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第76話・魔王様、責任を取る

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などあがりましたら、遠慮なくお寄せ下さい。

夜闇が支配するブライト。

その一角にあるセリア母の家では、こんな時間にも関わらず、2人の訪問者の姿があった。

家の中は既に灯りが落ちてしまっているが、構わずオルザは、チリンチリンと呼び鈴が鳴らす。


「おばさーんオルザです。 ここを開けて下さい!」


「・・・おっとと。」

「グー・・・・」


魔王の背中には悪酔いしたセリアが爆睡しており、時折ずり落ちそうになる彼女の体を、そのつど直した。

それを見たオルザが、こちらを心配する。


「大丈夫か?」


「私の事は気にするな。」


「君じゃなくて、セリアだよ。」


「・・お前というヤツは、憎たらしいヤツだ。」


魔族と兵士は体が頑丈だから良いとして、セリアは見るからにひ弱い。

こんな夜風の冷たい日に、ずっと外に居たら風邪をひいてしまうだろう。

返事の無い家の戸を、オルザは再び叩いた。


「おばさん、居ませんか。 話があるんです!」


しばらくすると、家にあかりがともった。

セリア母が起きたようだ。

程なくして階段を下りる足音が、外にまで聞こえてくる。

魔王が後ろへ下がるのと同時に、寝間着のセリア母が戸を開けて出てきた。


「はい、お待たせ・・あらオルザくん! それに、そちらはエティシアさん・・・?」


「ご無沙汰していました、おばさん。」

「夜分、申し訳ない。」


真夜中の思わぬ訪問者に、彼女は驚きを隠しきれない様子だった。

最初こそ歓迎ムードだったが、しかし魔王エティシアの背中で寝ているセリアの姿を見つけ、途端に態度が硬化する。

今にも戸を閉められてしまいそうだったので、魔王は必死で言葉をつむいだ。


「この一件、破談にしたのは私の責任だ。 今日はその弁明に来た。」


「・・・外は冷えるので、中へどうぞ。」


前回、魔王がこの家を訪問したのは、セリア母が淫魔サキュバス餌食えじきになっていた時以来。

あの時とは違った緊張感と覚悟を胸に、魔王たちは家の中へと招き入れられた。

彼女らが通されたのは居間で、木の椅子に座るよう促してくる。

寝ているセリアも座らせ、4人とも席に着いたところで、セリア母から話が開始した。


「さて・・・、まずはお礼申し上げます。 飛び出したっきり帰ってこないので、心配していたんです。」


「え、どういう事です・・・?」


魔王は身を乗り出して、彼女の話に聞き耳を立てた。

セリアからは「帰ってくるな」と追い出されたと聞いていたが、前後の話を聞くと、齟齬そごがあるらしい事も分かった。

言ったには違いないが、一過性の怒りから、思わず言ってしまった事なのだろう。

それを聞いてホッとする反面、より魔王の決心は固くなった。

話をこじらせる原因を作ったのは、まぎれもなく自分だ。

セリア母の話が終わる刹那、魔王は深々と頭を下げて謝罪した。


「すまない、この話を破談にしたのは、私だ。 商会の男に話をつけて、追い返した。」


「おばさん、彼女は悪くない。 やり方はスマートじゃなかったかもしれないが、同じ立場だったら僕が、止める立場だったかもしれない。 責任を、というなら僕にもとらせてほしい。」


思わぬところからの助け舟に、魔王は驚く反面、心強くも思った。

セリア母は予想だにしないこの状況に、目をしばたたかせて驚いたが、すぐに苦笑いを浮かべた。


「フフッ、随分と2人は、仲が良いのね? そんな話はセリアからは聞かなかったけれど、もしかして・・・・?」


「いや、私とオルザはそんな関係では・・!」

「ちょっとした、くされ縁ですよ、おばさん。」


クスクス笑う彼女に、魔王らは競うように弁明した。

ジョーダンは顔だけにしてほしい。

だがそんなフクザツな空気も、続く言葉によって吹き飛んだ。


「ともあれ、この話で私は怒ってなどいません。 むしろエティシアさんには、感謝しているぐらいなんですよ?」


「え、それは・・・?」


首を傾げる魔王たちに対し、セリア母は頭を下げて、これに答えた。


「説得されて、それで追い返されてしまうような甲斐性なしに引っかからなくて、むしろ喜ばしい事です。 改めて、お礼申し上げますね。」


意味が分からないと、頭上に疑問符を浮かべる魔王。

オルザも、この言葉の真意を汲み取れて居ないらしく、目をパチパチさせている。

分かっちゃ居たが、こいつは頼りにならない。

一方のセリア母は、なおも畳み掛けた。


「この子には、これまで随分な苦労を背負わせてしまいました。 父親が死んでから、私は倒れ、せめて妹には好きに生きて欲しいと、自分を犠牲にして働かせて来ました。 母親として、最低です・・・。」


それは親として、娘に負担を強いてきた事への謝罪にも聞こえた。

だが、違う。

セリアは『犠牲に』なっていたなんて考えても居なかった。

それは、これまで過ごす中で、セリアのとっていた肉親に対する姿勢で、おのずと分かる事だ。

それを分かって貰おうと、魔王は大きな声を出した。


「母上殿、それは違う。 セリアは心根の優しい、良いやつなんだ!」


「それは分かっています。 だから娘には、私達の事は忘れて幸せになってもらいたいんですよ。 もう結婚適齢期は過ぎていますし、この子は自分をかえりみないから・・。」


セリア母は、何も間違ったことを言っているわけではない。

親が子の幸せを願うのは当然だし、これまで負担を強いてきた過去があれば、その願いが強くなるのも至極、当たり前の事だ。

だが彼女の言う『幸せ』と、セリアの考えている『幸せ』には大きな隔たりがある。


「そうではないのだ、だから・・・」


魔王自身、こういった込み入った話は苦手としていた。

大体、『魔族のため』と彼らの意見もロクに聞かず、出稼ぎに来ているのは何処の誰か。

それを考えると、言い返す言葉に説得力が無いような気もした。

誰も知り得ない話なのだが、なんだか後ろめたい事をしている気になる。


「ともかく娘の縁談の話は、他にも用意してありますからお気になさらず。 今夜はセリアを届けてくれて、ありがとうございました。」


「待っ・・」

「待ってください、おばさん!」


魔王が引きとめようとした瞬間、それに被せるようにオルザが立ち上がった。

魔王も驚いたが、セリア母はもっと驚いた様子を浮かべる。

場の空気を掴んだオルザは、いつものほがらかな様子からは想像できないほど真剣な表情。


「おばさん、セリアの思い描いている幸せは家族で、このブライトで暮らしていく事なんです。 だから頑張るんだと、いつも僕に話してました。」


「そ、そんな話は一度も・・・」


狼狽ろうばいするセリア母に、それを畳み掛けるように彼は話を続ける。 


「セリアは結婚できなかったんじゃない、したくなかったんですよ! それなのにムリヤリ『結婚』させられる事になって、ブライトに自分の居場所がなくなると知って・・・。」


「「・・・。」」


セリア母は、娘に負担を強いてきたことに、ヒドく胸を痛めていたのだと思う。

魔王もセリアが『ブライトを離れたくない、ここに住んでいたい』という気持ちは汲んでいた。

結婚なんかせず、暮らして生きたいのだろうと思っていた。

だがそれも、セリアの真意とは違うようだった。


彼女は、母親が持ってきた話を聞いて怒ったのではない、悲しくなったのだ。

やっと苦労が報われ、母の体調が戻って苦労が報われ。

そんな時に持ってこられたブライトから遠く離れたところへの縁談は、当分は帰ってこれない事を示唆しさしている。

もう自分はらない、ブライトには居場所が無い。

それを悟って、途方も無い空虚感にさいなまれたのだろう。

更に最愛の母が、それを理解してくれないことも・・・。


「私のする事なす事、すべて裏目に出ていたのね・・・」


自分に言い聞かせるように、寂しげにポツリとセリア母が洩らす。

それを魔王は、黙って傍で聞いていた。



◇◇◇



帰り際。

セリア母との話をすべて済ませた魔王たちは、意気揚々と家を後にした。

魔王は一息つくと、オルザに親しげに話しかける。


「お前、なかなかカッコ良かったぞ?」


「なんだ急に。 褒めたって、何も出ないぞ。」


照れ隠しなのか、素っ気無く応える彼だったが、その顔はほんのりと赤く染まっていき。

それを可笑おかし気な眼差しで、魔王は覗いた。

初めて会ってからソレほど経っては居ないが、この男は面白い。

表情も心も、実によく変わる。

だが魔王は不満があった。

舌ったらずで頑張って話したのに、話の真意は全てオルザが持っていった。

最初から言ってくれれば、余計な事を言わずに済んだ。


「・・・なんで、最初から話さなかった。」


あからさまに嫌悪の色を浮かべて見せる魔王に、男は肩をすくめた。

何に怒っているかは、彼も承知しているらしい。


「おばさんは、ああ見えて頑固者でね。 時期を見計らって居たんだよ。」


からかい気味に、彼は笑みを浮かべた。

それを聞いた魔王は、そうだな・・・と目を細める。

ようは、魔王の舌ったらずは踏み台だ。


「あ、ごめん・・、気に障ったなら謝る。」


「いや良い、そうじゃないんだ・・・。」


これまで魔王はセリアに、多くの恩を受けてきた。

彼女には、絶対に幸せになるべきだと思っている。

踏み台でも役に立ったなら、それでも良い・・・・本意ではないが。

そして、もう一つ。


「オルザ。 お前は何故セリアの為にそこまで、なれるんだ?」


「そ、それは・・・!」


ほんの少し言葉を詰まらせた後、ゴホンと小さく咳払いをして、赤面しながら答えた。


「そんなの・・・、友達だからに決まってるだろ!」


彼の言った事は、少し魔王が思っていたのとは違っていた。

だが言いたい事は、手に取るように分かる。

分かっていなければ、きっと動くことは無かったであろう。

セリアは無論のこと、魔王はオルザの事も気に入っていた。


「なんでだろう、君と話していると何でも話してしまいそうになるよ。」


「そうだな・・・、私とお前も、良き友になれそうだ。」


目を細め、恥ずかしながら魔王は彼へと、視線を向けた。

彼女が彼に初めて好意を抱いたのは、初めて会った時の、ほとばしる魔力を感じてから。

それは昔、魔王が唯一、心を許していた同胞のソレと酷似していたからであった。

教会の教えでは『輪廻転生りんねてんせい』などと呼称するらしい。


名はオルガ。

彼もまた、ほかの魔族と同様に先の大戦で戦死した。

名前が似ているのは偶然か、はたまた神のイタズラか・・。

魔王は降って湧いた『運命』に、夢を見せられているような気分にさせられた。


「だから、昔から神は好かぬのだ。」


「?」


時は平和の世。

前世とは違い、今度は戦いとは無縁の生き方を歩む道が示され、彼はそれを甘んじて受け入れている。

そんな皮肉に、魔王は感慨にふけるのだった・・・・・


魔王が魔王たりえたのは、そういう世が作られたからだろうと思う。

情けは人のためならず、という言葉もある。

次回

第77話「魔王様、困惑する」をお楽しみに。


※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。

あらかじめご了承下さい。


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