第38話・魔王様、魔生初のカゼをひく
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朝の鐘が、街に鳴り響く頃。
公園の木の上で休んでいた魔王様は、街の中を商会へと向かっていた。
しかしその足取りは、いつものソレよりも重く、そしてゆっくりとしていた。
「ヘクシッ!」
顔を紅潮させながら、鼻をすする。
度重なる転移に伴う、一種の魔力切れである事は確かなので、放っておけば治るだろう、
そう思っていた。
しかし回復魔法を何度と掛けても、さしたる効果は無かった。
「ヘックシ!」
どうにも、治りが良くないようだ。
頭がボーッとするのは、何とも気持ち悪い。
早く回復しないだろうか。
「はーっ、はーーっ、・・ハァックション!!!」
魔王様の大きなくしゃみは、火球を伴いながら高速で打ち出され、ボムッ、鈍い音を響かせて、路上に張り出されていた選挙のポスター数枚を、燃やした。
どうやら魔力の制御まで、おかしくなっているらしい・・・
ため息をつきながら、足早にその場を後にする魔王様。
「だ、誰だ!? 占拠の公示板に放火したのは!??」
・・・ゴメンナサイ・・。
『なんだ、何だ』と人だかりが出来ていくのを尻目に、魔王様は一路、商会を目指した。
◇◇◇
「ライザックさん、今日は定時出社ですね。 本日あなたには、在庫管理を任せます。」
上司の命令に、黙って首を縦に振る魔王様。
決してふてくされているとか、そういった反抗的な理由ではな・・は・・・はっっ!!
「ヘックシ!!」
たらりと、鼻水が垂れる。
なんとか先ほどのような、火球が打ち出されるのだけは食い止められた・・・。
しかし体調がおかしくなったのは、三日以上も前のことである。
「大丈夫ですか、体調管理には十分に気をつけてくださいね。」
「すみません。」
体調が思わしくない原因は、何となくだが分かっている。
転移だ。
食料を届けるため、ここ数日は仕事が終わると街へ買い物に行き、転移で魔王城へ向かうというスケジュールをこなした。
ヒドイと、一晩に2度も転移で城とブライトを往復したことさえある。
やっと大体の食料搬入などが、昨日をもって終わりを見せたのだが、私の方は魔力切れで、今すぐにでも床に倒れてしまいそうである。
しかし仕事を、ホゴにするわけにはいかない。
それは魔王として、一社会人としての大きな責任なのだから。
魔王様の決意など知ろうはずもなく、上司は彼女へ、仕事の指示を出す。
「後でかまいませんので、各課の備品調査に行ってもらえますか? 聞いてくるだけでかまいません。」
「は、はい・・・。」
目まいで遠のきかける意識を必死で引き止め、今日の業務へと勤しむ彼女。
任された『在庫管理業務』は、文字通り商会の物品の状況を逐一確認し、不足品などをまとめる役回りである。
諸々の情報は自動魔道具で共有されており、それを基に数字を打ち込めばいいのでそう、難しい仕事ではない。
だが体調の悪い現況では、それすら難しくさせるらしく、彼女の頭の中は、その動きの過半数以上を、止めてしまっていた。
指を動かしても手元が狂い、思うように動かす事が出来ない。
それでもなお、自分に『気合』が足りないのだと、彼女は自分に言い聞かせた。
「フェッックシ!!! ズビ・・・・」
「エティシアさん、顔赤いけど、本当に大丈夫? ヤバかったら言ってよ??」
「ああ。」
一過性の魔力切れで、目まいなどの症状が出る事は、間々あること。
しかし数日間に渡って、こうも体調が優れないのは、前代未聞のことだった。
体が力を欲しているのに、ちっとも食欲が湧かないというのも、おかしな話である。
私という存在が、この世界に生まれ出でて、既に数百年の年月を経ている。
とうとう老いてきたのだろうか?
疑問符を頭上に浮かべる彼女。
しかもデスクワークは、ただでさえ眠くなりそうな単純作業の繰り返しだ。
体調を崩したことで、それが爆増しする。
これはマズい。
今の仕事は一旦とめて、各課を回る方から片付けよう。
体を動かせば、あるいは体調も戻るかもしれない。
その考え方は的を得ているようで、大いに間違っていた。
「在庫状況の確認に行ってきます。」
「「はーい。」」
各課の在庫状況の確認というモノは、全くと言っていいほど頭を使わなくて良い業務だ。
最初の頃は態度が気に食わなかったのか、どこか接し方が冷淡だったように感じたが、最近はソレも無い。
体調の悪い今こそ、的確な仕事内容に思えたのだが・・・・
「~~~~~っ!」
二件目を回り終えた辺りから、意識まで朦朧としてきた為、立ったままで、しばしの休憩をとる魔王様。
不思議かな。
壁にこうして体を預けていると、この上なく心地よい。
今ならば、いつも壁に張り付いている石トカゲの気持ちが、少しは分かる気がした。
「あの・・・シアさん、ですよね? ここで何をしているのですか??」
「んん~?」
トカゲ気分に浸っているところ、声を掛けてきたのはセリアだった。
どうやら彼女も、何かしらの外回り的な業務を任されたらしい。
何より元気そうなのが、今は実に羨ましい。
「どうしたんですかシアさん、元気がなさそうですね。」
「ああ・・・ちょっと体がだるくて、くしゃみと咳が出て、体が火竜のように熱くてな・・・。」
「え゛!?」
魔王様の言っていることに、疑念のようなものを抱くセリア。
『ちょっと』ではない、それは多分、アカンやつだと思った。
しかも当の彼女は、それに気付いた様子が無い。
一応の確認のため、失礼しますと、恐る恐るシアの額に手を当ててみるセリア。
すると・・・
「あっつ!?? シアさん、熱があるじゃないですか!!」
「・・・・はぇ?」
慌てふためくセリアに対し、気の抜けたような返事を返す魔王様。
まったく危機感の無い彼女に対し、セリアは鬼気迫る勢いで顔を寄せる。
事態の重要さに気付いていないなら、分からせなければならない。
「カゼ、風邪をひいているんですよ!! どうして出社したんですか!??」
「か、かぜ? この私がカゼ!??」
口を金魚のようにパクパクさせ、呆気にとられる魔王様。
驚愕する魔王様に対し、逆にセリアが呆気に取られてしまう。
何度もいうが、魔王様は『魔族』という、人間とは別種の生き物である。
魔王城においても、度重なる魔力消費や劣悪な環境で、体調を崩すものは多く見受けられはした。
これまで何度も、魔王様はそれを、直接見てきたのだ。
しかし数回の転移ごときで病気を患うなど・・軟弱!
なんと軟弱になってしまったのだ、私の体は!!
「・・・この位は大丈夫だ、大事無い。」
「何を言っているんですか、こんなに熱があるのに、仕事を続けていいわけ無いでしょう!!」
カゼというものにかかった事の無かった魔王様は、『心配ない』となおも仕事を続けようとする。
しかし騒ぎを聞きつけた取り巻きの一人が、その愚行を止めにかかった。
「ダメだよ、彼女の言うとおり! 体調が悪いなら、無理はしないほうがいい。 カゼは万病の元とも言うだろう?」
掛けられた言葉に対して、わずかな理性で首をかしげる魔王。
何せ魔族は、体だけは丈夫だったので、体調を崩しても病気を患うなどということは、ほとんど皆無に等しかった。
端的に言うと、彼女にとって魔生初の病気だったのである。
しかも弱っているせいで回復魔法は使えないので、文字通りの大ピンチ!
・・・少なくとも、本人的には。
この騒ぎを聞きつけてきた上司が、取り巻きの中から姿を現した。
いつもの鋭い眼光を、更に鋭くさせて、魔王を見下ろす彼女。
そして彼女は、(魔王様基準で)信じられない言葉を掛けてきた。
「ライザックさん、上には私から話を通しておきます。 あなたは早く家に帰って、病院へ行ってください。」
「え、えぇ!??」
たかが病気ごときで何を大げさな!
頭がクラクラしはするが、私はまだ十分に戦える。
今はただ、魔力を消費しすぎて体調が優れないだけだ。
「体調が優れないだけです、私はまだ、戦う力は残っています!」
命がけだった。
仕事をしなければ、給料はなくなる。
自分には救わねばならない、多くの魔族たちがいるのだ!!
しかし社員の取り巻きたちは、そんな魔王様のそんな考えを是としなかった。
理由どうあれ病人は、寝床に行くほかないのである。
今回ばかりは、折れるのは魔王様の方であった。
「家に帰ったら、ゆっくり静養するのですよ?」
「はい・・・。」
結局は魔王様が折れ、今日は仕事を中退することになった。
帰り支度というほどの事は無いので、そのまま商会の出口の方へと向かう魔王様。
しかし、そこで意識が朦朧としたのか、それとも力尽きたのか。
出口の寸分前で、魔王様は手放された操り人形のように、床へ崩れ落ちた。
どよめきと共に、悲鳴のような声が、辺りにこだまする。
しかしそれらの声は、彼女の耳には届いていなかった・・・・
『あこがれ』という帆船のペーパークラフトを作っていたら、かなり時間が過ぎていました。
時間が経つのは、あっという間ですね。




