ローゼンクロス辺境伯家での日々
「フィアは何色が好きなんだ?」
「えっと、落ち着いた色が好きです」
フィアが我が辺境伯邸に来た翌日。予定通り仕立て屋を呼び採寸をすませ、いくつかオーダーを出すことになったのだが。
「茶色とか、グレーとか。じ、地味・・・ですか?」
「いや、フィアにはフィアの良さがあるんだから、堂々としていればいい」
「は、はい!」
そう伝えれば、フィアは嬉しそうな表情を見せた。
「じゃぁ、ブラウン系やグレー系でいくつか用意してくれるか?」
そう伝えれば、仕立て屋の主人はもちろんだと頷く。
「ダークブラウンのワンピースもご用意しますのでご安心を」
と、小さな言葉で付け加えてくる。
・・・よ、余計な気を回してきたな。別にそれはいいが。
「そうだ、ドレスも落ち着いたデザインでダークブラウンのものがあるのよ。ほら!」
と、仕立て屋の夫人。
「ブラウンが地味だとか言う時代遅れもいるけれど、ブラウンの魅力は幅広いのよ?赤い宝石なんかを胸元に飾ったら引き立つわよ」
げ、こっちも余計な気を回してきたぁ―――。
それに、赤い宝石だなんてあからさまな気が。
「そ、その、ドレスはステキですが、宝飾品は手持ちがないので」
と、フィアが夫人に推されつつも不意に俯いてしまう。
「あら、大丈夫よ。そこはセシナさまが用意するんだから!」
「え、そんな!」
「あぁ、心配しないで。ウチの一族やその配偶者、婚約者は代々ウチの家紋をあしらった宝飾品を身に着けるのが伝統だから。こちらで用意する。慣習で大事にしているものだから任せてほしい」
「わ、わかりました。よろしくお願いします!」
ぺこりっとお辞儀をするフィア。そんなフィアに夫人がぎゅむーっと抱き着く。いや、いくら女同士だからっておい。
「やだっ!この子かわいいわぁっ!私、たくさん頑張っちゃうからねっ♡そうだ、落ち着いた色合いが好きなら、ブラウン、グレー、その他にもネイビー、ダークグリーンなんかもどうかしら?いろいろな色があった方がおしゃれが楽しくなるわ」
「おしゃれ・・・ですか?」
「エリンちゃんも、フィアナちゃんを着飾らせたいわよね!」
と、夫人が後ろに控えているエリンに目を向ける。
「えぇ、もちろんです」
「エリンったら・・・」
フィアは少々照れながらも、俺に視線を移す。
「あぁ、俺もいいと思う。夫人、よろしく頼む」
「任されたわ。あぁ、ついでにセシナさまの礼装はどうなさって?」
「そりゃぁもう、決まっているだろう」
と、夫人と主人。
「アッシュブルーを取り入れますね!」
と、こっそり言ってくる主人。全く抜け目のない。
「あぁ、あと他のご兄弟からもオーダーを受けておりまして。まとめてサインをいただいても?」
「まぁ、いいけど」
あの兄ども、いつの間に?
仕立て屋の主人が差し出してきたオーダー表にさらっと目を通す。
・ピンクのフリフリロリータドレス
・青いハーパンスーツセット
・お兄ちゃんとお揃い黒猫着ぐるみパジャマセット
・お兄ちゃんと一緒に解剖・解剖衣セット
「あぁ、悪いけど兄たちのこのオーダーは全て却下で」
「よ、よろしいのですか?」
「うん、十中八九着させられるのは俺とフィアだが着ないから、税金の無駄だろう?」
「まぁ、しがない領民の我々にとっても着ていただかないものをご用意するのはしのびないですな」
だろ?仕立て屋の主人と夫人も平民だもんな。税金を領主に納めている以上、そこは注目すべき点だろう。
「そうそう。あと兄たちにはしっかりと言いつけておくから心配しないで。あと、フィアの服を最優先で用意してほしいし」
「そうよねぇ!まずはお姫さまをかわいく着飾らせるのが最優先だものっ!」
と、夫人。
「お、お姫さまだなんて」
フィアは照れていたが。
「あら、私たち領民の間では有名よ?辺境伯一家5人兄弟の末っ子セシナさまが人間のお姫さまをお嫁さんにもらうんだって」
「私はしがない令嬢で」
「私たちにとっては十分お姫さまよっ!」
まぁ、王家の親戚である公爵家だ。そう言う表現も間違ってはいないし、夫人の前では女の子はみんなかわいいお洋服を着せたいお姫さまだからな。
「俺にとってもな」
「えっ?」
「とにかく、フィアのドレス姿が楽しみだよ」
そう言ってフィアの髪を梳いてやれば、何だか恥ずかしそうにはにかんでくれた。
仕立て屋の夫妻が浮足立って辺境伯邸を後にすれば、次は宝飾品か。
「宝飾品は専用の御用達がいるんだ。夫人が言っていたように、赤で構わないか?」
「は、はい。もちろんです。でも・・・私に似合うでしょうか」
「心配ない。大丈夫」
頬に手を添えてやれば、少し安心したようにフィアは頷いた。
「では、エリン。それで手配をしておいて。俺の分は・・・」
「心得ております」
何だかエリンにもすっかり見透かされているようである。
「じゃぁ、まだまだ時間は余っているから、書庫に行く?」
「・・・はいっ!是非!」
どうやら実家から本を持ってきたように、本にはとても興味があるようだ。
「俺はよく隣の人間の辺境伯領から人間の土地の本も取り寄せているけれど、こちら側の本もあるんだ」
こちら側、と言うのはもちろん吸血鬼側の本である。人間の土地の本は様々な分野のものがあるし、小説のジャンルも豊富だ。
だからこそ俺はよく仕入れている。
早速書庫に向かうと、その蔵書の多さにフィアは驚いていた。
「まず、あっちが吸血鬼側の本。難しい研究の本や魔法の本が並んでいてね、あっちは主に兄さんたちが取り寄せた本かな」
「難しそうな本がたくさんあります!あの・・・魔法の本なども拝見していいのでしょうか?」
「あぁ、もちろん」
「でも、私は魔法が使えなくて。魔力はあるのに。読んでも無駄だと言われたことがあって・・・」
そんな、誰に。何だか強烈にあの妹が言ったような気がしてならないが。
「吸血鬼からしたら問題ない」
「吸血鬼からしたら・・・てどうしてですか?」
「魔力が多い人間なら、その血を飲めば俺たちはその魔力の恩恵を受けられるから」
「・・・っ!」
その瞬間、フィアは驚いたように両手を口の前に翳す。
「その、じゃぁ私は、吸血鬼さんたちのお役には立てるのですね。何度も、役立たずと言われたこともありますけど・・・嬉しいです。私の血を飲んで元気になってくださるのならいくらでも差し上げます!」
役立たずって。何だろう、前々婚約者のカイム第2王子が言いやがった気がするのは気のせいか。だが・・・。
「いくらでも、はダメだ」
「そうなのですか?」
きょとんと首を傾げるフィア。この子はちを飲まれることに抵抗はないのだろうか?普通は恐がりそうなものだが。
「フィアの婚約者・・・将来の伴侶は俺なんだから、俺以外の吸血鬼に簡単に血をあげてはいけないよ」
俺は混血だけれど、基本的に大切なひとの血を他者に奪われるのを嫌がるのが吸血鬼らしい。特に兄たちは俺の血を他者に飲まれることは嫌がる。
昔、ギルが俺の血が飲みたいとか言ってきた時は、本気でヤバいことになったからな。あの兄ども。
いや、ギルにはやらないし、やったこともないけども。
「あ・・・ご、ごめんなさい」
「いいよ。フィアはこれから吸血鬼のことを学んで行けばいい。吸血鬼に関する文献は主に俺が集めている本棚にあるな。ここ」
「こちらに・・・あ、本当です!たくさんあります」
「興味があればいつでも持ち出して構わないから」
「はい!あの、おススメなどはありますか?」
「そうだな・・・ここらへんかな」
いくつか見繕ってフィアに渡せば、嬉しそうな表情を見せてくれる。
「あと、小説や何かもあるから自由に持って行っていいよ」
「はい、嬉しいです!」
その後発注を終えてきたエリンが戻ってきたので、早速フィアが興味を持った小説を一緒に持ちながら一緒に部屋まで送ることにした。
「あの、そう言えば昨夜仰っていたお兄さま方のおススメの本もここにあるのですか?」
「・・・いや、あれは兄さんたちの部屋にあるかな?」
大人向けの本だしな。俺も小さい頃からここに出入りしていたから、万が一子どもの目に留まったら困るじゃん?そう言うわけで。
「あれは読まなくて大丈夫だから」
「お兄さま方と本の話題でお話できればと思ったのですが」
「吸血鬼に関する本の話題でも大丈夫だよ」
「そう言えば、そうですね」
フィアが納得したように頷いたので、人知れず安堵した俺であった。
※本日中に間に合えばもう1話くらいUPしたいところですが・・・頑張ります(`・ω・´)ゞ※




