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第77話・魔王様、困惑する

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


魔王がセリア宅で大立ち回りをして一晩が過ぎ。

彼女の働いている店に、元は配下のベルナンデスが訪れていた。


「それはそれは・・・、良いことをされましたな魔王様!」


「私の話を、ちゃんと聞いていたか?」


いきる彼の姿を、魔王は呆れたような眼差しで見た。

セリアの家で原因はは元々、自分がいらぬおせっかいを焼いたからである。

責任をとるのは当然だし、正確に言えば魔王一人で解決したわけでもない。

ベルナンデスには言っているのだが、この脳筋には何度言っても、通じないようだった。


「貴様もそう思うであろう、フレアよ。」


「はい!! さすがは魔王様です、尊敬します!」


一方、彼の横で目をキラキラと輝かせるのは、フレアという女魔族だ。

彼女がベルナンデスの伴侶となってから結構経つが、どうしてウマが合うようだった。

まあ、今は関係ない。

魔王は「はぁ・・」とため息をつき、テーブルに頬杖をつく。


「なぁ、もう話題を変えないか?」


「何を申されます陛下。 たかが人間一匹に向ける、その慈愛こそ陛下の最大の武器でございます。」

「そうです、へーか!」


あまりにヨイショしてくる彼らに、恥ずかしさは覚えるものの、どうして悪い気はしなかった。

魔王は、ほんのりと顔を赤くさせ、そっぽを向く。


「・・・まあ、今はそういう事にしておこう。」


あと陛下などと呼ぶなと、彼女は内心で、悪態をつく。

今でこそ昼前と言う、ビミョーな時間帯のため客は少ない。

だが『はぐれ者亭』は有名で、客の多い事で知られる。

もし第三者に聞かれて、うたぐる者が出たら、最悪の場合・・・

四天王ベルナンデスは、そういうところがヌケている。


「用事が済んだら、さっさと帰れよ。」


「これは異な事を陛下、私は昼休憩にやってきたのでございます。」


鼻先に、店のメニュー表を持っていくフレアと、それを指差すベルナンデス。

一丁前に、注文はしてくれるらしい。

ただメシを食うなら、働いている『夢見亭』でも出るだろうに・・・

接客スキル(慣れによる)を活用して、客相手の対応する魔王。


「では、注文はお決まりですか?」


「えェと・・如何いかがいたそうやら。」

「ベルナンデス様、これは何でございますか?」


フレアの指差すところへ、ベルナンデスが視線を向ける。

そこは『お持ち帰り専用』のメニューで、店で出されているのとは違った軽食などが主に、載せられていた。

なるほど、これは美味おいしそうである。


「では陛下、このアテナパン定食なるものを、とおほどお頼み申します。」


十と言うのは、おそらく『夢見亭』の淫魔サキュバスたちも頭数に入っているのだろう。

こういった気配りを出来るところが、彼の良いところである。

熱血で暑苦しいけど。


「クルスー、Aサンド10だ!」

「おーす!」


ベルナンデスが注文したAサンドは、黒パンに酢ミノタウロスという料理が一緒になって容器に入れられた持ち運びに便利な軽食である。

主に建築業に従事している、土木従事者たちに人気のモノだ。

店主のクルスは慣れた手つきで、十人分の酢ミノタウロスを調理すると、それを持ち帰り用の器に盛り付け。

黒パンはあらかじめ用意されていたものを、従業員の女が包む。


「全部で銅貨16枚だ。」


「おぉ・・・、早いですな。」


モノの数分で注文の品が出て来たことに、ベルナンデスは感嘆した。

それは魔王が、初めてこの店を訪れた時の姿を彷彿ほうふつとさせる。

彼女の瞳には、それが初々(ういうい)しく映った。


「では魔王様、私どもはこれにて。」


「頑張って下さい、魔王様!!」


「あぁ。」


やっと嵐が去ったと内心、ホッとしながら魔王は彼らを見送り、店内へと戻った。

すると入れ替わるようにして、ベルナンデスがやって来たのとは逆の方向から、見知った女がこちらに近づいてくる。


「ん・・・セリアか?」


来たのはセリアだった。

先ほどのベルナンデスたちとの話に出てきた、魔王の数少ない人族の『友達』である。

彼女も店先に出ている魔王の存在に気が付き、途端に陽が射す様に表情を明るくした。


「お礼を言おうと思って来ました、ありがとうございました。 ありがとうございました!」


「や、やめてくれセリア! 注目を浴びているぞ!!」


店先でウェイトレス相手に頭を下げる女の姿は、否応にも目立つ。

魔王はセリアを店の中へと入れ、先ほどベルナンデスが居た席に着かせた。


「クルス、また借りるぞ!」


魔王が声を上げると、店主のクルスは厨房越しに苦笑を返してきた。

しかし見れば分かる、目が少しも笑っていない。

どうしよう、給料を差っ引かれないかヒヤヒヤする。


「・・・まぁセリア落ち着け、というか頭を上げてくれ。」


「いいえ、もうシアさんには頭を上げられません。」


弱ったなと、魔王は頭をかいた。

先客のベルナンデスたちのベタ褒めを鑑みれば、彼女の性格を考えれば、この行為がネタや誇張ではないことは分かる。

しかし如何せんにも、魔王はこういうことに、慣れていない性質たちだった。


「顔を上げてくれなくては、私が困るんだ。 言いたい事があるなら、私の顔を見て話して欲しい。」


魔王の言葉を聞いて、やっとセリアは顔を上げた。

うれし泣きだろうか、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

自分に素直な生き方は、魔王としても嫌いではない。

顔を上げたセリアは、ハンカチで顔を拭うと、商会の受付嬢ばりに、キレイな礼をしてきた。


「改めてシアさん、昨日の夜はありがとうございました。 詳しい話はオルザから聞きました。」


「そうか。」


セリア母を説き伏せていた時、彼女は酔い潰れていた。

酒は人を変えると言う言葉の意味を、初めてこの目で見たのだ。。

説明役がオルザなら、問題ないだろうと魔王は見当付けた。

気になるのは、彼らのお互いを想う気持ち。


「のぅセリア、お前とオルザは早く結ばれた方が良いのではないか?」


「へ・・・・?」


前回の一件もあるし、母が再び動き出す前に、先手を打っておくべきだ。

と考えての魔王の発言だったが、セリアの顔はまるでファイアードレイクのように、紅く染まった。

短い時間の間に泣いて笑って、なんと感情の起伏が激しいことか。

だが時機を逸せば、手に入らぬものが世に多いのも事実。

恥ずかしさを押して、魔王は尚も畳み掛ける。


「気心の知れた異性の存在は貴重なのだぞ。」


「やだなぁシアさん! 私と彼は、そんな仲じゃ無いですってば!! あ、私ほかに用事を思い出したので、行きますね!!」


「お、おい!」


セリアはそれだけ言い残して、逃げるように店から出て行った。

『恥ずかしい』という感情は、相手に少しでも気が無ければ、生まれ得ない感情。

結局ロクに何も話せずじまいに終わってしまったのは残念だったが。

やぶ蛇を出すつもりは無いが、魔族の王として、おっせかいにならない範囲で、恩人の力になりたいと思ったのは、ウソではない。


いや、もう既に手遅れかもしれないが・・・。



2人の心が交差する。

その甘味は、どれよりも美味だった。

・・と、魔王は後で聞かされた。

次回

閑話「リンゴって美味しいよね!」をお楽しみに。


※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。

あらかじめご了承下さい。

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