フローリア公爵家が抱えた闇
「帰省早々に済まないな」
「いえ、お父さま」
部屋に荷物を置いて、フィア、エリンと共に公爵の元を訪れた俺は、公爵に連れられてある部屋に案内された。エステル夫人とフィアの兄のトールさんも一緒である。
なお、末っ子のイオくんは長姉のベラドンナさんが面倒を見ているようだ。さすがに三女がやらかしたこととは言え、イオくんはまだ子どものため席を外させたらしい。
なお、ジル兄さんは現在部屋で熟睡している。本当に用があれば名前を呼べばいい。あの弟ヲタブラコンはすぐに背後に現われるから。
そして案内された部屋にはドレスやワンピースが収納されたクローゼット、テーブルの上に広げられた宝飾品、更には小物などがキレイに並べられていた。
「これはっ」
フィアが息を呑んで絶句している。
「全て、ソフィの部屋から出てきたものだ」
「・・・」
フィアは思わず沈黙するが、エステル夫人が優しくフィアの肩に手を乗せる。
「いいのよ。あなたの私物があることは、わかっているから。さすがにあなたが私たち家族からもらったものまであの子にほいほいとあげるとは思えないもの。あなたはひとからもらったものは大切にするでしょう?」
「お母さま」
エステル夫人の言葉に、フィアは躊躇いがちに顔を上げる。
「何があったのか、話してもらえないかしら。話しにくかったら、後でふたりで話しましょう」
そう、エステル夫人が告げる。しかしフィアは首を横に振った。
「セシナさまがいらっしゃるから、だ、大丈夫です」
フィアが俺の袖をそっと掴んで、そう告げる。俺がフィアの腰に手を回せば、エステル夫人はほっとしたように微笑んだ。
「そう、随分と信頼しているのね。いい旦那さまにもらっていただいて母親としても嬉しいわ」
「はい、お母さま。セシナさまはとても優しくて、かっこいいのです」
いや、そんなこと隣で言われたら。我慢できなくなりそうだ。うぐ。
「では、フィア。少しずつでいい。話してくれないだろうか」
公爵が優しくフィアに問いかければ、フィアが恐る恐る口を開く。
「あの、ソフィは私のものを欲しがることが、多かったのです。くれないと、イオを叩くと言って。お母さまやお父さまたちに告げ口をしても、そうすると」
「な、何だって!?」
「イオを!?」
「何を考えているんだ、アイツは!」
さすがに末の弟を人質にとり、暴力を振るうような言葉に家族一同激昂した。ルシウス兄さんなら即お花畑を消滅させに行きそうな衝撃だろう。やっぱり連れてこなくて良かった。
「そう言えば、あの子・・・幼い頃に痣ができていたわよね」
ふと、エステル夫人が呟く。
「幼い頃は体が弱かったから、立ち上がれない日もあったわね」
「エステルがヒーリング魔法をかけていたが、かけてもかけても・・・」
公爵もまた愕然としていた。
「ここ近年は調子が良くなっては来たけれど」
「ごめんなさい。言えなくて。私はあの子に物を渡してイオを守ることしか、できなくて」
災厄の根源は今は隔離の上幽閉されている。その罪を両親も兄姉も理解し、知った以上フィアは黙っている必要はないと思ったのだろう。なにより俺も付いているし。だからこそ、フィアは両親と兄に真実を告げたのだ。ずっと隠し続けてきたことを。
「あなたが謝ることなんてない」
エステル夫人が優しくフィアを抱きしめる。
「私たちも仕事漬けで、そこまで見てやれなかったことも原因のひとつだろう」
「だとしても、実の弟にですよ!?どうしてそんな非道なことがっ」
「実の姉にもやっていたんだろう?」
俺の言葉に、トールさんがハッとなる。被害者はフィアだけじゃなかった。末弟のイオくんもだったのだ。
「ソフィにとって俺たち家族は、何だったんだっ!」
悔し気にトールさんが拳を握り、俯く。本当にそうだな。俺だって混血の身で純血鬼と呼ばれ、更には王族の親類である兄さんたちが溺愛して来なかったら、家族と言うものの存在について大切な存在とは思っていなかったかもしれない。実際俺の部下にも混血と言うだけで人間の親に虐げられたもの、純血鬼の継母、兄弟に虐げられたものもいるのだ。そう言うのもたくさん見てきたからな。
「とにかく、ソフィについては今後は貴族籍から抜く」
公爵がはっきりと告げる。
「けれど、平民になったところで野放しにすれば今度は何をするか!」
フィアから婚約者を2度も奪った女だ。平民落ちしたところでどこぞの貴族や裕福な金持ちに擦り寄るなどお手のものなのだろう。
「北の辺境伯の元へやろうと思う」
「父上」
トールさんが絶句する。
北の辺境伯か。確かそんなに豊かではないが、細々と農業をしながら傭兵も育成していたな。国の中枢とは随分と冷え込んでいたはずだ。本来ならば国の要所を守る辺境伯を大事にしなくてはいけないだろうに。
「あそこの修験院に入れる」
「本気ですか?あいつの本性はもう、散々目にしましたよ」
恐らく、幽閉されている間にも面会に度々赴いていたのだろう。トールさんは酷くげんなりとしていた。
「あそこでもつんですかね」
「もつかもたないかは重要なことじゃない。あそこの修業は厳しい。そこで何とか持ち直してくれればいいが、持ち直せないものの末路も聞いている」
「まぁ、フィアとイオにしたことを思えば、それくらいの罰じゃ足りないくらいですが」
最早トールさんにも公爵にもソフィに対する情は見受けられない。ただ、その被害者をどうやってこれから出さないかを考慮しているのだろう。公爵の一存で処刑などはできないから、生きたまま罰を与えることしかできない。王国中枢に訴えることもできるかもしれないが、公爵家の醜聞となることを恐れるよりも公爵はこの地に引き籠った時点で王家に期待をしていないのだろう。マティ兄さんも言っていたが、王太子殿下夫妻ならともかく、あの王と王妃は信用ならないそうだ。
「もう、それしか道はないのですね」
散々酷い目に遭っただろうに、フィアはソフィを気にかけているのだろうか。そんなフィアをエステル夫人が再び優しく抱きしめる。
「それで、フィアとイオの心の傷が癒えるとは限らないけれど、できるだけのことはするわ」
「お母さま。お母さまがこうしてくださるだけで、私もイオも安心するのです。どうか、イオのことも抱きしめてあげてもらえますか?」
「えぇ、もちろんよ。フィア」
そうしてフィアの頬を一筋の涙が伝った。
なかなか時間がなくて1話のみの更新ですがまた明日更新予定です(`・ω・´)ゞ




