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閑話・骨付き肉って美味しいね!

大変お待たせいたしました。

幻覚とか見てサンザンでしたが作者なんとか、生きてます。

健康管理の大事さを、痛感させられました。


俺が警備兵になってから、幼馴染のセリアとは疎遠になっていた。


昔は『オルザ、オルザ』と後に付いて周っていた彼女も、今や商会の一員。

彼女は自立し、もう俺が前に立っていなくても大丈夫になった。

成長するというのは頼もしくなる反面、つまらない事でもあるのかもしれない。


『母さん、セリアが仕事を始めたってよ』


『まぁ本当? この間も買い物に来て財布を忘れた、なんて言っていたあの子がねぇ~~』


実家の母に話しても、コレである。

だが反面。

大人になっても、セリアが変わらなかったことには内心、不思議と俺は安心感を覚えた。

先日の結婚の騒ぎも、元はといえばセリアの我がままが原因であり、周りは随分と迷惑をこうむったものである。

もしあのまま話が進んでいたなら、どうなっていた事か。


そういう点で、外せない女性が1人。

セリアが『シアさん』と呼んで慕っている、商会で出来た友達らしい。

見た目は華奢きゃしゃで、育ちの良いどこかの貴族の令嬢にも見えるが、その実はどちらかと言えば、行動派の熱血漢の持ち主で、どこか頼りがいのある不思議な女性だ。

街の安全を守る者としては、憧れすら抱いてしまう。

それに何故だろう、彼女には既視感があるのは。


『私を見たことがある?』


『いえ、たぶん他人のそら似でしょう。 変なことを言ってすみません』


職業柄、ブライトを訪れる人をよく目にする。

大して親しくも無いのに、俺はどうしてこんな失礼なことを言ってしまったのだろうか。

どうしても彼女が、他人には思えないのだ。

まさか俺が、恋わずらい・・・?

イヤイヤ・・・。

ありえない、ありえない。


「もうオルザ、さっきから聞いているの!」


「あぁ、すまない」


プクッと顔を膨らませるセリアの姿を見て、途端に現実に引き戻される。

彼女は昔から顔に出るタイプで、感情は読み取りやすい。

だが悪いのは俺の方なので、しっかり謝る。


「ごめんよ、ちょっと考え事をしていたんだ」


「・・・んもぅ!」


怒っているのは分かるのに、小動物の威嚇いかくのように、それは可愛らしくしか映らない。

今は彼女との初デート中で、街の市場をぶらついている。

ここは人の往来が特に多い地区で、道なりには商隊の馬車が数多く止まっており、積荷を解くなどしている。

各国の珍しい物や、露天の美味しそうな匂いが香ってくる。


「こうして歩いていると、昔を思い出すね」


「・・・・どーせ、ロクな事じゃないんでしょ」


セリアは怒っているが、むろんそんな事はない。

まだ子供の頃、街に大道芸人がやってきて、ここで各地の面白い話やその芸を披露していた際に見入ってしまったのだろう、彼女が失禁した事。

誕生日も近い事だしと、ここで買ったサプライズプレゼントに髪飾りを用意していたら、オバさんも同じのを買っていて、結局セリアは左右にソレを付けたこと。

道案内をした商馬車の人に、遠くプノン王国のお菓子を貰って分けたことなど。

全てが、良い思い出だ。


「あの時も、よく2人で歩いたよね」


「せっかくの初デートなのに、昔話ばっかり・・・・・・・」


俺たちがお互いを知ろうと、付き合うと決めたのが、たった数日前のこと。

そうは言っても、彼女の誘いで街を歩いてはみたのだが。


「まったく、これじゃただ散歩をしているだけじゃない」


「そう、言われてもなぁ・・・・」


彼女セリアとは幼い頃から、何度となく外を出歩いていた。

今さら一緒に歩いても、初々(ういうい)しさなど皆無だった。

こればかりは抗議されても、俺にだって打つ手ない。


「じゃあ、どうしたら良いのさ」


「それは・・・男の人が考えるモノでしょう?」


『理不尽』という単語が、再三にわたって頭をよぎる。

女は男がエスコートするものだと、誰がそんな無責任なことを始めたのだろう。

来る前に読んだ『マグシィ』という雑誌を思い出せ。

こういう場面の『定番』をこなせば、道は開ける(はず)。


「そういえば、おなか空かない? あっちに屋台があったから、何か買ってくるよ。 セリアは何が良い?」


「何でも良い・・・」


結局とれたのは、あまりにフツーの一手。

俺は相手がセリアであれ、女性を相手にするというのは、どうにもニガテだ。

我ながら情けない。

帰りにまた、本屋に寄ろうか?


「警備兵のオジさん、顔が浮かないね?」


「?」


今のボクは、怪訝な顔をしている筈だ。

今の僕は私服なので、警備兵とは分からない。

怪訝けげんに思って顔を上げると、露天から顔を覗かせる2つの目が、こちらに熱い視線を送っていた。


「なんだ君か、僕はおじさんって言う年齢じゃないよ」


そこに居たのは前に迷子を連れて以後、幾度となく詰め所を訪れている少女だった。

相手の子を励ます姿が、今でもありありと思い出せる。

以後は会えば、挨拶を交わしている仲だ。


「ここで店を出していたのか、へ~何を売っているの?」


「雑貨屋だよ」


店の棚を見せてもらうと納得、所狭しと各国のイロイロのものが売られている。

エルフの伝統織物、ドワーフの作った装飾品、ワーウルフの毛皮で作った防寒着、マンドラゴラから作った媚薬びやくなんてのも・・・・・・

まるで、ここだけで世界旅行をしているような錯覚も覚えてしまう。

更に横には、軽食が楽しめる屋台が併設されており。

そんな事を考えていると、露天のカーテンの奥から母親らしい女性が姿を現した。


「お母さん、この人がいつも言ってる・・・・・」


「まあまあ、いつも娘がお世話になっているようで」


「いえいえ、こちらこそ」


深々と腰を折り、その女性は丁寧に礼を述べ、柔らかい笑みを浮かべてきた。

この子ありて、この親ありという事なのだろう。


「いらっしゃい、何をお求めで? 何でも揃ってますよ」


「えぇ、目新しいものばかりですね」


ここにあるのは、どれも珍しい物ばかり。

中には耳飾りなどの小物もあって。

そうだ、ここでセリアに何か買っていくとしよう。


「小物で何か、オススメはありますか?」


「誰にあげるの?」

「こら、ヤボ言っちゃお客さんに失礼でしょ!」


すかさず疑問をぶつけるのを、母親が止めてくれる。

機転に助けられた形になったが、気を使われたことで逆に、なんとも居たたまれない気分になる。

前だったら、こんなに恥ずかしく思うことは無かったのに。



露天には珍しく、きめ細かく美しい装飾品が、いくつもあった。

それを身に着けたセリアを思い浮かべると、どれも似合うような気がしてしまい。

結局のところ、目移りしてしまって何も買えなかった。

こういった時、優柔不断な自分が呪わしく思う。


「ま、これで良いか」


代わりと言っては何だが、併設されていた露天で軽食の幾つかを購入した。

小クラーケン焼きにツノジカの骨付き肉、焼き飯、金貨やきに飲み物。

ちょっと買い過ぎたかな・・?

いや、持ち帰りだから心配ないだろう。

湯気が立ち上り、容器越しに美味しそうな匂いが、香ってくる。

そう思っていた矢先、待ち合わせていた場所にセリアが居ないことに気が付いた。


「・・・またか」


別に今日に限った事ではない、この齢になっても彼女は好奇心に任せて居なくなるのだ。

それが彼女の魅力でも在るのだが、探す方はたまったものではない。

おおかた大道芸人が通ったとか、客引きに遭ったのだろうが・・・・

しょうがない、捜すか。


「まったく、どこに行ったのか」


職業がら、人探しなどは日常的だ。

それもセリアのとなれば、そう遠くには行っていない筈・・・


「ごめんなさい、悪気は無かったんです!!」


・・・などと考えていたら、時間を掛ける事なく見つかった。

安心した反面、その物騒な文面に自然と神経が張り詰める。

誰に謝っているんだ・・・?

あまり目立たないように路地裏に身を隠し、顔だけ出すと。


「誠意が足りないんだよ、連れが怪我したんだぞ!」

「痛ててててて!!!」

「うわっっ、これは骨が折れてますぜ兄貴! やい姉ちゃん、治療費を出しやがれ!!」


「そ、そんな・・・」


ベタな・・・。

彼らは『当てられ屋』と言って、あぁして金などを巻き上げるこすい集団である。

やる方もやる方だが、ソレに翻弄ほんろうされているセリアもセリアだ。

あんなのは、ちょっとでもめられたら付け上がられる。


「こら、何をしている!?」


「オルザ!」


「なんだテメーは!??」

「コイツの連れか?」


随分と絡んで来るチンピラだと思って、思い出した。

今の俺、私服姿だった・・・。

完全に俺たちは、カモと認識されているらしい。

3人の男は手をゴキゴキと鳴らし、下卑た笑みを浮かべてこちらに向かってくる。

しかも腰には剣が差してあり、1人が抜き身する。

これは、厄介だ。


「セリアは早く逃げろ、警備兵を呼ぶんだ!」


「で、でも・・・・・」


「早く!」


「わ、分かったわ!」


これでそう掛からないうちに、警備兵が来る。

2人の男がセリアを追おうとしたので、すかさずその進路を阻み、同時に2人に対して不意打ちする。

スマートとは言えないが、これで2人は暫く、立つ事すら間々ならないだろう。

しかし残った1人は、切りかかってきた。

それもメチャメチャな剣筋で。

きちんと訓練を受けたことが無いのだろう、しかしその分、剣筋が読めないので危険だ。


身を守るため、チンピラの1人が差していた剣を腰から抜いたが、ここは街中で、今の俺は民間人。

攻撃魔法を始めとした武器の使用は禁止されており、その法を犯すことは出来ない。

だから剣は鞘から抜かず、そのままの状態で構えた。

当然ながら相手は、そんな俺を小馬鹿にする。


「なんだソレは、ソレで俺の剣に勝つつもりか?」


「・・・」


基本がなっていない分、スキだらけの相手に遅れをとる俺ではない。

がら空きの腹部に鞘を当て、勢いで後ろへ飛ばされた彼は、そこで気絶する。

こうして事件が終わった頃、セリアが警備兵を連れて戻ってきた。



◇◇◇



チンピラ共を警備兵に渡して。

衆目から離れるため、市場から離れる事にした俺とセリア。

あんな事になってしまい今日は、とてもデート気分では無くなってしまった。

なんとも運が悪い・・・・・・。

買った料理は各々、帰宅して食べることにした。


「ごめんなセリア、こんな事になって」


「全然、だってオルザ格好よかったもの」


ウソでも良いから、そう言ってくれるセリアが優しいと思うのは、俺の贔屓目ひいきめだろうか?

俺も彼女のほうを向くと、彼女と視線が交じ合い、途端に表情が曇る。


「血が・・・・・」


「え・・・っ?」


セリアは手元からハンカチを出すと、それを俺の右肩に当てた。

するとみるみるハンカチは、血で滲んでいく。

どうやら先ほどので、怪我を負っていたらしい。

我ながら、油断していた事を反省する。


「まったく、バカみたい」


「俺の仕事は、市民を守る事だ。 たとえ誰であっても、悪人であっても。」


それが、警備兵の責務なのだから。

結果として流血沙汰にはならなかったし、最善は尽くせたと思う。


「・・・まったく、魔力があっても宝の持ち腐れね」


「でも俺には無いものが、君にはある。 羨ましいよ、おまえが」


反撃のつもりで言ったが、お互いに顔が赤くなる。

恥ずかしい。

ここに誰も居なくて助かった。


「夫婦になるって、お互いに足りないものを補い合うことなのかもしれないわね」


「・・・・・かもな」


お互いに足りないものを補い、支えあうから夫婦。

それも夫婦の、一つの形なのかもしれない。

・・・・・ダメだ、僕のガラじゃない。

安心した途端、腹の虫が鳴った。


「セリアも食うか?」


「・・・うん」


ガッツリ系で手軽な食べ物の代名詞、ツノジカの骨付き肉。

臭みも無くて油も少なく、それでいて香ばしい。

肉もよく焼かれているようで噛んだ瞬間、肉は口の中で溶けていった。

横を見やればセリアも小さな口で、少しずつソレを頬張っていく。


美味しいものを複数で食べると美味しいって、本当かもしれない。

ああ、こんなに美味しい骨付き肉は、初めて食べた。


魔王が魔王でなかったら、あるいは人間の街に来たことが無かったら・・・

どれほど違っていただろう?

次回

第80話「魔王、ウインドウショッピングする」をお楽しみに。


※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。

あらかじめご了承下さい。


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