第60話・魔王様、現実を知る
投稿が遅れてしまい、申し訳ございません。
これからも、よろしくお願いいたします。
「―で、2人を置いてきちゃったんだ。」
「む・・・人聞きの悪い言い方をするな。」
憤慨する魔王に対し、苦笑を洩らすエルク。
彼女らは、魔王時代からの知り合いのエルフ族である。
話題に上がっているのは、街へ来た魔王四天王のベルナンデスたちの事だった。
「仕方がないだろう、人間社会に慣れていない奴らを一から教育していたら、こっちの仕事が成り立たぬでは無いか。」
「まあ、それじゃあ本末転倒だものねぇ。」
どうしても魔王の下で働きたいと、人間の街まで来てしまった魔族2人。
しかし金を稼ぐのだけで精一杯の魔王に、彼らを教育している時間的余裕は無かった。
そこで連れて行ったのが、サキュバスの経営している『夢見亭』である。
同じ魔族、社会の常識だけで良いからと、魔王はリリスにベルナンデスたちを託した。
あくまで『常識』を教えてもらうだけで、ソレが済んだら彼らはコンニチワークへ放り込む予定である。
『うっふん魔王様。 なんでしたら常識だけでなく、その先も教え・・』
『言っておくがな、2人におかしな事を吹き込んだら貴様を八つ裂きにして魔王城の前にさらす。』
『や、やだ魔王様。 冗談ジャナイデスカ・・・。』
リリスとの応酬は、思い出すだけで寒気が・・・。
不安はあるが、かく言う魔王だって人間社会の常識には相当に疎い。
エルクはすぐに里へ帰ってしまうだろうし、頼れる(?)人物は他に見当たらなかった。
女のフレアが特に心配だが、ベルナンデスが居ればなんとかなるだろう。
いや・・・、もしかして危険なのはムシロ彼の方か?
なんて話をしていると、店の奥から怒号のような店主の声が響いた。
「くぉらシア、客といつまで話に花咲かせてる、早く戻って来い!」
「ただいま!」
店主の大きな声に驚き、挨拶もそこそこにエルクと別れる魔王。
それを苦笑交じりで、彼女は見送った。
これが人間達の間で恐怖の権化と、今でも揶揄される魔王だとは、誰も思うまい。
「店主おすすめプラン10人前ですね、しばらくお待ち下さい。」
「5番テーブル、大ジョッキとおつまみ追加!」
「突撃豚定食あがり! シアー、手が空いてるなら持ってけぇ!!」
「はい!」
陽が傾き夕刻を迎えた『はぐれ者亭』は、昼の閑古鳥が鳴いていた時間とは、比べ物にならないほどの忙しさを迎えていた。
客がひきを切らず、まるで時を待っていたかのように集まってくるのだ。
働き手は幾ら居ても足りない。
魔王様は出来た料理を、片端から客の居るテーブルへと持っていく。
料理が置かれるカウンターの上には、注文された順に料理名とテーブル番号、数量などが書かれている紙が下げられており、それを見れば一目瞭然だ。
どんなに忙しくても、順番や注文違いなどを引き起こさない工夫である。
ちなみに料理を持っていく際は、この紙を引き剥がす。
「お待ちどおさま。」
「うほーっ、来た来た!」
ドンと料理をテーブルに置くと、魔王はすぐに踵を返しカウンターへと足を向けた。
客はあびるように『ビール』を飲み干し、注文を追加していくのだ。
サービスで媚を売っている時間などは無い!
「おいシア、手が足りねぇ。 厨房に回ってくれ!」
「え!?」
簡単な料理運びで手腕を発揮していた魔王だったが、ここでハプニング発生。
これまでの魔生で料理どころか包丁すら握ったことの無い彼女に、店主が手を貸すよう命令してきた。
が、ここで無理と言ってはそこでオシマイである。
「わ、分かりました。 何をしたら良いのか教えてください!」
「料理じゃねぇ、飲み物を作る方に手を貸してやれ。」
料理に手を貸すのは別の従業員らしく、そこで空いてしまう飲み物を入れる場所に手を貸せ、そう言うことらしかった。
なるほど、それなら素人の魔王もできる。
客に出す飲み物を入れる人間はこの時間、ビールに2人とソフトドリンクに2人の計4人が、割り当てられている。(ちなみに水は、客のセルフサービス)
さすがにビール以外の飲み物は種類が多く危ないので、魔王様は『ビール』を入れる方を任された。
が、ただ入れればいいというほど、道は甘くない。
魔王が冷凍庫からジョッキを鷲づかみした途端、ビールを入れていた女性がその手を制した。
「ちょっと、冷凍したジョッキ触ったら、手が張り付いてダメになっちゃうでしょうが! 少しは頭を働かせなさい!!」
「は、はい・・。」
この場合ダメになるのは、言わずもがな魔王様の手ではなく、凍らしたジョッキの方である。
表面に手の形が付いてしまい、かつジョッキの氷まで溶けて、とても客に出せる代物で無くなってしまうのだ。
怒った彼女はタオルで体温を伝えないようにして、ジョッキを持って見せた。
なるほど、こうすれば手を伝ってジョッキの氷が溶けることもない。
魔王もソレに倣って、ジョッキを一本取り出した。
「おら何してる、中ジョッキ8と大ジョッキ15大急ぎだ!」
「「はい!」」
店の中を客たちの喧騒が支配する中でも、店主の張り上げる大きな声は大きく聞こえる。
場慣れしているのだろうか、背後を向いているというのに、調理をしているその手は休むことを知らない。
魔王たちは迫力負けし、せっせとビールをジョッキへと注いでいく。
いつしか客の数もピークとなり、夜は暮れていった。
◇◇◇
その頃、魔王の側近・・正確には魔王四天王を預かるエグラーはというと。
旅の行商人セルステラと言う女性と共に、荷馬車で街道を進む。
先日の長雨で思うように進むことができず、その遅れを取り返そうと彼女は必死だった。
彼女は隊商を組んでおらず、それだけ行動は自由。
しかし反面で仲間がいないと言う事は、道中で何かがあっても全て、自分でどうにかしなければならないという欠点がある。
街道では人間を襲う野生の一撃熊や、荷馬車を襲う野生の盗賊など、キケンな輩がゴロゴロしている。
街から街への移動は、それこそ命がけなのだ。
いやもう、冗談や誇張とかではなく。
「この先には何も居ないようだ、しばらくは安心するが良い。」
「そうですか、ご苦労様です。」
・・・が、そんな野生動物たちにビクビクしていたのも過去の話。
今や無理を押しての、夜中の強行軍が可能となっていた。
今では旅の仲間(護衛)が彼女にはおり、一定の距離を進んでは彼が斥候となって前方の安全確認を行うので、道中の危険はグッと減っている。
「いつもすみません、しかも今日は夜中なのに・・・。」
「気にするな。 不埒な輩に襲われたなどと言うことになれば、魔王様に申し訳が立たぬ。」
エグラーが魔王を探して、人間の街へ来たのがつい先日の事。
しかしそこに、彼女の姿は居なかった。
そんな中で道中の護衛を欲していたセルステラと利害が一致し、行動をともにする事が決まって現在に至る。
「その探しているマオーさんという人は、エグラーさんのご婦人か何かなんですか?」
「ばっ、馬鹿な事を言うな! 魔王様はそれは尊きお方であり、我はその腹心の1人に過ぎぬ。 その覇業は未来永劫、永きに渡り語り継がれることだろう・・・」
「そっ、そうですか。」
エグラーは魔王の話になると、いつもこの調子である。
まさか彼が『魔族』などとは夢にも思っていないので、彼女は『マオー様』というその女性を、どこかの貴族令嬢様か何かかと思っていた。
おそらくエグラーは、その屋敷の使用人で、家出したマオー様とやらを探しているのだろう、と。
「ごめんなさい、変に勘ぐってしまって。」
「魔王様は優しい方だが、怒れば国をも滅ぼす恐ろしい方でもある。 今言った事は忘れるが、二度と口にするな。」
「はい、気をつけます。」
セルステラには、将来は自分の店を建てるという大きな夢を持つ。
もしそのマオー様が見つかれば、あるいは大口の客がゲットできるかも。
そんな打算が、彼女の中には少なからず存在した。
「早く見つかるといいですね、そのマオー様。」
「うむ、まったくだ。」
2人は顔を見合わせ、その顔に微笑みを浮かべた。
しかしその間には、越えられぬ大きなカベが立ちはだかっている。
馬車はガラゴロと小気味良い音を森に響かせながら、次なる街へと進むのだった・・・。
特殊な事業形態で、休みが多く給料が安い『ならず者亭』
魔王は向かう、種族が生き残るため・・・。
次回
第61話「魔王様、職業斡旋場に向かう」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




