第79話・魔王様、余計なお膳立てをする
今週、インフルエンザで寝込んでいた影響で、来週の投稿が延期となるかもしれません。
ご了承下さい。
魔王様が、人間の街へ出稼ぎに来てから、多くの事があった。
就職活動をして、人間の知り合いを作って、転職までして。
おおよそ魔族の王とは縁遠い、それでも有意義な時間は矢のように過ぎていった。
「ではクルス、留守にするぞ。」
「おぅ、羽を伸ばして来い!」
回復魔法を掛け続ければ、休み無く働くことなど造作も無い。
こういう時は、疲れが残りにくい魔族の体はありがたいモノだった。
だが『はぐれ者亭』はシフト制を使っているので、ばしゃ馬のように働くことは出来ない。
今日も半日ばかり休みになったので、それを有効活用する事にしたのだった。
店を出た魔王は、大通りをまっしぐらに西に向かう。
「幸せになってもらいたいからな。」
魔王の知り合いのウチの2人が今度、付き合う事になった。
しかしどうも、固く考えすぎな気がする。
会って間もないならともかく、お互い相手の事を知っているのだし、お互いがお互いを想っているのは、傍から見ていれば間違いないと考えられる。
強いて言うなら、後は気持ちを確かめ合うだけ。
そこで。
休日を持て余し気味の彼女は、おせっかいは承知で『専門家』にこれを相談してみる事にした。
自分は400年も城に籠もっていた、筋金入りのひきこもり。
恋愛相談など土台無茶な話だ。
これから行くのは、いわば恋愛のスペシャリストの居る店。
あいつほどの適任者は居ない・・・と思う。
たぶん。
「ここだ。」
目的の店は『はぐれ者亭』からそう離れては居ないので、身体強化した魔王はあっという間に到着を果たした。
その名は『夢見亭』
サキュバスという魔物の亜種が経営しているのだが、これが嫉妬するぐらい繁盛しているのだ。
彼女らは色欲と色恋に働きかける、そのスジの天才なので、今回の相談にはもってこいと判断させてもらった。
店は夜からで昼は開いて居ないので、魔王は裏口へと周った。
◇◇◇
「―と、言う訳で、邪魔は承知で訪ねさせてもらった。」
「まあ、そうでしたか。」
幸いにもリリスは、中で開店の準備をしているところだった。
無理を承知で協力を頼んだが、彼女はイヤな顔一つせず、相談に乗ってくれた。
初めて街で会った時には殴り倒したが、今は存在のありがたさを噛み締めている。
対してリリスも、とても嬉しそうに表情を綻ばせていた。
「そうですか、それで私にご相談を・・・。 これは色恋を司る魔物として、私も腕がなります!」
むしろ、テッカテカの笑顔で。
魔王の頭のなかを、一抹の不安が過る。
「いやいや違うからな、おかしな事はするなよ??」
「あ・・・、そうなんですか。」
いろいろ手を下すつもりだったのだろう。
リリスは残念そうに、顔を俯かせた。
魔王が彼女らに頼みたかったのはあくまで、雰囲気の盛り上げ役。
人心の掌握にも長けている、リリスを始めとしたサキュバス族が適任だ。
「まったく・・、お前達はブレが無いな。」
「いえー、それほどでもぉ♪」
「褒めては居ない。」
他に考えることは無いのかと呆れるが、思い返せばソレを利用して、こうして相談を持ち込んだのは魔王自身だ。
小さくため息をついて気分を落ち着かせ、話を進める。
「ともかく詳しい日程などは決まり次第、伝える。 その時は頼むぞ。」
「そういう事なら、私より適任がおります。 彼女の起用を、お許し頂けますか?」
「采配は任せよう。」
彼女のヤル気はいつも買っているので、一任することにした。
魔王がリリスに頼んだのは、『お膳立て』である。
良い雰囲気を作って、セリアたちのデートに一花咲かせようと、したのである。
とんだ『おせっかい』ではあるが、魔王が気付いているかは分からない。
コレと決めたら突っ走るのが、彼女の長所でもあり、短所でもあるのだから。
「お茶をお持ちしまして、ございます。」
「ご苦労さま。」
「ベルナンデス!」
かつて開墾作業で泥まみれになっていた魔王四天王は、パリッとしたタキシードを着込み、上品に仕立てられていた。
彼は2人の前にお茶を、慣れた手つきでコトリと置いた。
出で立ちや立ち居振る舞いは、レストランのボーイそのもの。
つい最近まで一人、野良仕事をしていた姿など、想像もできない。
魔王は、二度びっくりしてしまった。
「最初は誰か分からなかったぞ、慣れたものだな。」
「お褒めに預かり、光栄に存じます。 リリス殿に鍛えられました。」
「ブッ!」
ガハハッと笑うベルナンデスだったが、魔王は笑えなかった。
ここ『夢見亭』はリリスたちが経営している、大人向けの夜の店という性格が強い。
ベルナンデスはそこで、ただ一人いる『男』という存在。
しいて言うなら飢えたライオンの檻に、シマウマを放り込んだようなモノである。
「リリス貴様、何かおかしな事はして居らぬだろうな?」
「や、やだ魔王様・・、そんなワケ無いじゃないですか・・・。」
「リリス殿は誠実な御仁なので、心配いりませぬ。」
ベルナンデスのフォローに、リリスがホッと安堵のため息を洩らす。
後ろめたいことが無いなら、ただ『していません』と言えば良いだけなのに。
魔王はそう思わなくも無かったが、深く考えるのは止めた。
「フレアはどうした? 休んでいるのか?」
フレアは、ベルナンデスが契りを交わした女魔族である。
最初は彼らに相談しようとしていたが、参考になら無そうなので止めた。
この質問にベルナンデスは、胸を張って答える。
「フレアは台所で、昼からの客に出す料理の下準備に掛かっております。 いやはや、私には過ぎた者でございますな。」
「ソウカ。」
話が一瞬にしてのろけ話に変わり、魔王は遠い眼をして、これに相槌を打った。
まさか当時、コイツが誰かと契りを交わすだなんて、微塵も思っていなかったなー。
別に妬いている訳ではないが、ベルナンデスが伴侶を持つなんて想像だにして居なかった。
などと明後日の方向に、魔王は思考を持っていった。
「幸せそうだな。」
「ええ、それはもう! それもこれも魔王様のお陰にございます。」
そこで何故に自分の名が?
と、ふと疑問を感じたが、脳筋は今に始まったことではないので、魔王はコレを聞き流す事にした。
性格が正反対の魔族2人が、こうして上手く行っているのだ。
ちょっと雰囲気等を工夫すれば、セリアたちの関係は少なくとも悪くは無い、と魔王は感じていた。
ただし、それには前提として、2人の予定を魔王が予め掴んでおく必要があるという、今の魔王にはハードルの高い事をクリアしなければならないのであるが。
◇◇◇
魔王様が他人のため、奔走していた頃。
遠くバンドル共和国はテバスという街には、もう一人の魔族が居た。
魔王四天王の一人、エグラーである。
彼は紆余曲折あって、今はセルステラという旅の商人と行動を共にしている。
今は店を開くため、露天に簡易テントを張っている真っ最中であった。
「エグラーさん、ありがとうございました。 だいぶ楽に店をひらく事が出来ますよ!」
「なに、マオー様には『受けた恩義は返せ』と言われておるのでな。 大した事はしておらん。」
エグラーが、失踪した魔王(出稼ぎ)を探しに出て一ヶ月と少し。
馬車でテバスという街に着いてから、2人で露店で商売する毎日が、ここ半月ほど続いていた。
未だ確かな情報は何一つ無いまま、時間だけが過ぎていく。
あるいは、魔王様はこの街にもいらっしゃって居ないのだろうか?
といった疑問が、彼の考えを支配しつつあった。
そんな日に日に影を帯びるエグラーを、いつも近くで見ているセルステラは、黙ってみておくことが出来なかった。
「元気を出して下さいエグラーさん、きっと『マオーさん』は、別の街で元気にしていますよ!」
「あぁ・・・。」
あるいは身分がバレ、既に亡き者にされている可能性も・・・
考えても詮無きことだが、そんな最悪の事態を考えずには居られぬほど、彼の精神状態は追い詰められていた。
下手に慰めても、効果は無いと判断したのだろう。
セルステラは再び屈託ない笑顔を浮かべ、エグラーに向き直った。
「明日には、この街を発とうと考えています。」
「なに、しかし滞在日程は決まっていないと・・・。」
セルステラの夢は、いつか安住の地を見つけて、そこで商売をすること。
この街に着いたのはほんの2週間ほど前で、商売としては『これから』というところではあるまいか。
エグラーの頭は疑問で埋め尽くされていったが、彼女は畳み掛けた。
「ここは、私の街じゃないんだと思うんです。 それに多くの街を周った方が、その『マーさん』という方の手がかりが見つかるかもしれないではないですか。」
「ふーむ・・・いや、しかし!」
一考して、エグラーはすぐ首を横へ振った。
旅をしながらの商いは、傍から見ているよりずっと大変なことだ。
道中で魔獣に襲われ、荷物どころか命さえ失うことだってある。
生半な覚悟では出来ないし、『この街は違う』などという形の無い根拠を並べるほど、『セルステラ・コッコリク』という女性は愚かではない。
彼女の言うとおり、魔王探しは、より多くの街を周った方が、遭遇率は高まるのだが・・・。
エグラーのそれは、これ以上は一緒に居るべきでないという意味でのジェスチャーだったが、当の彼女は意に介した素振りを見せなかった。
「いーえ私は決めたんです、エグラーさんには悪いですが、もう支度は出来ているんですから。」
「う~む・・・。」
そういって彼女は、手のひらに乗せた若葉を見せてくる。
バンドル共和国名産の、茶葉だ。
これが安く手に入ったので、高く売れる別の国へ向かうとの事。
当然それは、そのために仕入れた物ではないのだろう事は、エグラーにも分かっていた。
「・・すまない、また迷惑を掛ける。」
「何を言っているんですかエグラーさんは。 勝手を言っているのは私ですよ。」
その魔王様が、別の街で人間社会に溶け込みかけているとは露も知らず。
不思議なカップルは、旅支度を整えていった。
・・・その時、影から彼らの動向を伺う者が居たことに、エグラーも気付けなかった。
2人の思いは交差し、結びつく。
時間が掛かっても良いではないか、生きていれば。
・・・と、後に聞かされた魔王は思ったらしい。
次回
閑話「骨付き肉って美味しいね!」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
作者インフルエンザのため、3月11日投稿は延期となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




