吸血鬼の王と王妃
吸血鬼の王の城と言うのは、人間側の城よりも年季が入っていると思う。それでも造りは丈夫だし使用している素材も違う。人間側からすると伝説級の素材でも普通に使っているのが吸血鬼。だからこそ強いし、人間がその城を落とそうとしてもびくともしないらしいが、実際にそこまで攻めいられたことはない。何故なら吸血鬼の力の方が圧倒的だから。
「では、フィア。しっかりと付いて来て」
「はい、セシナさま」
馬車から降りて腕を差し出せば、フィアは自然に手を添えてくる。そんな仕草でさえ愛らしいのに、フィアに愛想をつかした元婚約者と元々婚約者の考えはちっともわからない。まぁ、だからこそ俺はフィアに再会し、こうして婚約者として隣に立てるのだが。
「俺は早めに会場に行くけど、ルシウス兄さんはどうする?」
「あぁ、お兄さんは、お兄さんのパートナーであるハーパンショタっ子を迎えに行ってくるよ」
「一応聞いておくけど、合法的なやつだよな?」
「ちょっと、セシナたんったら!お兄さんを何だと思ってるの!?」
え?ハーパンショタっ子のハーパンを年がら年中追っかけている変態?
「お兄さんにとってショタっ子は神聖なものなわけ」
「はぁ、そうなん?」
変態に塗りつくされたひとに言われてもなぁ。
「だからそんなショタっ子に非合法なことをするのはお兄さんの変態の理念に反する!」
いや、変態の理念って何だよ。
「今回の任務は、王妃である叔母上から賜った正式な公務なわけだよ、弟よ」
「あぁ、そう。何かあったらそれこそ叔母上に怒られるからな。変なことするなよ」
「だからしないってばぁ~!それじゃ、お兄さん行ってくるっ♪」
そう言うと、ルシウス兄さんは華麗に身を翻し、愛しのハーパンショタっ子を迎えに行ったのであった。・・・心底どうでもいい解説をしてしまった気分だが。
「あの、セシナさま」
「どうした?フィア」
「あの、吸血鬼の王妃さまはどのような方なのですか?」
「あぁ、俺たちの叔母上?そうだな、外見はマティ兄さんに似ているよ」
「では、仮面を?」
「いや、仮面は付けてないから」
あれはマティ兄さんが女性アレルギーなだけで、叔母上は普通に素顔である。
「会場入りしたらまずは王である叔父上と叔母上に挨拶に行くから、その時に会えるよ」
「そ、そうなのですね。き、緊張します!」
「はは、大丈夫。そんなに気難しいひとたちでもないし」
・・・俺たちに対してはな。
「さ、行きますか。俺のお姫さま」
「は、はい!セシナさま!」
緊張で背筋をピンと伸ばしながらも、フィアは一歩一歩俺と一緒に歩を進める。
今夜のために用意したダークブラウンを基調としたドレスは、同じブラウン系のリボン装飾が施されており、落ち着いた温かみのある印象を抱かせる。
そして胸元にはローゼンクロス辺境伯一家の家紋があしらわれた赤い宝石がきらめいている。アッシュブルーの髪はハーフアップに結われている。
人間の王国では髪をアップにするのが主流だが、こちらでは割とそう言う髪型は少ない。肌を見せすぎると“誘っている”と思われることが多い。
人間の王国では良い殿方を見つけるためのアピールに使われるが、曝け出された肌と言うのは吸血鬼にとっては別の意味もあるのだ。
美味しい獲物がそこにありますよ、と自らアピールしているもので、とっかえひっかえ吸血鬼に吸血してもらいたい下品な令嬢だとか思われるのである。
ほとんどの吸血鬼の王侯貴族は自制心と言うものを植え付けられるから、人間の王国のパーティーに行っても我慢できる。だが、さすがに吸血鬼の土地でやられたらさすがに、ねぇ?
変な誤解を抱く輩がゼロと言うわけでもない。
だから普通は婚約者に公の場で肌を大胆に露出させることは少ない。項なんてもってのほかだ。首筋は多少見えていても差し支えないが、そこには大体“お守り”を付けて他の吸血鬼を牽制させるのだ。
フィアの本日のドレスも、襟元は多少開けてあるが過度に開けているわけではない。軽くお守りを付けられる程度のもので、人間の王国のように積極的に肌を露出させたりはしないのである。
まぁ少し長くなったが、俺はアッシュブルーの生地のスーツに、辺境伯一家の色でもあるローズレッドのアスコットタイをサファイアブルーの宝石が付いたピンでとめている。
もちろんこの宝石にもローゼンクロス辺境伯家の家紋が入っている。
会場に入ればまず、叔父上と叔母上への挨拶に向かう。
まず、叔父である吸血鬼の王は、流れるような銀色の髪を首筋に少し垂らした美貌の男性である。瞳は青で優し気な瞳、肌は色白で耳元にはシルバーの魔力制御用の耳飾りが揺らめいている。淡い金色を基調とした礼装に身を包むこのひとが叔父のロイド王。
そして隣に座りにこやかに微笑んでいるのが叔母であり王妃のセレーナさま。マティ兄さんと強烈に血のつながりを感じさせるプラチナブロンドの長い髪は腰まで伸びており、眼差しは慈愛に満ちており、色は俺たち兄弟にも多い赤。耳元には金色の月を象った耳飾りが煌めいており、胸元にはロイド王の瞳と同じ青い宝石が煌めく。夜の女王のように美しいセレーナさまは本日は黒いふんわりとしたなドレスを身に纏っている。
叔父と叔母に挨拶し、フィアを紹介すれば早速とばかりに叔母が誘惑しにかかる。
「あら、とってもかわいいお姫さまじゃない。セシナも隅に置けないわね。そうだ、今度お茶会を催すのだけどあなたも来ない?」
「えっ」
いきなり誘われたフィアは明らかに戸惑っている。
「叔母上、突然やめてください。一応婚約したてなんですから」
「いいじゃない。こんなかわいい女の子を独り占めだなんてずるいわよ」
「ですけど、その。(ギルの婚約者には会わせたくないもので)」
周りの吸血鬼たちの耳に入らぬよう、叔母と叔父にだけ聞こえるようにこそっと言えば・・・
「あら、そんな野暮なことしないわ?」
「おや、お気に召さなかったんですか?」
「ふふ、ここでは言えないわ。でもすぐにわかったりして」
「楽しみにしています」
そう答えれば、ロイド王がふふっと苦笑を漏らす。
「愚息も久々に楽しくなりそうだからね」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ」
ギルの二つ名と合わせて性癖も知っている俺は内心嘆息する。
「まぁ、俺たちは目立たないよう壁の華となりますので」
「うまくいくといいね」
「あら、勢いだけはよさそうだったけれど」
何が、誰が、とは聞かなくともわかるから敢えて聞かない。後ろを待たせてもあれなので次は王太子夫妻に挨拶することになった。




