第37話・魔王様、物見遊山する
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
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金は無い。
食料もない。
時には弱った同胞に供する、一杯の粥すら無い事もあった。
だが我々には、人間達と同じ心がある。
過去に起きたことは、覆すことは出来まい。
しかし私たちはただ、平穏に暮らしたいだけなのだ。
それは、見果てぬ夢なのだろうか・・・?
魔王城から帰った翌日。
ブライトの道なりには、諸国からやって来た商隊の市が立ち、さながらお祭りのような様相を醸し出していた。
今がかき入れ時という事もあって、それぞれの店は必死で、客の呼び込みを行う。
「連邦は特産の香辛料。 直輸入の珍品だよ、今並んでいる分で最後だよ!」
「王国の北側で採れた、ドクダムから調合した万能薬。 お安くしておきますよ!!」
「そこのお嬢さん、お一ついかがですか!??」
そこかしこから聞こえてくる、客引きの声。
値引き交渉などに沸く、人々の喧騒。
休日ということもあり、市を訪れる者は特に多く見られる。
そして我らが魔王様は、稼いだ金を片手に、その市を見て回っていた。
「魔力回復系の薬草はあるか?」
「魔力回復? ウチには置いてないなー、誰か弱っている人が身内に居るのかね??」
「いや、無いなら良い。 忘れてくれ。」
諸国から多くの品々が集まるとの事で、足を運んでみたまでは良かった。
彼女が探しているものは、食品を始めとして城で弱っている魔族たちのための薬など。
しかし、魔王様の御めがねにかなう代物は、そうそう見つかりはしなかった。
それに、おサイフにも痛い。
「もう少し見て回ってみるか。 ヒトと店が多すぎる。」
ここへ来て、小一時間が経過した。
開かれている市は、街の繁華街を中心に広く展開しており、とても一日では見て回れないほどに広い。
おおまかにブロック分けはされており、魔王様は当然のごとく、食品などを取り揃えた市を見て回っていた。
・・・が、如何せん全体領域が広すぎる。
あまりの人の多さで、酔ってしまいそうだ。
「試食は如何ですかー? 東亜国より美味しい『にぎり飯』、ほっぺたが落ちそうですよ!」
耳に入ってくる、何やら気になるワード。
『にぎり飯』?
魔法の解析をしてみると、どうやらコレは炭水化物の塊のよう。
しかもパンと違ってモチモチした食感で、実に美味だ!
店の人間によると、『コメ』とやらならば日持ちもするらしく、調理法も手軽。
よし、これを魔王城へ持って帰ろう!!
「それをありったけ頼む。 銀貨12枚で足りるか?」
「ぎ、銀貨12枚ですか!? そんな多量に!??」
魔王様の発した言葉に、度肝を抜かれたように驚く行商の女性。
彼らは、あくまで旅の行商である。
そのため、あまり多くの荷を持っての移動は出来ないのが定例。
今回もその例に漏れず、持ってきている『にぎり飯』の材料は少ない。
彼女らの行商が、銀貨12枚分などという大それた量を、持ち合わせていようはずも無く、ただ謝罪するだけだった。
魔王様は肩を落とし、後ろ髪をひかれる思いで、この場を離れる。
「行商はあまり多くを持ち合わせていないのか・・。 それならば市ではなく、街の商店で買ったほうが良いだろうか?」
「あれ、シアさんじゃないですか!」
「!??」
喧騒の中で、はっきりと聞こえてきた聞き覚えのある声。
視線を横へ向けると、そこにはセリアが居た。
彼女と魔王様は、職場の同期であり、仲の良い友人みたいなものである。
最近は仕事の関係で会う機会も少なく、こうして顔を合わせるのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。
「元気だったか、セリアよ。」
「それはこちらのセリフです。 シアさんがお元気そうで、何よりでした。」
屈託の無い笑顔を、こちらへ向けてくる彼女。
どうやら彼女は、諸国の珍しいものが集まるこの市を、物色に来たらしい。
今まで見て北も野を考えると、確かに物見遊山の価値は、十分にあるのだろうと考えられる。
「シアさんも、休日を楽しみに来たんですか?」
「まあ、そんなところだ。」
魔王城の方々のため、給料を全部使って食料を買い込みに来たなどとは、言えない。
彼女と談笑しつつ、引き続き市の物色を行う魔王様。
しかし絶対的な量が少なく、魔王城の窮状を考えると、とても足りそうには無かった。
結局ここより商業区に行った方が、良いらしい。
「わっコレ、とっても美味しいです! シアさんもこっちに来てくださいよ!!」
「うむ・・・・、確かに甘くて美味いな。」
軒先で試食を繰り返しながら、魔王たちは次のブロックへと向かう。
こういった場合は一人より、複数の方が楽しい。
セリアはまるで、子供のように市を見て回る。
「見てくださいシアさん! これなんか似合うんじゃないですか!?」
「ああ・・それを付ければ良いのか?」
服飾のエリアに着くと同時に、セリアの着せ替え人形と化してしまう魔王様。
この私が、この齢になって『おしゃれ』をすることになろうとは・・。
主旨は異なってしまったが、しかしこれはこれで良いものだ。
でも買うわけではないので、店の者には申し訳ない。
一通り市を見回り終えると、既に陽は西の方角へと傾き始めていた。
時間というものは、こういうときは特に早く過ぎてしまう。
「ここまで付きあわせて悪かったな。 今日は一日、楽しかった。 礼を言う。」
「いいえ、付き合っていただいたのは私の方です! 今日は一日、ありがとうございました。」
彼女は市を、思う存分に楽しむことが出来たようだ。
会ったときには無かった、大きな手提げ袋が彼女の手に収まっているのが、その証拠といえる。
中の詮索は、してはイケない。
女には、イロイロ買うモノがあるのだ。
すっかりお別れムードだが、最後に聞きたいことがあると、セリアを引き止める魔王様。
「なァセリア。 パンを500個、即日で売ってくれるパン店は近くに無いか?」
「え。500個ですか!? え、今日!??」
真剣な目つきで、トンでもない事を相談された彼女は、目を丸くして驚いた。
パン500個。
どう考えても、1人で食う量ではない。
魔王様の迷走は、もうしばらく続く・・・。
銀貨12枚=米200キロ相当と考えてください。 大体ですが。




