第94話・魔王、帰省する
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人が『魔の森』と呼び、決して近寄ろうとしない土地が在る。
ここは今なお魔族が多く生息しており、人々を寄せつけない。
その一角には巨大な建造物があり、数百年と言う時を経て緑の覆われ朽ちているが、今日は久しぶりに歓声が聞こえてきた。
「魔王様、芽が出ております! 奇跡です、奇跡が起きました!!」
「あぁ・・・・やったな」
魔王城の一角にある巨大な露天、元は大型魔獣の生活区域だったそこには小さな植物の芽が幾つも顔を出す菜園と化していた。
これらはソギクイモと言って、魔素が濃い土地でも実を付ける農作物の一つである。
土地と僅かな水さえあれば育つというところに惹かれ、前の仕送りの際に飼育キットを買って帰ってきた。
他にも耐性のある作物が、廃墟となった魔王城に根を下ろし緑を彩っている。
「なかなかではないか。 今度も買って来たぞ、ニンジンロードという野菜の一種らしい」
高々と見せ付けた飼育キット(種)を前に、「オオッ!」と魔族たちから歓声が上がる。
魔族たちの棲む土地でフツウの植物が育たないのは、魔力が濃すぎて、作物が大きくなる前に成熟し枯れてしまうのだそう。
農作物に『適材適所』というものがあるという事を知ったのは、つい最近の事だ。
魔王が買ってきた種を手にして、魔族はそれぞれ異なる反応を見せる。
「ニンジンロードとは強そうな・・・・・空きっ腹にパンチが効きそうな名前ですね」
「人間が強くあるのも、もしや・・・・・?」
これについては、魔王も同じ事を思った。
だが買ったところの店員いはく、耐久性が高い以外はフツーのニンジンと同じらしい。
「人間の生産性の高さには脱帽ですね、何百年の前にボロ負けしたのも頷けます・・・・・」
「そうだな。 先代の魔王様が人間の土地を欲していたのも、今なら分かる気がするよ」
現魔王が人間を深く知ったのも、この農作物の知識も全て、街へ出稼ぎに行った事に他ならない。
何より驚いたのは、最近になって始めた狩猟免許の勉強だ。
免許を取るには、彼女の思っていた魔物の生態のほか、ルールや道具の使い方など、多くの知識を必要とする。
その中にあったのが、この農作物の栽培だ。
魔素の濃い場所と言うのは、人間の生息地にもホットスポットのように存在しており、そこで採れる作物は栄養満天になるのだそうだ。
だいぶ品種が、限られてしまうようではあるが・・・・。
だが城に根付い植物は、力強く芽吹いており、見るだけで削れた魔力がみなぎってくる様だ。
ひとしきり上機嫌そうに笑みを浮かべた魔王だったが、その前に彼らに注意しておくことがあった。
「だが収穫したものは、くれぐれも生では食うでないぞ? 『ボーエキ』とか言ってな、生命力が削られてしまうからな」
驚くべきことだが、生の作物には毒が含まれているらしい。
これは飼育キット裏の説明に、その事が細かく書かれていた。
生命力の強い魔族なら死ぬことは無いが、かなりの魔力を無駄に消費してしまう事になる。
ようするに、人間に倣おうというわけだ。
無駄に魔族たちの不安を煽らないよう、魔王は自身最高の笑みを浮かべて見せた。
「それに、素材のままより料理をした方が美味いぞ?」
「『リョーリ』ってナニ? それって美味しいの??」
その魔王の言葉に割って入るように、魔族の少女が首を傾げる。
他の魔族たちは居た堪れない様に、そっと視線を逸らす。
この少女は大戦後の困窮時代に生まれた魔族で、固めのパンか、炙ったマンティコアの肉ぐらいしか食べたことが無い。
無垢で、なぜ魔族がこんな状況に置かれているのかすら、理解できていない。
ソレが堪らなく不憫で、魔王は情けなかった。
少女の頭に手を載せ、ポンポンと撫でる。
「チビ、作物が育ったら城で収穫祭をしよう。 料理をして、盛大に祝うのだ」
「魔王様・・・・・・」
この子に限らず、魔族には料理を知らないものは多い。
魔王たるもの、それぐらい叶えられずして王は名乗れないのではあるまいか。
「私チビじゃなくて、ユングだよ?」
「ユング、料理の美味さを教えてやるぞ」
ユングと言うらしい。
魔王だって、魔族全員の名を知っているわけでは、無いという事で。
彼女の頭を撫でてやる。
次の給料日には、料理の指南書を買って来よう。
「そろそろ私は、戻らねばならん」
「魔王様、また人間の街へ行かれるのですか?」
しばらく城に残って、成り行きを見守りたいとも思ったが、そうも言ってられない。
すべては魔族の困窮を打開するため―、そう自分に言い聞かせ、魔王は転移した。
廃墟の魔王城とは打って変わり、現在の拠点にしているテバスは、街壁の外からも工事の音が聞こえてくる。
この街は今、『成長』している。
「魔族だって、これぐらい・・・・!」
街へ出稼ぎに来る遥か前から分かっていた事では在るが、人間達の物価は高い。
なけなしの魔王様1か月分の給料でも、買い込める食糧は決して多いものではなかった。
回転操業に、未来はない。
だが魔族の土地で育つ作物があるなら、その種子を、栽培法を携えて帰り根付かせることが出来れば、より多くの魔族を助けることが出来る。
人間に出来たのだ。
魔族や魔物にだって、街を作ることは出来るはずである。
「やぁシアちゃんか、いま帰りかい?」
「門番殿、ご苦労である」
多いときで、日に何度も門を通る魔王は門番に、顔を憶えられていた。
ほとんど顔パスのように門をくぐり抜けた先には、変わりないテバスの街が広がっている。
魔物も多くの種族に分けられる、もし参考にするなら、この街だろう。
「おっと、見惚れてしまった」
城の作物が育つのを見たためか、その先の将来を考えることも最近、多くなってきた。
そのためにも仕事により一層、身を入れていこう。
目下のところは、冒険者の資格を取る為に!
次話は、決まっておりません。
今後とも、よろしくお願いいたします。




