パーティー会場の一郭で
「このジュース、おいしいです」
「こっちの土地は、果実も豊富に育つからな」
他にも土地的に恵まれた部分がたくさんある。その昔人間が吸血鬼をバケモノとして戦いを挑んだのにもそう言う土地柄もあるらしい。今は羨みつつも吸血鬼たちからの恵みを甘んじて受けている。
「はい、こちらに、セシナさまの婚約者になれて嬉しいです!」
ぐはっ
天然なのか素直なのか、いやどっちもか。そんな風に言われてしまうと抑えが効かなくなってしまいそうだ。ここら辺は変態兄たちに感謝せねば。日々あの抑えることを知らぬ変態兄どもを見てきたからこそギリギリ保っていると言っていい。
現在、吸血鬼の王城にて俺とフィアは壁の華になりつつそのパーティーの様子を眺めながら雑談しているのだが。
「やはり吸血鬼の方が多いのでしょうか」
「そうだな。人間側からも交渉官などは来ているだろうけど、ほとんどがそうだろう」
「やはり、吸血鬼の方々はお互いがそうだとわかるのでしょうか?」
「何となくね」
「すごいですね」
「まぁ、産まれた時からこんなものだから」
そう言って苦笑すれば。
「あ、あの。何か失礼なことを言ったでしょうか」
「いや、そんなことはない。フィアが吸血鬼のことに興味を持ったり、俺のことを気にしたりしてくれるのは嬉しいよ」
「は、はい。私も、もっとセシナさまのことを・・・」
フィアがかわいらしく俺を見つめて頬を赤らめたその時。
「やぁ、セシナ。フィアちゃん。楽しんでいるかい?」
え。突然誰かと思えば。
「いや、誰」
「誰とは酷いじゃないか。ルシウスお兄さまだよ」
いや、確かにそうなんだが。そうなんだがいかにもなキラキラオーラを噴出させながらカッコつけてるその姿は何!?と言いたい。
しかしその理由はすぐに反応した。
「だぁれ?このお姉ちゃん。何でディアお義姉さまにそっくりなの?」
不意にフィアのドレスの袖をぴっと掴んだ小さな姿を見て合点が言ったのだが。
「気軽に俺の婚約者に触れないでくれるかな、“殿下”」
「むぅ、セシナのけちー」
と、頬を膨らませた銀髪に赤い瞳の美少年。年齢は10歳で、青いハーパンスーツに藍色のタイツを決めている。このショタっ子の名前はレオナール。通称はレオ。
「吸血鬼がいかに将来の伴侶を大切にするかは、しっかりと学んでいるだろう?」
「それは、そうだけど。アル兄上も滅多にディアお義姉さまに触らせてくれないんだ」
「なら、わかるだろうに」
「いいじゃんっ!それに、お姉ちゃんはディアお義姉さまの妹でしょ!ならぼくだって義弟なんだからいいじゃん」
「その、本人はそのつもりだが、義理だ。ディア姉さんは純血姫で、フィアは人間だ」
「む。そう言えば、そうだね。髪の色がおんなじだから、ぼくてっきり」
「でも、ディアお姉さまの方がおきれいで」
「お姉ちゃんもかわいいよ」
「そう、ですか?」
レオに見上げられて、うっすら頬が赤らむフィア。
「こら、ひとさまの婚約者を誘惑しない!」
そう言ってレオの手をフィアから引き剥がす。
「ちょっとくらいいいじゃんー」
「レオもそのうち婚約者ができれば思い知るぞ」
「むぅ、そうなの?ルシウスお兄さま」
俺が頑として譲らないので、レオはぱたぱたとルシウス兄さんに飛びつく。
「確かにそうだね。けれどお兄さんは全てのショタっ子の味方だから安心して」
「うんっ!ぼくね、ルシウスお兄さまみたいな剣豪になるんだー!」
「ふふっ、かわいいね。レオくん。今度お兄さん自ら稽古をつけてあげようか?」
「わぁ、いいの?やったぁ!」
喜ぶレオ。そして変態の素顔を必死に隠しながら清廉潔白な騎士気取りのルシウス兄さん。はぁ、多分ルシウス兄さんが王妃である叔母上に頼まれたエスコートの相手はレオなのだろう。そして見事なルシウス兄さんカラーに仕立て上げられたレオ。
そんな自分の色を纏ったハーパンショタっ子・レオにルシウス兄さんはメロメロである。
「あの、セシナさま。あちらの方は」
「あぁ、吸血鬼の王の第3子。第3王子のレオナールだよ」
「お、王子殿下なのですね!私、しっかり挨拶もせずに」
「大丈夫だよ。俺たち辺境伯一家と接するときは従弟としてくるし」
「それなら従姉のお姉さまでいいでしょー?」
と、今度は俺に引っ付いてきたレオ。ルシウス兄さんがその向こうで悲しそうに肩を落とす。
・・・変態兄め。
「はぁ、仕方がないから特別に紹介するが、俺の婚約者のフィアナだ」
「どうぞフィアとお呼びください。王子殿下」
俺の紹介にフィアは優雅にカテーシーを決める。
「う、うん!フィアお義姉さま!」
何故だ、簡単に愛称呼びを許すフィアが心配でならない。まぁ、俺が大丈夫だと判断して紹介しているからこそそう述べているのかもしれないが。
「もぅ、どこもかしこもちょっと妬きすぎなんじゃないの?」
ぷくーっと頬を膨らませるレオに、フィアはにこりと微笑む。
「何だか、弟のことを思い出してしまいます。同じくらいの年ごろだからでしょうか?」
あぁ、フィアにも弟がいるそうだからな。
「へぇ、そうなんだ!ねぇ、フィアお姉ちゃん。ぼくのことも“レオ”って呼んで!」
「では、レオさま」
「レオがいい~っ」
「えぇと」
フィアが困って俺を見やる。
「従兄の俺も“レオ”って呼んでいるし、フィアは俺の婚約者だ。レオ本人がそう言うのだから構わない」
「はい。では、レオくん」
「うんっ!それならまぁ、いいかな!」
レオは嬉しそうな表情を浮かべる。
「フィアちゃんは早速モテモテだよねぇ」
いつの間にか復活したルシウス兄さんがしれっとレオの肩を抱き寄せる。レオはレオで、剣豪であるルシウス兄さんに憧れているためルシウス兄さんにも懐いているのだが。ルシウス兄さんは内心ハーパンショタっ子をエスコートできてウハウハである。
やっぱり今回の名代、ルシウス兄さんじゃなくてゼン兄さんあたりにしておいた方が良かったかな?
そんなことを思いつつ、フィアの顔を見て現実逃避を楽しんでいれば。
招かれざる客と言うのはどこにでも現れるもので。
俺たちの元に甲高い声が響き渡ったのはその直後であった。




