第47話・魔王様、話を蒸し返される?
パソコンも、夏バテぎみのようです。
投稿直前でまさかの、電源オフになりました。
「ライザックさん、申し訳ありません。」
「え・・・?」
何の前触れも無く、出勤するなり上司のレーガンさんが、魔王に謝罪をしてきた。
一応、断っておくが、魔王は彼女に、謝られるような何かをされた覚えは無い。
「あの・・・、何かありましたか??」
「あなたには、ご迷惑をお掛けすることになりそうなのです。 後で会長もくる事になると思いますが、それをあらかじめお伝えしておきます。」
「え、え、え・・・・・!??」
深々と、キレイなお辞儀を向ける上司に対し、困惑の感情をさらけ出す魔王。
在庫部の面々もこの珍事に、何事かと注目してくる。
商会の会長と言えば、前にも述べたが、ブレアンド商会のトップに君臨する人物のことだ。
正直、魔王様は会ったことすらない。
(※入社の際にいたのだが、魔王様は忘れてる)
驚愕する彼らをヨソに、上司のレーガンさんは説明を始めた。
「実は『窓口騒動』の事なのですが・・・」
「その話は確か、終わったと聞きましたけど?」
魔王が質問する前に、他のメンバーが矢継ぎ早に、上司に対して質問を投げかけた。
レーガンは首を横へ振り、話を続ける。
「後になって分かったのですが、ライザックさんとひと悶着あったのは、ワグナー商会の使いの者だったようなのです。」
『ワグナー商会』という単語が出た途端、口をつぐむ彼ら。
この商会は主に国内への販路を持っている。
国外からの輸出品などを主に取り扱っているブレアンド商会とは、ある意味で対照的な大きな商会である。
そことは輸出向け商品の取引を行っており、双方にとってはライバルであり、大きな顧客となっていた。
・・が、そんな事は魔王様のあずかり知らぬところであった。
「わぐなー商会?」
「あなたが口論となった人物の特徴を、覚えていますか?」
あの時やって来た、人物の特徴。
さて、どんな人間だったろうか?
魔王様はゆっくりと、なるべく正確に、あの時の事を頭の中に思い浮かべた。
背が高くて、わりと顔かたちは整っていたような・・。
身なりも良く、実際は馬鹿だったが、見た目で言えば理知的な雰囲気がした。
実際は、本当に大バカ者だったけれど。
ここは大事なことなので、二度言った。
「背格好と身なりは良くて、わりと格好の良い人物でした。」
魔王がハッキリそう言うと、もともと静かだった在庫部内が、更に静まりかえる。
えっと、私は何か、ヘンな事を言っただろうか?
頭上に多くの疑問符を上げる魔王に対し、メンバーの1人が、恐る恐るといった風体で話しかけてくる。
「シアちゃん、その人って多分だけど・・・」
ここまで発した所で、上司がそのセリフを中断させた。
この先は、上司が自ら説明するようだ。
「ライザックさん。 あなたと口論になったと言うのは、ワグナー商会の御曹司さまなのです。」
「え゛・・・・・・・。」
言葉を失う魔王。
説明をされなくても分かる。
それ、かなりアカンやつだ。
戦争において教会を破壊したら、あとあと面倒なことになるのと同じ物差しで考えて、多分差し支えはなかろう。
あれは本当に、面倒なことになるのだ。
教会組織が信者たちを煽って・・・いや、今は語るまい。
マズい、本当にどうしよう!??
「どどど、どうしたら良いですか!?」
「落ち着いて下さいライザックさん。 前にも申し上げたとおり、あなたが咎められる様な事はありません。」
取り乱す魔王を、なだめる上司のレーガン。
前にも述べたとおり、一連の魔王たちのやり取りは目撃者も多かったので、それ自体は大きく問題化していない。
ではなぜ咎められないのに、またも話の引き合いに出されるのか。
それは、先方からの苦情のせいだったらしい。
詳しいことは分からないが、その御曹司は口論になったことを、父である会長へ話したようだ。
息子可愛さゆえか、それとも話が捻じ曲がって伝わったのか・・・。
正式に謝罪に来いと、先方から、連絡が来たのだと言う。
むろん、その時の当事者だった魔王も含めて。
研修員に過ぎない彼女に、そもそも来いと言うのはあまりにも無理がある話だ。
しかし双方の今後の取引の事を考えると、まったく無視すると言うわけにも行くまい。
つまりは、そういう事なのだろう。
「このような事になってしまい、申し訳ございません。 そもそも新人であるあなたに、このような負担を強いるのは当商会としても・・・!!」
口惜しそうに歯噛みするレーガン。
営業員でもない限り、このような事は前代未聞であり、それを防げなかったと言う負い目を直属の上司である彼女は感じていた。
元々ライザック(魔王)が人と接すのが苦手であることは、分かっていた事。
研修を止めることはできないが、他にやりようがあったのでは無いかと罪悪感のようなものすら感じていた。
「謝れば、良いのか?」
だが、それは魔王様からすれば、何でもない事だった。
謝れば済むと言うなら、頭を下げるなど造作も無いこと。
あまり深刻そうな顔だったので、もしや処刑されるのではとすら思ったのだから。
この辺り、彼女は大らかだった。
こうして、数日後に魔王様は、ワグナー商会へ謝罪をしに行くことが決まった。
◇◇◇
「すまんな、先ほどは私の分の通行税を払わせてしまって。」
「良いんですよ、護衛代金の一部とでも考えて下さい。」
だいたい時を同じくして。
遠い国の遠い町を出立していく、一台の馬車の御者台に、魔族のエグラーの姿があった。
既に出立した街の城壁は小さくなり、馬車は森の入り口へと差し掛かる。
彼の横には、声だけ魔王様に激似の、作業服のような白服を身に纏った小柄な女性が座り、馬の手綱を上手に操っていた。
彼女の名は、セルステラ・コッコリク。
旅の商人で、多くの街を周って金を稼ぎ、いつか店を出すことが目標なのだと言う。
存外にもこの女性は喋るのが好きなようで、朝に出立してこのかた、一度も会話は途切れる事を知らない。
「今回はエグラーさんのおかげで、荷物を積み込むのがとってもラクチンでした。 ありがとうございました。」
「何、このような素性知れずの老いぼれを、商売道具である馬車へ同乗を許されたのだ。 それ位せねば、罰が当たるというもの。」
「ふふ・・、面白い方ですね。」
『そんな大げさな』と苦笑いする彼女。
エグラーも柔らかい笑みを浮かべて『何か』を肯定するように、前方に目を向けながら静かに首を縦に振った。
視線にはカッポカッポと土があらわになった道を小気味よく進む馬の背中と、セルステラの手もとへと伸びる手綱が見えた。
「馬車に乗せていただいている上、女性にばかり馬車の手綱を取らせるのは忍びないモノだな。」
「良いんですよ、でも変ですねぇ。 この子は人懐っこい性格のはずなんですけど。」
「・・・・。」
馬車を引く馬は、時おりエグラーを視界に捕らえては、ブルルッと威嚇する。
魔族だから、感じる所があるのだろう。
手綱を握ろうとするたび、まるで絵に描いたような暴れようを見せるのだ。
エグラーが馬車へ乗るだけで、一体どれだけ暴れたことか・・・。
「随分と手馴れているようだが、長いのか?」
「物心付くころには親に手綱を握らされていましたから、もう慣れっこなんですよ。 でも道連れが私とこの子だけでは、道中に不安も大きくて・・・・」
この世界では街の城壁を一歩出れば、そこは無法地帯。
特にこの辺りは、魔物が多く出ることで知られていた。
旅の商人ともすれば今までにアブない目にあうことも、あっただろうと思われた。
だがその苦労も今の彼女の笑顔からは、微塵も感じられない。
「さあエグラーさん、次の目的地はまだまだ遠いので、しばらくは野宿ですよ!!」
「うむ、よろしく頼もうか。」
彼女の決意と共に、馬のいななきが、森の中へ響く。
荷馬車は森の中をガタガタと音を立てながら、街道を沿って進んでいくのだった・・・
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
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