ん?」
「あのね、吸血鬼側にも修道院のようなところがあるのよ。あの子が希望するならそこに紹介状を書くことも考えているわ」
「修道院、か。父上もそこら辺に預けることを今、考えているらしいよ」
「なら、私もお父さまとちょっと話してみる」
「あぁ、何から何まですまないな。というかあのソフィ相手に普通に会話していたベラがすごいよ」
「だって、あの子がどう思おうと私にとっては大切な妹のひとりだもの」
にこにこにこー。
最大限の姉の慈悲をお兄さまに示したつもりなのだけれど、何だかお兄さまったら夫と同じような引くついた顔をしているのは何故かしら?
その後、ソフィはお父さまの決断によって修道院ではなく北方の修験院に送ることも考えているみたいね。もしもそれを告げても本人に改善の様子が無いようなら私の提案通り吸血鬼側の修道院を紹介すると言うことになったわ。
あ、因みにこの国における修験院というのは修道院のように一定の戒律の元に共同生活を行うような場所ではなく、山野や霊山でひたすら苦行を積む修業をし、己を鍛え直す場所ね。騎士で問題を起こした者を鍛え直すために送ることもあるそうだけど。一般の貴族令嬢を送り込むにはいささか不釣り合いな場所のようにも思えるけれど、その言葉を重く受け止めてソフィが心根を改めてくれることを願うばかりね。




