吸血鬼の王太子夫妻
王と王妃である叔父と叔母に挨拶を済ませれば、次は王太子夫妻に挨拶をし、同じようにフィアを紹介した。
「ほぅ、ギルは“冴えない”と言っていたが、なかなかかわいらしい子じゃないか」
そう、悪戯っぽく微笑んだ青年は王太子のアルバート。母親譲りのプラチナブロンドに、青い瞳を持つ。両親の魅力を余すことなく受け継いだ王太子の顔立ちはとても美しく、まさに芸術のようである。そしてその耳元には菫色のピアスが煌めく。白地に淡い金色のスーツを身に着けた王太子は、探るように“ふ~ん”とフィアを眺める。
「あまり見ないでもらえますか、アル兄さん。フィアが減ります」
「いや、何で。ジルもよく言っているけどその理論は納得いかない」
アルバート、いやアル兄さんの言うジル兄さんの理論とは、“そんなにセシナを見るな!セシナが減るぅっ!!”と言うものである。俺は長らくその意味が理解できなかったが、最近やっと理解できるようになってきたと思う。もちろんジル兄さんの行き過ぎたブラコンは理解できないが。
「そうよ、あまりじろじろと眺めないでくださる?あとさっきの“冴えない”は取り消してちょうだい」
そこでぴしゃりと吐き捨てたのはアル兄さんの隣に座る王太子妃・ディアナ。通称ディア姉さん。
「あなたがフィアちゃんね。とてもかわいらしいわ。クラリスからはよく聞いているのよ?」
ディア姉さんの言う“クラリス”とは、人間の王国の王太子妃の名である。彼女は人間の王国でもフィアがたくさんお世話になっていたと報告で聞いている。
「クラリスお姉さまから。・・・あ、もうお姉さまではいけませんね」
「そんなことないわ。あなたのことは本当の妹のようにかわいがっているのを知っているもの。今度会った時も“お姉さま”とお呼びなさいな。でないと本人がショックを受けてしまうわ」
「わ、わかりました!」
「やっぱりとってもかわいい。お義母さまも気に入ったみたいだし、私もお茶会の時はご一緒するわね」
何か知らんが、先ほどの茶会の件はディア姉さんの耳にも入っていたらしい。吸血鬼は五感が優れているとはいえ、他人の話を聞きながらまた別のひとの話を聞く芸当ができる者は少ない。なのに他の参加者と離しながらも聞き耳を立てていたとは、恐るべし。
「う、嬉しいです!」
「珍しいね。やっぱりあちらのクラリス妃の影響かな?」
「それもあるし、ほら、お揃いじゃない」
と、アル兄さんの言葉にディア姉さんがそっと髪をひと房掲げる。
ディア姉さんの胸元まで伸びた髪は、偶然にもフィアと同じアッシュブルーだ。瞳は菫色で顔立ちは異なるが双方かわいらしい顔立ちをしている。髪の間に見え隠れする雫型の金色の耳飾りは魔力制御用のものだがデザインも洗練されている。胸元にきらめく青い宝石はアル兄さんの瞳の色で、本日のドレスは瞳の色よりも若干淡い紫である。
「あの、王太子妃さまっ!」
「ディアお姉さまって呼んでね。私も勝手に“フィアちゃん”って呼んでいるし」
本当に勝手に呼んでいるからな、このひとは。なんだかんだで憎めないこのひとの雰囲気には完全に敗北宣言を出さざるを得ないが。
「ディアお姉さま?」
「えぇっ!ふふっ!嬉しい。何だか姉妹みたいじゃない?」
「フィアは俺の婚約者です」
「いいじゃない。セシナくんのお嫁さんになるんならどうせ親戚なのだから。クラリスだけこんなかわいい子と姉妹だなんてずるいわ?」
どこに嫉妬してるんだ、このひとは。全くもう。掴めないことこの上ない。
「それで、何かしら。デートのお誘い?」
「へっ!?」
「フィア、冗談だよ。このひと、こういう冗談好きだから」
「あら、女の子同士のお出かけは時に“デート”と呼ばれるのよ?知らないの?」
「あいにく、ウチは男兄弟だけなのでよく知らないですね」
「なら、覚えておきなさいな。それでお話は何かしら。ドキドキしちゃうわね」
「えっと、その、たいしたことではないのですが」
「フィアちゃんが言うならたいしたことよ?大丈夫」
「は、はいっ!」
何か余計にフィアが緊張しているような気がするのだが。
「あの、ディアお姉さまもクラリスお姉さまとお揃いです、その、ドレスが」
「あら、気が付いた?嬉しいわ♡」
へぇ、そうだったのか?フィアに目を向ければ。
「クラリスお姉さまの瞳の色です。何だか懐かしくて」
「そうだったのか」
報告では特徴を聞いていたものの、さすがにパッと見てピンと来なかったが。ディア姉さんはそれを見事に言い当てたフィアを更に気に入ったらしい。
「今度遊びに行くわね」
「ディア姉さん、遊びに行くってどこへ?」
「あら、ローゼンクロス辺境伯家に決まってるじゃない!」
「王太子妃がほいほいと来るような場所じゃないですよ」
「お義母さまのご実家よ?別にいいじゃない」
「いや、ディア。私の予定もあるのだから」
と、そこに王太子のアル兄さんが口を挟むが。
「大丈夫よ。お義母さまと行くから!あなたはお義父さまとお仕事なさってて?」
しれっと言いやがったディア姉さんに、アル兄さんががっくりと肩を落としたことは言うまでもない。
「まぁ、頑張って。アル兄さん」
「うぐぅ」
しかし、次の客の挨拶の番が来れば元の王太子の顔に戻ったのでまぁいいか。第2王子のギルと第3王子は席を外しているようなので、俺はフィアを連れてさっさと壁の華になりに行ったのであった。
※続きは明日更新します※




