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第78話・魔王様、恥かしむ

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


瞳に差し込んでくる陽の光が、いつものソレより眩しく感じる。

太陽は向かいの建物より高いところまで昇り、寒かった温度も徐々に上がり始めている。


魔王は店の中に入ってくる日光に、思わず手でひさしを作った。

警備の仕事があったため、今は非常に眠い。

魔法で眠気は誤魔化したものの、回復分を引いても魔力は減ったため疲労は増している。

彼女の異変を感じ取っていた『はぐれ者亭』の店主は、嫌味のように言葉を掛けた。


「鉄女、前みたいに立ったまま寝るなよ?」


「安心めされい!」


彼の苦言に魔王は、人差し指を頭上高く上げたポーズをとった。

弁解するようだが、彼が言っているのは先日、銀行強盗を魔王が倒した日の事だ。

あの日は群衆に巻かれ、眠気と疲労と対人ストレスによって、魔王のペースがめちゃくちゃにされてしまい、ロクに回復も出来ないまま店に出たのである。

立ったまま寝たのは、間違いないが。

でも今日は、そんな事は無い。


「むしろ力など、有り余っておるわ!」


「そうか、そうか。」


力こぶを作ってみせた魔王を見て気を良くしたクルスは、すかさずクルスが奥から出してきたほうきを渡した。

口は災いのもとである。


「暇なら掃除でもしていろ、穀潰しは許さん。」


「オス。」


もはや魔王だった貫禄はどこにも無い、そこには1人の『はぐれ者亭』の従業員の姿があった。

すでに別の1人が店内の掃除をしていたので、魔王は店先に出て掃除をすることに。

ここで力任せにしたくなりがちだが、そうすると辺りにゴミが飛び散って、箒も傷んで、うまく掃けない。

マンティコアの毛づくろいをするように優しく、なでるように掃くのがコツだ。


「いつもご苦労様。」


「おぉ、ありがとう!」


このところは、道行く人に声を掛けられても、そつなく返せる。

これも魔王がブライトに来たばかりの当時と比べれば、想像すらできなかったことだろう。


「やぁ、今日の夜も来るから、頼むよ。」


「うむ、仕事に励んで来いよ!」


ただ人間を恐がっていた頃が、はるか遠い過去のようだ。

魔王の働いている店から少し歩けば、サキュバスのやっている店もある。

それも、魔王がブライトにやってくる遥か以前から。

あるいは彼女のあずかり知らぬところで、魔族が他にも街に潜伏しているのかもしれない。


「まあ、それも良きかな。」


これまでに分かったことは、我ら魔族と人族は立場こそ違えど、それほど大きくは違わないという事。

このくだらない溝を誰が設け、誰が得をしたのだろう。

それは400年を生きる魔王にも、分からない。

少なくとも今は『魔王』としてではなく、一人の『人間』として生きる事が出来ている事実が、そこにあった。


「ふぇっくし!」


それにしても、この街は魔王城と比べ、なんと煙たいことか。

馬車の往来で立ち上った土煙に、顔をしかめる。

転移は無理にしても、魔力で荷を浮かすなどの方法でモノを運べぬものか。

と考えたところで、そういえば人族は、総じて保有魔力が低かったことを思い出す。

魔力が少なければ動かせるものは小さく、そして軽くしなければならない。

彼女が転移魔法を使えるのも、それだけの魔力を保有しているのが前提なのだから。


「いや、打つ手はある!」


掃除をする手を止め、握り拳をつくって魔王は自分に言い聞かせる。

魔力が少ない人族は無理だろうが、我ら魔族が『社会』に溶け込めれば造作も無い。

魔王四天王のベルナンデスなども街に住んでいるのだし、ただの夢幻とも言えない。

次に城へ戻った時には、一部の魔族を『移民第1号』として連れて来ようか。

魔王の夢は、際限なく広がっていった。


「シアさん。」


「ん?」


頭を上げると、魔王の前には見知った2人が立っていた。

1人は友人のセリア、もう1人は街の警備兵をしているオルザ。


「なんだ雁首を揃えて、まるでデートではないか。」


オルザがオーソドックスな黄土色の服を着ている反面で、セリアはフリルがあしらわれた若木のような黄緑色を基調とした服でめかしこんでいる。

考えてみればオルザの私服姿を見るのは、これが初めてだ。

魔王はそれを『デートのよう』と、はやしたてたが、彼らは顔を赤くさせて顔を見合わせていた。

さしもの魔王も、この小さな異変を見逃す事はしなかった。


「どうした・・・。 私は何か、おかしな事を言ったか??」


「・・・実は俺たち(私たち)、付き合うことにしました!」


魔王は目をしばたたかせ、大きく口を開けた。

アゴが外れるほど、というのはこういう場合に使うのか、などと明後日な事が頭に浮かんだ後、一拍おくれて魔王は驚きの声を上げた。


「なにーーーーーーーーーーー!??」


魔王が驚きの声を上げると、セリアたちは揃って頭をかき、はにかんだ。

大きい彼女の声はよく響き、数軒先にある商会の番頭が何事かと、飛び出す有様である。

魔王も衆目の視線に気が付くと、急いで彼らを店の中に連れ込んだ。


「クルス、席を借りるぞ!」


「お、おう。 客が増える前までにしてくれよ。」


昼時間帯はヒマなので、店主も少しは大目に見てくれる。

他の従業員達もある者は話に花を咲かせ、またある者は机を枕に早めの昼休みをとっており、いわゆる邪魔者は居ない。

魔王は目立たない端の席へ彼らを促すと早速、先ほどの話の続きを促した。


「で、付き合うとは、どういう事だ!?」


「そうなんですシアさん、私たち・・・」

「俺たち、もう一度お互いを知ろうと思いまして。」


セリアの言葉に被せるように、オルザがそう宣言する。

つまり、付き合うという認識で良いだろう。

セリアは自分で言いたかったのか、横で軽くふくれっ面を作って見せている。


「良いではないか、それが他人ひとを知る第一歩だ。」


これでも魔王は、城にいた頃は多くの魔族たちの男女間を見てきた。

魔族という以前に王たる者、多くの責任がそこに在る。

相手を知り、己を知ること、これ兵法の基本だ。

日常生活でも、それは同じことである。


「それにしても、随分と急なことだな。 驚いたぞ。」


「先日シアさんにさとされた後、2人で話す機会があって。」


セリアの返答に魔王も、ようやく合点がいった。

2人の間に何があったかは分からないが、重要なことはソコでないのだから。


「知ると良い、知って判断すると良い。 若いんだ、時間は幾らでもある。」


「はい!」


さすがは400年分の経験があるだけ、魔王の貫禄は十分だった。

だが言っておいて、なんだか魔王は気恥ずかしさが込み上げて来るのを感じた。

他人ひとの恋愛ごとに、何を偉そうにアドバイスなぞしているのだろう。

三つ子の魂、百までもと言うし、この性格は変えられそうも無い。

しばしの静寂に包まれたテーブルに、料理を持ったクルスが近づいて来る。


「おらよ、まずはメシを食って力つけな。」


「え、でも注文は・・・?」


テーブルへ載せられていく3皿の料理に、魔王含め一同は困惑を禁じえなかった。

だがクルスはそんな3人に屈託の無い笑みを浮かべてみせる。


「余りモンで作ったありあわせで、金なんかとらねーよ。 お前も良いこと言うじゃねぇか、鉄女!」


「や・・ぁ・・・、さっきのは忘れてくれ!」


魔王は耳まで真っ赤にしたが、当のクルスはガハハッと笑いながら厨房へと戻ってしまう。

文字通り、穴があったら入りたい。


魔王の羞恥しゅうちはこの時、魔生最高だったと後に、自身で振り返っている。



それを嬉しいと思うか、それとも余計なお世話と思うか。

人によって違うと思う。

悪気が無いだけ、厄介と言えるかもしれないが。

次回

第79話「魔王様、余計なお膳立てをする」をお楽しみに。


※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。

あらかじめご了承下さい。

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