セシナの書斎にて
晩餐の後、フィアを書斎のソファーに案内して例のパーティーのことを伝えることにした。
「・・・吸血鬼の王さまのお城でのパーティー、ですか?」
「そうだ。ギルバート第2王子殿下とその婚約者の婚約発表パーティーだ」
「そう、ですか」
「もしフィアが嫌だと言うのならば無理は言わない」
「いえ、それではセシナさまにご迷惑がかかります!」
「いや、ギルは幼馴染みで従兄弟だから大丈夫だ。今回の招待状も辺境伯であるマティ兄さんにも届いているから、俺たちの分はギルの幼馴染みと言うことでおまけの招待だ。絶対参加しなくてはいけないわけじゃない」
「ですが」
「何か不安があるのか?ひょっとしてジュリアンヌ王女殿下の件か」
「それは・・・っ」
フィアの瞳が見開かれる。
「心配ない。あくまでも彼女は人間の王女だろう?俺は人間との混血だけれど兄たちは純血鬼だし、それにウチの辺境伯家は人間の王家にケンカを売られても痛くも痒くもない。むしろ、吸血鬼の王妃の兄の実家であるウチにケンカを売ったらそれこそ吸血鬼の王が怒るだろう」
「セシナさまは、王さまの甥御さんなのですね。私、何も知らずに・・・」
「いや、いいよ。人間の領域に住んでるのに吸血鬼の領域に詳しい方が珍しい。必要なことがあればこれから知って行けばいい」
「はい」
「それにパーティーにはマティ兄さんも出席する。吸血鬼が多めだが、人間やその混血だっている。そんなに不安がらなくていい。何かあれば俺がフィアを守るから、大丈夫だ」
「セシナさま」
「どうだ?」
「あの、い、行きます。私」
「そうか、ありがとう。他に不安なことはないか」
「その、ジュリアンヌ王女殿下の件でもしかしたらセシナさまに嫌な思いをさせてしまうかもしれません」
「王の甥、それも婚約者の幼馴染みの前で無礼な真似を働いたのならばあちらが逆に追い詰められるだけだ。フィアは堂々としていればいい」
「・・・はい」
フィアは不安な表情を隠しつつも頷いてくれる。
「じゃぁ、明日仕立て屋を呼ぶことになったから、その時にドレスと普段着のワンピースをいくつか頼もう」
「普段着、ですか?あの、今日ももらってしまいましたし、その、悪いです」
「いや、それは既製品だからな。それにオーダーに関しては問題ない」
「お金が、かかります」
フィアの実家の公爵家は財政が逼迫しているわけではない。領地も潤っているし、今までは近衛騎士団長と魔法師団員の両親の給金もあったはずだから十分に蓄えはあったはずなのに。フィアはそこが気になっているのか。何だか腑に落ちないな。
「心配ない。それくらいの代金はウチにとっては痛くも痒くもない」
「あ・・・私、失礼なことを?」
「いや、構わない。ウチの財政を気にしてくれたんだろう?これから暮らしていく家だ。知っておいて損はないし、そこまで興味を持ってくれて嬉しいよ」
「・・・セシナさまはやはり、お優しいです」
「そうかな」
「はい、とても」
そう、幸せそうに微笑む彼女の表情が印象的だった。
―――そして彼女を部屋まで送った後、俺は報告を受けていた。
「そうか。フローリア公爵家の面々は、出立の準備を整えたんだな」
『はい、領地までは馬車で三日の行程です』
ウチの空飛ぶ馬車ならば半日で人間の王都から領地まで着くが、陸路となればそうはいかないのだ。
『そして、ひとつ気になることが』
「どうした?」
『色々と探りを入れていたところ、フィアナさまの部屋を確認した公爵夫妻と兄君が憤慨されておりまして』
「一体どういうことだ?」
『公爵夫妻は一刻も早くフィアナさまを“避難”させるため、必要なものだけ持たせて後程領地からこちらへ他の私物を送るつもりでいたそうですが、フィアナさまのお部屋は既に空っぽだったそうです』
「空っぽ・・・」
『はい。クローゼットの中には服は一着も無く、あちらの第2王子から贈られた王家からの宝飾品もない他、公爵夫人や兄君が与えていた宝飾品などもなかったそうです』
まぁ、フィアに対するカイム第2王子の所業は俺自身が目撃しているから、あんなのが与えた宝飾品を持っていないのは別に良かったが。
「王家に返却したのではないのか?」
『婚約を破棄した際に、王家側に非があったことからも王家から返却は不要と仰せつかり、その中には王太子妃殿下から譲り受けたものもあったらしいのです。王太子妃殿下からその話を聞いていた兄君もその存在を知っていたので何一つないのはおかしいと気が付かれたようで』
王太子妃殿下は公爵家の出身だと言う。同じ公爵家の子女同士、フィアの兄は王太子妃と交流があったとしてもおかしくないし、妹が世話になっている以上は会話を交わすこともあったのだろう。確かルシウス兄さんに吐かせた内容の中にフィアの兄が王太子の側近を務めていたと言うのもあった。無論、王都を両親と共に引き払うことにしたため、王太子の側近も降りたようだが。
「こちらにいくつか持ってきているのでは?」
『荷物の整理を手伝ったエリンの話によれば、宝飾品の類は持ってきておらず、ワンピース数着と本が何冊か、だったそうです』
いくら何でも急いでいたからと言って、それだけ。しかも部屋が既に空っぽと言うことは彼女の私物はそれしかないと言うことになる。
「それで、どうなった」
『兄君が三女の荷物が異様に多いことに気が付き中を確かめたところ、兄君が王太子妃に聞いていた宝飾品と思われるもの、夫人と兄君がフィアナさまに贈った誕生日プレゼントのドレスや宝飾品が大量に出てきたそうです。夫人や兄君はフィアナさまが簡素なワンピースを着まわしていたことを問うたことがあったようですが、フィアナさまは気に入っているからと言い切っており、ご両親方も納得していたようです』
「だが、実際はその三女がフィアから奪っていたと言うことか?」
『その可能性はあります。三女は全てもらったと主張しているようですが』
「フィアに一度聞いてみた方がいいかもな」
『はい。公爵も領地に帰ったら、フィアナさまに確認の手紙を書くそうで』
「そうか・・・。それで、そのくだんの三女も領地に一緒にくるのか?」
『その予定です。しかしひどくお怒りの公爵は、領地につき次第三女を監視を付けて謹慎させるつもりのようです』
「はぁ・・・そうしてくれ。領地に一家で引き籠るのは止めはしないが、ウチの辺境伯領の近くにそれがいるのはどうもな」
『人知れず始末することもできますが』
「言うな。俺がお前を止めてもジル兄さんが調子に乗って本当にやりかねない」
「ダメなのか」
ほら!そうやって弟のことをストーキングしてるだろうがっ!俺は振り返って影に潜んでストーキングしつつ、ひょっこり姿を現したジル兄さんを睨む。
「ダメだから」
「でも」
「俺は今のところ何もされてないだろ?」
「まぁ確かに」
「だからこの件は暫く様子見。もしウチに近づくようなことがあればまずは拘束、兄弟会議だろ?」
それがウチの基本ルーティン。まずは抹殺、解剖ルートに行かないように決めた家族ルールである。
「そうだった。では、それで」
「あぁ」
「あと、あちらの王室のことも調べているのか」
「あぁ、ギルの婚約者についてな。だって、ギルの婚約者だぞ?」
「ギルバートが気に入ったのか、何か思惑があるのかは不明だな」
「そうだなぁ・・・あのギルだから」
俺はふぅっと溜息を漏らした。
「それじゃ、俺ももう休むから、ナルもあがってくれ」
俺が傍らに控える影に声をかけると、「御意」と答え、颯爽と姿を消した。
「あと、ジル兄さんも早く自分の部屋に帰って。俺の寝室にまで付いてこないで。わかった?」
「ダメなのか」
「ダメだっつの!」
やっぱりしれっと付いてくる気だったか。この弟ヲタめ。
※続きは明日更新予定です(`・ω・´)ゞ※




