王女ジュリアンヌの顛末
※最後に吸血シーンが入ります※
※本格派ざまぁ回でございます※
―――<SIDE:ジュリアンヌ>
ここは、どこかしら?
私は確か吸血鬼の王子であるギルバートさまの婚約者として吸血鬼のお城にきたのよね。そしてギルバートさまとの婚約発表パーティーに出席してアルバートさまとの婚約が新たに発表されるはずだった。
吸血鬼の王であるお義父さまが呼ぶまでは自由に会場を歩いていいと言われていたし、ギルバートさまも吸血鬼の出席者たちと会話を始めてしまった。
私をしっかりとエスコートしないと言うことは、そうね。私がアルバートさまの婚約者になるからこそ後ろめたいものがあるのかもしれない。そんなギルバートさまのお気持ちを組んであげたとても優しい私は、パーティー会場の一郭でまさかの人物を見つけたの。
私を騙したソフィ。そしてその冴えない姉の姿を。恐らく婚約者であろう男が隣にいたけれど、あの女が冴えないなら、男も男よ。だから盛大になじってやったわ。ふふ、いい気味よ。でも男の兄と名乗る方はとても美人で思わずくらくらしてしまって。
あれ、あの後、どうしたのだっけ?
記憶がどうも曖昧ではっきりしないわね。
確か、ギルバートさまが来て嫌味なあのディアナって言う女と王妃が来て、それから・・・―――
「・・・ひっ」
刹那、首筋にひんやりと尖ったものの感触を覚え、私はカッと目を見開き小さく悲鳴を上げた。
「どうしたの?ジュリアンヌ」
甘い、蕩けるようなその声に私はピクリと身を震わせる。
何より視界の端をかすめる銀髪が、それが“誰”であるかを如実に示していた。
「な・・・な、で・・・」
「・・・何で?心外だな」
そう言って彼は身を起こし、その美しくも禍々しいほどにぎらつくその赤い双眸を私に向ける。そしてにぃっと弧を描いくその口元からはほんのりと尖った牙が見え隠れしており、何かとても恐ろしいものを前にしているように感じた。
「どうしてあなたが」
思わず腕を引き寄せようとすれば、じゃらりとした音が聞こえて手首に鉄の感触を覚えた。
「何で、こんなこをと・・・!」
「どうしてって、ぼくは君の婚約者。いや、ぼくはもはや君の夫だよ。あの婚約発表パーティーの後、正式に君を妻に迎えたからね。あと、それはぼくからの愛の鎖。ぼくから逃げ出せないように、ね」
「何で!?どうしてよ!」
「何で?君は吸血鬼のことを何も知らないんだね。ふふっ、とんでもない無知だ」
「どう言うこと・・・?」
クツクツと美しい顔で醜悪な笑みを浮かべるギルバートさま、いえギルバートに私は寒気を覚えた。
「吸血鬼と言うのはね、とても伴侶を大事にするんだ。特にその伴侶の血を、ね」
「血・・・?」
「とても驚いた顔をしているね?ぼくたちは“吸血鬼”と呼ばれる存在だ。血はぼくたちにとって最高のご馳走なんだ。そのご馳走を大事にするのは当然だろう?」
「わ、私は食べ物じゃないわ!」
「そうだね。ぼくの大事な大事な生贄だからね」
「こんなの、間違ってる!私を自由にして!」
「ダメだよ。君はぼくの、吸血鬼の独占欲を盛大に刺激したんだ。許せないな」
「何のこと?」
「多くの吸血鬼の前で堂々と肌を晒して。その肌を一刺しすれば君の血が湧き出ると言うのに」
「こんなの、普通じゃない!」
「人間の王侯貴族にとってはね?でもぼくたちにとっては違うんだ。堂々と肌を晒すのは、どうぞみなさん私の血を好きに吸ってくださいと周囲に堂々とアピールしているのに他ならない」
「そんな、知らないっ」
「君はバカなんだねぇ。見た目の美しさに騙されて、吸血鬼のことを何にも知らないなんて」
「誰も教えてくれなかった!」
「うん?君がもう少しいい子にしていたら、きっと母上もディアナ義姉上も教えてくれただろうねぇ。でも、それを止めたのはぼくだよ」
「な、何故」
「ぼくの前であからさまに父上や兄上に媚びを売る君を見ているとぼくのなかの吸血鬼の血が、純血の最も濃い王家の血が煮えたぎるように暴れるんだ。その感覚はとても素晴らしい。その感覚にぼくは思わず君を食べてしまいたくてしょうがなくなってしまってね。そうだ、それなら徹底的に好きにさせて、最高にぼくの血が煮えたぎった時においしくいただこうと思ってね」
「んなっ!?」
「まぁ、堂々と父上や兄上に媚びを売って、母上を“ババァ”だとか義姉上を“ブス”だなんて言う君には、例えぼくが止めなくても母上も義姉上も、周囲の誰もが君に正しい知識を与えてくれることはなかっただろうけど」
「な、何でそのことを、聞こえるような距離じゃ」
「吸血鬼ってのは、耳がいいんだよ。ふふ、君の愚かな2番目の兄上と同じだね」
「何を、言うの?」
「彼はね、かつて吸血鬼の王族から不興を買ったんだ。誰もが聞こえぬふりをしていたことをとある混血の吸血鬼に問い詰められた。そこで彼は最大の間違いを犯したんだ」
「間違い?何のこと?」
「ぼくの大事な“セシナ”を貶したことだよ?そう言えば君もそうだったね。本当はここまでするつもりはなくてね。このぼくとの新婚生活を送る部屋の中では自由にしてあげようと思っていたんだけど。君はぼくの逆鱗に触れてしまったんだ」
「はぁ?セシナ?誰よ、それ」
「君が冴えないだとか言って盛大に貶した子の名前だよ。フィアナちゃんの婚約者と言えばわかるかな?」
「あの辺境伯家の末子っていう!?な、何でよ!混血なんでしょう!?純血鬼のあなたが何故そんなにもあんな地味な男を!」
「黙れ」
「ひっ」
その瞬間、彼の放つ覇気に私は身をこわばらせた。なにこれ、体が動かないっ!?
「君はぼくの妻だ。だから殺しはしないよ?けどね。セシナを愚弄するなら優しくはしてあげない。ぼくにその人間の王家の洗練された血を一生捧げながらここでぼくと二人だけで過ごすんだ。どう?すてきだろう?」
「な・・・何を言ってるの!?あなたと二人だけって。侍女は!?執事は!?」
「ここにはこないよ。君はとっても浮気性らしいからね。余計なものは入れない。一応祖国から侍女は連れてきてもいいよって言ったのにそれを棒に振ったのは君だろう?欲が出ちゃったんだね。さすがに君が祖国から連れてきた侍女なら考えてもあげたんだけど」
そんなこと、聞いてないもの!第一下手な侍女なんて連れてきて、せっかくの美麗な吸血鬼を横から奪われたらいやじゃない!だから私はここにひとりで来て、それでっ
「じゃぁ、今から呼ぶわ!」
「だぁめ、タイムリミット」
「私からの連絡がなければ両親が黙っていないわ!」
「そんなことはない。だって君を差し出す代わりにたくさんの褒美を与えたからね。そしてぼくに嫁いだからには実家とのいかなるやり取りも行わないと言う契約にしっかりと同意してもらったから」
「何よ!?それ!そんなのあり得ないわ!」
「あり得たんだよ。目の前に積まれたお宝に目が行っちゃったんだねぇ。君、捨てられたんだよ」
「そ、んなっ」
この私が、お父さまとお母さまに捨てられた!?
「でも、お兄さまが!」
「自分の最愛の妻を追い詰めた君を気にするのかい?むしろ妻には二度と近づかないでほしいと願うんじゃないのかな?彼は随分と妻を大事に思っているみたいだから」
「そんな、カイムお兄さまはっ」
「彼がセシナを愚弄したこと、ぼくはまだ許していないし。母上も義姉上もフィアナちゃんのこと、気に入っちゃったからね。多分フィアナちゃんを傷つけたその男は相手にしないだろう」
「何で、何であの女なのよ!私がこんな目に遭っているのに、何であの女が!・・・あ、私がこうなら、フィアナのやつもきっと惨めな生活を送っているはずだわ!」
「へぇ、そうなの?報告によると、今日はセシナと仲良く読書をした後、庭を散策したり、お茶をしたりしながらとても幸せそうに過ごしているそうだよ」
「な、何であの女が幸せになるのよ!私だって!」
「安心して。君も幸せになれるよ。だって、ぼくの妻になれたんだから」
「嘘っ!こんな監禁まがいのことをして、幸せなんて!」
「まがい、じゃなくて監禁なんだけどなぁ。でも大丈夫、すぐに毎日ぼくにその血を捧げる喜びに目覚めるからね」
「んなっ、血を、毎日?」
吸血鬼なのだから血を飲むのは当たり前だろうが、血を毎日捧げるってどう言うこと?
「さぁ、楽にして」
「いやっ!やめてっ!放して―――っ!!!」
「どんなに騒いでも誰も来ないよ。ここにはぼくと君だけ」
「アルバートさま!アルバートさまなら私を助けてくれる!私はアルバートさまの妻に、王太子妃になるの!」
「ははっ、何それ?」
「アルバートさまは私を愛しているの!あの女に飽きて、あの女を離宮に移して、私を溺愛してくれるはずだわ!」
「なにそれ。離宮に移されているのは君の方だよ?ここはリフォームした離宮なんだ」
「は?」
あの時のギルバートとあの女の会話に出てきたのが、ここ?
「じゃぁ、アルバートさまが私を婚約者にしてくれる話はっ!」
「あるわけないだろう?兄上は義姉上をたいそう愛している。その血の一滴まで。おあいにくさま。兄上は義姉上にしか興味がないから、君のことなんてなんとも思っていないよ」
「嘘!」
「そうだね。強いて言うならば、義姉上を蔑んだり義姉上とくっつく時間を奪ったりした君をとても疎んでいるだろうね」
「そんな、嘘よ!私よりもあの女が愛されるなんて!」
「どうして?君はぼくにこんなにも愛されているんだから、兄上が誰を愛そうと関係ないじゃないか」
「愛しているなら、どうしてこんなこと」
「君を逃がさないためだよ。そして、ぼくに毎日血を捧げるためだ。さぁ、ちょうだい?」
「ひっ」
抵抗しようにも片手を鎖で繋がれ、ギルバートの馬鹿力は私がどんなにもがいても全くびくともしない。そして首筋にひんやりとした牙が触れる。
「や、やめ・・・っ」
「いただきまぁす」
そう言うと、私の首筋にがぶりと牙が突き刺さった。
「あああああぁぁぁぁ―――っっ!!!」
絶叫と共に、噛みつかれた痛みと啜られる血の感触が一気に襲ってくる。まるでこのまま、ギルバートに食われてしまうような、恐怖が襲ってくる。
「いや、いや、いやあああぁぁぁぁ―――っっ!!!」
しかしその悲鳴を聞きつけて駆けつけてくれる者はいない。
どうして、こうなってしまったの?
ソフィは言っていた。吸血鬼とは醜く恐ろしいバケモノだと。
そうね。ソフィは私を騙してなどいなかった。
本当のことを唯一私に教えてくれていたのに。
彼らは美しい皮を被っただけの、獰猛な牙を突きたて生血を啜る、醜悪で恐ろしいバケモノなのだと。




