狂血王子
※再び主人公の提供に戻ります※
―――<SIDE:セシナ>
さて、今日は読書やお茶をしながら楽しくフィアと過ごせた。途中仮面を付けたままもじもじしながらこちらを見てくるマティ兄さんがゼン兄さんに回収されていくハプニングや、ルシウス兄さんがフィアの弟についての情報をさりげなく聞き出そうとしてきたり、物陰にジル兄さんが潜んでいたりと色々あったが。
「セシナさま」
書斎で兄たちの奇行についての物思いにふけっていれば、傍らに黒ずくめの影・ナルが姿を現す。
「あぁ、お帰り。何か新着情報はあった?」
「えぇ。ギルバート殿下がこれ見よがしに見て言ってとオープンにしてくださいましたので、王の影と共にドライフルーツをつまみながら見物しておりました」
「何だか日に日にギル専属の影と仲良くなっていくな、お前ら」
「おかげさまで。むしろギルバート殿下の奇行についてセシナさまにお知り頂くのは王家の意思にございます」
「・・・俺、別に変態専属の何かじゃないんだけどな。まぁ、いいか。それで、どうだった?」
「見事に全吸血鬼の予想通りにございます」
「まぁ、そうなるわな」
ギルの二つ名は“狂血王子”と言う。
文字通り血に踊り狂う王子と言う意味で。あれはあれで吸血鬼の高貴で由緒ある王族としての本能をこれでもかと言うほどに受け継いだ変態である。血をこよなく愛し、毎日とっかえひっかえ血を求める。まぁ、それは研究のためでもあるわけで。ギルに血を啜られたいと願う者たちが自ら献上するのだとか何だとか。
彼は吸血鬼の世界では言わずと知れた血フェチとでも言おうか。けれど専門家でもある。吸血鬼の血、人間の血、獣の血。ありとあらゆる血に精通する血液学者でもある。近年のめぼしい成果と言えば、魔力やその属性に関する血による遺伝についての論文だ。
魔力やその属性は血による遺伝が最も濃いが、隔世遺伝や遺伝との因果関係が不明な突発的な魔力についての比率などを割り出したものなど。それは魔法使いの世界だけではなく世界中の国々や吸血鬼たちの自治区が注目する結果となった。
そしてそんな至高の血を求め、自ら味わうことも大好きなあの変態が見つけ出した最高級の血、それが人間の王家の直系の姫であった。かねてよりそれを証明したギル。どうやったのかを想像するのはやめておけ、後生だから。
それ故に例え中身が残念だとは言え、人間の王家側に吸血鬼と人間の間の冷え込んだ絆の強化のための縁談を打診したのである。
まぁ、吸血鬼の王である叔父も、その妃である叔母もあのジュリアンヌが少しでもまともなら、ギルが狂鬼化して暴走しないように諫めただろうが、彼女は叔父に手を出し叔母を貶した。更には王太子であるアル兄さんに横恋慕しようとし、その妃・ディア姉さんまでも貶したらしい。これによって叔父たちは完全に“研究と関係強化のために、思う存分花嫁を大事にしなさい”と言う方針に変わった。
元来吸血鬼と言うのは伴侶をとても大切にする。そして、その伴侶の血を守るためには異様な執着翼や独占欲も抱くのだ。だからこそ身内ならまだ我慢はするが、伴侶を迎えれば閉じ込めて溺愛することも少なくない。
双方吸血鬼同士ならともかく、相手がより美味な人間、混血だった場合はなおさらその寵愛は群を抜いて激しくなることが多い。
まぁ、ウチの変態兄どもは俺に対しても過激な溺愛をも厭わないのだが、それは今はおいておいて。
「きっと彼女は、ギルによって生涯大切にされるだろうな」
俺がそう漏らせば、ナルも頷く。
「もう二度と、フィアナさまを傷つけることも、会うこともないでしょう」
「そうだな」
あの狂血王子が逃がすはずがないし、吸血鬼の王室にとっても害になる彼女を外に出さぬようギルに厳命するだろう。そしてギルは意気揚々と毎日おいしい血を貪ると。
「しかし、徹底的に監禁するそうですよ。離宮の中でも自由にさせないと」
「うわぁ。ギルがそこまでやるとは」
「セシナさまへの侮辱がその要因のひとつかと」
「ははは」
思えばアイツは昔からそうだった。血に異様な執着を見せるあれは、外見こそいいので惚れるものも多いがその変態性を直に感じれば逃げ出すものの方が多い。仮にも王族だ。あれの放つ吸血鬼の覇気に脅える者も多い。
まぁ、ギルの魔眼があれば心ここにあらずで操れるのだが、それはもしもの時以外は王である叔父に禁じられている。
そのもしもの時と言うのは大体俺がらみなわけで、あのパーティー会場でもそうだった。
だが、その血に執着する獰猛さは吸血鬼の令嬢たちをも恐れさせるものである。昔はよく俺の顔を兄たちに比べたらたいしたことはないとか言ってきた令嬢たちもいた。あるいは優しく接する振りをしてあわよくば兄たちに近づき、その婚約者の座を得ようとする令嬢。混血であることからギルの隣が相応しくないと言い張る令嬢。
いろんな令嬢と顔を合わせてきたが、ギルの本性を知り脅えた彼女たちの実家は急に俺と仲良くするように圧力をかけたらしく昨日悪口を言ってたくせに、今日は平気で擦り寄ってくる・・・何て令嬢もいて笑えたけど。
まぁ、元々俺に対して嫌悪感や偏見を持たずに交流してくれる子とは未だに幼馴染みのようにして仲がいいし、幼馴染みたちが周りの令嬢を牽制してくれたり諫めてくれるので、裏からギルに手を回したりもしてきた。
そんなギルに俺が何故好かれているのかは謎だが。
「あの兄どもと俺を取り合う不毛なケンカはやめてほしいな」
特に兄たちが大人げないから。
「それも我らとしては微笑ましい光景です」
「ははは、ドライフルーツでもつまみながらリフレッシュしてくれると嬉しいよ」
「御意」
そう何だか微笑ましそうに答えたナルは、再び姿を影に紛れさせてその場を後にした。
「さて、俺も明日に備えてもう寝るか」
う~んと伸びをして、部屋を後にしようとして振り返ってぴしゃりと告げる。
「だから、ジル兄さんはちゃんと自分の寝室に戻って寝てよ。俺の寝室まで付いてこないで」




