第46話・魔王様、帰ってくる
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せください。
私は、なりたくて魔王になった訳ではない。
400年前の大戦。
あれはヒドい有様だった。
人間の領を攻めんと、先代魔王は前衛にトロールなどの大型魔物。
後衛に近接戦闘を得意とするデュラハンなどを置いた。
彼は力だけで、戦場をゴリ押ししようとしたのだろう。
アホの極みの布陣だと言える。
前衛にデカイのばかり置いたら、飛び道具を使う後衛の存在意義が無くなってしまうのは、少し考えれば分かることなのに・・・・。
そして、恐れていたことは起きた。
結果として人間たち連合軍の『頭脳戦』を前に魔王軍は崩壊し、多くの死傷者を出しながら敗走。
その殆どが、戦死してしまった。
先代魔王も敗走中の巨大スライムに巻き込まれ、殉職したと聞く。
私は人間方の偵察として戦場におらず、かろうじて死は免れた。
だが血気盛んだった、幼馴染の魔族は、ついに帰っては来なかった。
もうイヤだと思った。
戦争も、誰かといがみ合い、永遠に続く血塗られた道。
遺恨の鎖は、どこかで断ち切らねばならない。
いきりたつ同胞を諌め、悲しみにくれる遺族たちを慰め続けた。
いつしか私は、次代の魔王として、君臨していた・・・・・・
◇◇◇
先日にブレアンド商会の窓口で起こった、口論事件。
人はそれを、『窓口騒動』と呼んだ。
社員は口々に『研修員が客を罵倒した』だの、『その客を殴り飛ばした』だのと、ウワサをした。
もちろんその殆どがデタラメの、作り話であったが、それは当事者しか知らないし、ウワサとは得てして、そのように尾ひれが付いてしまうものである。
この一連の出来事が商会中に広まるまで、そう時間は掛からなかった。
そしてそれは会長の耳にも届き、とうとう事実確認も兼ねて、我らが魔王は呼び出しを受ける事となったわけである。
諸事情を彼女へ聞くために開かれた面談も、昼少し前には終わり、解散となった。
晴れて、魔王様の『疑い』は、晴れたのである。
・・・・・が、それは社会的な話。
一度流されたウワサは、簡単に消えることは無い。
「気にすること無いよ、どんなウワサだって、いつかは消えるんだから。」
「そうよ、言いたい人には勝手に、言わせておけばいいんだから。」
こんな事を言ってくれるのは、『在庫管理部』の同僚たちくらいだった。
午後から魔王様は命じられるまま、一旦在庫部へと戻り、そこで業務を果たすこととなり、約1週間ぶりに、在庫部の同僚たちと会った。
彼らも、あのウワサを耳にしたらしく、かなり憤っている。
何とか誤解が解けるよう、ウワサの現場に通りがかる度に撤回して回っているようだが、現状では焼け石に水ていど以上の効果は、挙げられていない。
「ありがとう、私のためなんかに苦労を掛けているようで、すまない・・・・。」
しかし一番にダメージを負っているのは、他でもない魔王様である。
これで、同じ事を言うのは何十度目か。
その『ウワサ』で研修期間を繰り上げられ、在庫管理部へと戻されたのだ。
これは対外的な問題として、噂のタネとなってしまった魔王様は、商会の窓口で業務を続けることが、著しく難しくなってしまったのだ。
力及ばず、もう少しのところで撤退。
それはまるで400年前の大戦時の敗北・撤退の事を髣髴させられた。
あたかも空気が抜けて潰れてしまった風船のように、魔王様は意気消沈とする。
それを見かねてか、上司のレーガンさんは何も言わずに、ソッと魔王の肩に手を置く。
人のぬくもりを感じつつ、彼女は首を縦に振り、肯定の意を表す。
「すみませーん、分からない事があるんですけどぉ。」
そのとき、室内の静寂を破るように、ドアを開ける音が響いた。
澄んだ可愛らしい大きな声が、しょげていた魔王様の耳にも、スッと入っていく。
同僚の声ではないが、その声に魔王は、聞き覚えがあった。
「セリアではないか! どうしてここに!?」
「シアさんこそ、どうしてここに!?」
揃って驚愕の表情を浮かべる、彼女ら。
在庫管理部へ入ってきたのは、受付部に居るはずの、友であるセリアだった。
どうやら彼女は、『研修』でここへとやって来たらしい。
魔王様のように。
まさか研修先が事もあろうに『在庫管理部』とは、運命のイタズラと言うべきか。
「そうだったんですか、アレはシアさんの事だったんですね。」
「なんだ、気が付いていなかったのか。」
あまりに不思議がるので、事のあらましを話して聞かせると、大きく瞳を見開き、セリアは更に驚いた様子を見せる。
周りから話は聞いていたが、まさか話の元凶が魔王とは少しも思わなかったらしい。
それだけに、驚きもひとしおだったようだ。
セリアだけでなく、他の面々も魔王の話を、仕事の手を止めて静かに聞き入った。
一部始終を聞くと、セリアは間髪を入れず、激昂した。
「・・・・と、こういう事があったわけだ。」
「なんですか、それ! シアさんは何にも悪くないじゃないですか!!
「そ、そうか?」
このような態度をとる彼女は、初めて見たかもしれない。
まるで自分の身に起こったことのように、握りこぶしを作って憤るセリア。
驚きで生返事くらいしか返すことが出来なかった魔王様に対し、なおもセリアはぐいぐいと差し迫った。
「当然ですよ、それなのにまるで、シアさんが悪いみたいに・・・!!」
「ま、まぁ・・・・・・?」
まぁ、魔王自身の対応の仕方にも、少々至らぬ部分はあったけど。
少なくとも人を呼ぶことくらいは、恐らく出来たのではないか?
今になって考えると、そんな気もする魔王である。
ただし瞬間湯沸かし器のように感情を表に出すのはセリアだけで、同僚たちは苦々しい顔はするものの、それ以上に何かを言うことはなかった。
「セリアさん、立ち話はそれぐらいにして下さい。」
「あ、すみません・・。」
今にも飛び出さん限りだったセリアを、いつもの淡々とした様子で引き止める上司。
同じく魔王の話に聞き入っていた面々も、半ば強制的に業務へと戻らされていく。
少し経つ頃には、魔王様の周りのほとんどの人間が、居なくなり閑散とする。
それを見計らい、レーガンは視線を魔王へと戻した。
「良いですかライザックさん。 あなたが商会で働いている限り、お客様には商会の人間に相応しい態度をとっていただかねば、困りますよ?」
「はい。」
少し図に乗りかけた魔王様を諌めるように、上司はそう、釘を刺した。
ごめんなさい、反省します。
どんな時でも厳しく、というのが彼女のステータスだ。
シュンと肩を落とす魔王に、レーガンは『ですが』と話を付け加えるレーガンさん。
「私の個人的見解としては、あなたに非は無いとも思っています。」
この時、横顔でよく見えなかった。
でも彼女は間違いなく、微笑んだように魔王には見えた。
彼女にも、キビしい以外にこんな顔も出来るんだなと・・・
失礼すぎるので、その考えはそっと、胸の奥底へ仕舞う。
「それだけは、覚えておいて下さいね?」
「は、はい!」
こちらへ視線を向ける頃には、いつもの表情へと戻っていた。
微笑んでいた表情は、見る影も無い。
この件で、魔王がこれ以上の咎を受けるようなことは無いようだ。
ドナドナしていた魔王様のオーラは、先ほどまでとは打って変わり、秋晴れのように晴れ上がりを見せる。
彼女は恵まれていた。
出会う人にも、めぐり合う出来事にも全てにおいて。
それは彼女自身が一番、分かっていただろう・・・
◇◇◇
暗闇の中を動く、人影のような存在が見える。
真っ暗な中でも際立って見える角と、全身を覆う大きな翼が、彼女が人間でない事を物語る。
そう・・・・・・・これは夢だ。
彼女は何かを口ずさむが、その内容は最初は分からなかった。
このような異形が夢に現れるようになったのは、いつの事だったろうか。
そんな事を考えているウチに時は経ち、いつしか外は暗闇へと包まれていた。
時が立つのは、何と早いことか。
玄関の方からは、ガチャっという鈍い音が聞こえてくる。
どうやら、会社勤めをしている娘が帰宅して来たようだ。
しばらくもすると着替えを済ませた彼女が、ノックをしてこの部屋へと入ってきた。
「おかえりセリア。 今日は良い一日を送れたかい?」
「ただいま、お母さん。 起きていて大丈夫なの?」
「今日は気分がいいから、起きて居たかったの。」
いつか倒れて以来、体調が優れない日が多く、一日の多くをベッドに中で過ごすようになった私。
日に日に細くなっていく気がする、この体。
笑顔を絶やさないセリアだが、反面、私の見えないところで泣いているのを、私は知っている。
まったく、誰に似たのやら。
「ところでさっき、この部屋から話し声が聞こえた気がしたんだけど、お客さんが来ていたの?」
「いいえ、誰も訪ねては来ないわよ?」
この家は、あの人が逝って以来ずっと、娘2人との3人暮らし。
そのうちの小さい方は今、遠くの町の学校に行っており、長いことセリアとの2人暮らしだ。
日中は少しさびしいが、それも娘たちのことを思えば何でもない。
「あなた達には苦労ばかり掛けてしまうわね、私のこの体が、もっと言う事を聞いてくれれば良いのだけれど・・・・・・。」
ここまで口にしたところで、セリアは自らの口元へ人差し指を持って行く。
それに気圧されるように、セリアの母親は口をつぐむ。
「お母さん、それは言わない約束よ?」
「そうだったわね、ごめんなさい。」
いつでも他人を気遣うことが出来る、優しい自慢の娘。
もし私が居なければ、彼女はどういった人生を歩んで行くのだろうか?
いつでもそんな事ばかり、私は考えてしまう。
でも親とは得てして、そのようなモノではなかろうか?
「随分と嬉しそうだけど、何か良いことでもあったのかしら?」
「えへへー、実は今日、久しぶりにシアさんに会えたの。」
娘が尊敬してやまないという、『シア』と言う名の女性。
私も一度だけ、会ったことがある。
カゼをこじらせても自らの責務を全うした彼女の姿勢は、責任感にあふれていた。
それでいて素直で、とても面白い子だったように私は記憶している。
魔法の方面でも才能があるようだし、娘が尊敬して、値する人物である事はまず、間違いないとも思った。
「そう、良かったわね。 でもシアちゃんを困らせるような事を、しちゃダメよ?」
「もぉ、そのくらい分かってますよぅ!」
プクッ、木の実を溜め込んだリスのように頬を膨らませる彼女。
怒った顔もまた、可愛いと思えてしまうのだから、私の親バカも大概なのだろう。
部屋を去っていくセリアを、名残おしげに見送る。
そして彼女同様、どうしても気にかかる女性の姿が頭をよぎった。
対して夢に現れる異形の女性は、とても悲しそうな目をしていた。
なぜそのような顔をしているのか聞いても、答えは返って来ることはない。
彼女の正体すら、まったく分からない。
だが彼女は間違いなく、こう言っていた。
『我が種族のため、犠牲になって欲しい・・』と。
彼女の言う、あの言葉には一体、どのような意味が込められていたのだろう・・・・・・
魔王様の過去・・・
今後どう書くか、何も案がありません。
これっきり、フェードアウトするかも。




