吸血鬼の魔法
「取り敢えず、荷物の仕分けをしてしまいましょう」
エステル夫人の言葉にフィアと俺は頷き、早速フィアが順番に物を見ていく。
「まずは王太子妃殿下からの贈り物ね」
と、エステル夫人。
「はい。母さま」
フィアは頷くと、いくつかの宝飾品をてきぱきととって箱に詰めていく。
「しっかり覚えているんだな」
つい、俺が呟けば。
「はい。大切な思い出がたくさん詰まっていますから」
何だかちょっと嫉妬したい気持ちを抱くが、そう言って微笑むフィアがかわいいのでまぁ、いいか。フィアの頭をなでなでしてやると、何だか懐いてくるような錯覚を覚える。何か兄さんたちの言動のデジャヴが。いや、気のせいだ。
「兄さまや姉さまにもらったものは、これと、これと・・・、あと、イオや母さま父さまからの・・・」
ドレスはなかなか着る気になれないと言うフィアに、エステル夫人と公爵が新しいものをプレゼントすると言ったのだが。
「いや、それは俺が送りますよ。吸血鬼の土地のブティックの方が土地的にも事情を分かっているので」
「そ、それはそうね」
「なら、こちらで過ごす服は贈っても構わないだろうか」
と、公爵。
「まぁ、こちらの服は恐らくこちらでのほうがよろしいでしょうし」
「では、決まりだな」
そう公爵が微笑めば。
「はい、みなさまに贈っていただけるなんて嬉しいです!」
フィアが喜んでいるのだ。仕方がないからお義父さんは諦めよう。あ、あくまでもお義父さんだけだからな。
そして他にも宝飾品や小物を整理していき、残ったのは。
「あの、あとは・・・カイム殿下とレナードさまからいただいたもので・・・」
フィアが気まずそうに告げる。
元婚約者と最初の婚約者か。憎むべきやつらだな。本当に。
「あの、ソフィが彼らの婚約者におさまったのでソフィの持ち物になるのではないでしょうか」
フィアの言葉に全員が口をつぐむ。まぁ、あの女はそう言う考えのようだ。フィアのものを全部自分のものにしたがった。これらもきっと自分のものになると本気で信じているようだ。
「王家から下賜されたものは返却不要だと告げられた。それを無下に返すのもな」
と、公爵。
確かに、公爵が見限っている国王とその王妃とは言え余計な闘争は避けたいところだろうし。
「キャメル家からの贈り物は返せそうですかね。さすがにウチから売り払うのはちょっと」
と、長兄のトールさん。元婚約者からの品々とは言え、向こうの家紋などが掘られたものを売り払えば、それはそれでフローリア公爵家の名に傷がつくかもしれない。
「まぁ、肝心の三男は除籍されたが、これらの宝飾品の元出は侯爵家の財産だ。あそこも醜聞でだいぶ落ちぶれているからな。少しばかりの足しにはなるだろう。手切れ金だ、手切れ金」
どうやらもう関わりたくもないようで、早速箱に乱雑に詰めれば。公爵が颯爽と送り返すように執事に指示を出していた。
「王家からのものはどうしようかしら」
「ドレスや布製のものは燃やしませんか?」
俺が提案すれば。
「そうだな。それがいいだろう。燃やしてしまえば灰しか残らない」
「灰だけ届けましょうか?」
「できるのかい?」
トールさんが不思議そうに聞き返せば。
「えぇ、もちろん。けど王太子夫妻には罪はありませんので。これの送り主・カイム殿下に届くようにしましょう。カイム殿下からの贈り物である宝石をひとつお借りしますがよろしいですか?」
「あぁ、構わない。いいか?フィア」
「えぇ、もちろんです。父さま」
フィアも何の未練もないらしい。うん、俺としてもそれで助かる。
「宝飾品はどうしましょうか」
「それも考えがありますよ、エステル夫人」
俺はそう頷き、カイム殿下から与えられたその贈り物をみんなで手分けして箱に詰め、焚火をしてもかまわないと言う広場に連れてきてもらった。
そこで周りに万が一にでも影響はないように結界でドレスなどの衣類の山の周囲を覆い、瞬時に火炎魔法を放つ。
ごおおおぉぉぉぉ―――っ!!!
渦を巻き、竜巻のように空へ抜けた火柱が燃え上がり消えるのは一瞬のことだ。そして残ったのは灰だけ。その中に宝石を一つ放り込み、人間が発音できない音階の、吸血鬼の呪文を唱えれば。
灰は生き物のように群れを成し、王都の方向へと飛んで行く。
「すごいな、これは」
「魔法師団内でもこれほどの魔法は扱えるものはいないわね」
公爵と夫人も感心してくれる。
「まぁ、吸血鬼側の魔法ですから」
「本当に、頼りになる旦那さまで良かったわ」
と、エステル夫人。
「ま、まだ結婚してませんよ」
と、トールさんが慌ててそう告げて、少し苦笑した。大丈夫だとフィアの頭を撫でながら。しかしながら吸血鬼にとってはほぼ同じ意味だ。表向きはフィアとの絆を深めてからの方が公爵たちも安心するだろうとのマティ兄さんからの配慮で婚約者となっているが。実際にはマティ兄さんが王国側の出方を訝しんでいるのもある。ルシウス兄さんはすくなくともフローリア公爵家の三女の件を片付けてからという見解だった。
いずれにしろ、フィアを妻に迎えることには変わりない。吸血鬼は王国のカイム殿下や、レナードだったっけ?そう言うやつらとは違う。伴侶に向ける執着の度合いも違うのだと言われている。吸血鬼が吸血鬼たる理由故に、な。
「とにかく、残りをやっちゃいましょうか」
俺は先ほどまで燃えカスが残っていた場所にぽつんと残る宝石に、残りの宝飾品の類を混ぜる。
「あら、これはどうするの?」
「あぁ、これはですね。ジル兄さん」
「何だ」
間髪入れずに俺の背後に顕現したジル兄さんに、みなが一様にビクッと反応する。だがこれが本場の弟ヲタ。弟をどこまでも追いかけてくるストーカー兄の姿である。
「これを違う形にして、そのままあげた持ち主に還したいんだ。王家の紋などはなるべく残らないように」
「・・・あぁ、錬金術か」
そう、ジル兄さんが呟けば。詠唱もせずただ手をかざせば、宝飾品の数々が光だし、そして一つの黒い箱に変貌する。その中には宝石も含まれているだろうがきっと箱の中でどろどろに溶かされているだろうな。なお、その理論についてジル兄さんに聞いたことがあるが、弟ヲタの話を挟み過ぎてめちゃくちゃ意味がわからなかったので諦めた。
そしてこれが錬金術なのかと言えるのかどうかも俺にとっては謎である。
「これを届けるのだな」
「うん、そうしてくれ」
「では」
ジル兄さんがパチンと指を鳴らせば、箱状だった黒い物体はヒト型に姿を変えて飛んで行く。
「あの、なんか似てませんでした?」
「そうよねぇ」
「ソフィアンナに似ていたな」
と、公爵家の面々。
「あれに宿っている情念が具現化したものだな。問題ない。本人の元へと辿り着けばその情念がかなったとしてそのまま粘っこい液体状の炭に変わって果てるから」
灰まみれの次は澄みめみれ(※液体状)か。ま、フィアを悲しませた罪を償うと言う意味では少なすぎるくらいだ。
「魔力の痕跡も残らないので安心してくださいね」
と、俺が笑顔で告げればジル兄さんも頷く。
「あ、あぁ。それなら安心だが」
「ざまぁないわね」
「えげつないな」
「はわわ・・・っ」
素直な感想のフローリア公爵家の面々に対し、フィアだけはちょっと不安そうだったが。
「フィア。これでもう大丈夫だ」
そう、フィアを後ろから抱き留めれば、彼女を長年にわたり苦しめたその枷が外れ、安堵したような表情を浮かべた。
―――その後、聞いた話では。その日その時間、あのバカ王子カイム殿下は優雅に城のガーデンパーティーに参加していたらしく、突如自身に向かって降り注いだ灰によって灰まみれになり、また黒い液体状のものによってどろどろにされ、物凄い醜態を周囲に晒したらしい。しかしながら魔力の痕跡を追ってみても感じられるのは全てカイム殿下自身のものであり、自ら醜態をさらして注目を集めようとした大バカ王子だと、影で囁かれているそうだ。
持ち主のところについた時点で俺たちの魔力は消化されているし、吸着すればそれはそれでカイム殿下の魔力を吸着する。その正体は粘着質のジル兄さんが考え出したストーキング魔法であった。何に使えるのか全く分からなかったが、フィアのために使えたのなら、まぁ良しとしようか。いや、いいのか、これで。
続きは明日更新予定です




