第39話・魔王様、病を治す
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくおよせください!
知らない天井・・・
窓から差し込む、心地よい陽の光。
やわらかく体を包み込む、真っ白で柔らかな毛布。
そして、火照った体温を冷ましてくれる、冷たくて気持ち良い濡れタオル・・。
あれから、私は、どうしたのだったろうか?
確か出社した後、カゼで帰るように言われて、それで・・・
「いかん! 仕事!!」
はねるように、ベッドから飛び起きる魔王様。
え、ベッド・・!??
「気が付いた?」
「え・・・・?」
隣のベッドで、窓から外を仰ぎ見る、頬がこけた女性。
この女性に、見覚えは無い。
重い体をゆっくりとベッドから起こして、女性へと疑問のまなざしを向ける魔王様。
「あなたは一体・・・?」
「・・・・ねぇあなた、外の世界はどう? 楽しい??」
天使のように柔らかい笑みを、こちらへ向けてくる彼女。
どうにも誰か、知人に似ている気がするのだが・・・・
この女性の正体は一体?
「外の世界は、キラキラ光り輝いている。 私には眩しすぎるわぁ・・・。」
「?」
頭上に疑問符を浮かべる魔王を傍目に、再び窓から外を仰ぎ見る女性。
その言葉の端々に疑問を抱いていると、この部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「お母さん、今日は元気そうだけど何が・・・あ!?」
「セリア!」
ドアの向こうから姿を現したのは、同僚のセリアだった。
私服姿の彼女の手には、お盆に載る料理が3人分、持たれていた。
「シアさん!! 気が付いたんですね、良かった。」
パッと花開くように、笑みを浮かべるセリア。
見たところ、ここは一般住宅のようだ。
という事は、つまり・・・?
セリアから、視線をベッドに横たわる女性へと移す。
その視線に気付いたようで、セリアが口を開く。
「すみません、この人は私のお母さんなんです。 お母さん、この方はいつも話している、私の職場の友達です。」
「まあ、あなたが。 いつも娘がお世話になっています。」
「セリアの、母君か・・!?」
驚愕の表情を浮かべながら、お互いを見合う2人。
セリアの話によると、どうやら私が商会で倒れた後、家が分からかったので、自宅へと運んでくれたとの事。
この部屋は、セリアの母親の部屋らしい。
なんという体たらくを私は・・・・・
我ながら、自分を恥ずかしく感じてしまう。
「セリアには、いつも迷惑ばかりを掛けてしまうな。 すまなかった、私はもう大丈夫だ。」
いつまでも、好意に甘んじているわけには行かない。
少ない力を振り絞ってベッドから起き上がる魔王様。
しかしその行く手を、セリアが阻んだ。
「ダメですよ、シアさん! ちゃんと寝てなきゃ。」
半ば強制的に、再度ベッドへ戻される魔王様。
抗おうにも、なぜか思うように体に力が入らなかった。
「今日はウチに泊まっていってください。 病気のときに無茶は禁物です!」
「シアさんといいましたか? 押し付けがましいかもしれませんが、カゼは万病の元といいますか・・・何も出来ませんが、今日ぐらいはウチでゆっくりしていってください。」
「・・・すまない、いや・・、すみません、ありがとうございます。」
こうして一晩だけ、セリアの家に世話になることが決定した。
明日の朝までに、病気を気合いで治すことにしよう。
「うぅ・・・頭が霞のようにボーッとする。」
気を抜いたとたん、何とも形容しがたい倦怠感に苛まれる魔王様。
体の節々が痛いし、ノドも痛い。
体もだるいし、意識も朦朧とする。
体調は、先ほどのソレより、ずっと悪くなっているようだ。
これが『カゼ』というものなのか?
情けないしツラい。
400年前の魔王軍退却時に深手を負った時より、ある意味でツラいかもしれない。
「シアさん大丈夫ですか、食欲はありますか??」
「大丈夫だ、気にするな。」
何百年も前の過去を、今さら嘆いていたとは言えない。
お、このおかゆ、とっても美味い!
というか、この一ヶ月でマトモな食べ物を口にしたのは、今日が初かもしれない。
これなら一気に、回復しそうだ!!
この礼はいつか、必ずしなければならない。
「すいません料理には自信が無くて・・・お口に合いますか?」
「あぁ、とても美味しい。」
『良かった』と嬉しそうにはにかむセリアと、遠目に優しげな視線をこちらへ向けてくるお母さん。
温かい家庭だ。
セリアはこんなに、幸せな生活を送っているのだなと、羨ましく感じてしまう。
そんな感じで、彼女らと談笑しているうちに、いつの間にか私は、寝てしまっていた・・・
◇◇◇
あくる朝。
栄養補給(おかゆ二杯)の賜物か、ゾンビのように復活を果たした魔王様。
彼女の体調不良がカゼだったのか、あるいは魔力枯渇から来る一時的な発作だったのか、知るすべは無い。
朝食が済んだ彼女らは、出勤のために玄関へと向かった。
「行ってきます。」
「気をつけて行くのよ、セリア。」
「・・・・。」
柔らかい笑顔で娘を送り出す母親と、どう見てもお邪魔虫の魔王様。
昨日、商会であんな事をしてしまったので、彼女は休み(強制)なのです。
あの時に無理をした自分を、呪うほか無い。
友であるセリアの出迎えも済み、魔王は横に居るセリアの母親へと、視線を向ける。
私は治ったが、未だに彼女は、体調が悪そうに見える。
どうにも顔に、生気が無いのだ。
「母君も、カゼなのか?」
「私ですか? まあ、そのようなモノになるんですかねぇ・・・娘たちにも心配ばかり掛けてしまっていて。 母親失格ですよね。」
語る口にも、力がまったく入っていない。
どうやらかなり、衰弱しているようだ。
魔法はイメージが大切なので、病気の概要などが分からなければ、発動しても意味が無い。
残念ながら、この女性が何の病に蝕まれているのかは、分からなかった。
せめて一飯の恩代わりにと、魔王は彼女へ、魔法を掛ける。
「あ、あの・・何か・・・? あれ、体が軽くなっていくような・・・??」
魔法効果で、ぼんやりと淡い光を放つ彼女の体。
どうやら成功したらしい。
魔法属性によっては、弾き返されてしまう事も間々あるので、今回は運が良かった。
「回復魔法を掛けておいた。 気休めでしか無いが、病気の進行を抑えられる。」
一食一飯の恩義とは到底言えないが、今は何も持っていないので、これでご容赦願いたい。
治癒はできなくとも、体力回復くらいならば、この魔法の効果は覿面だ。
「ありがとうございます、ここ10年で一番、体調が良くなりました!」
「そうか、それは良かった・・・です。」
深々と礼をする彼女。
よく見ると、瞳には涙が浮かんでいるようにも見える。
こちらとしても頑張ったので、喜んでもらえて嬉しい。
不穏なワードが耳元を掠めたような気がするが・・・、それは横に置いておく。
セリアのためにも、母君には、どうか永く居てもらいたい。
「昨日は、大変お世話になりました。 ご迷惑をおかけしました。」
「いいえ、とんでもない! こちらこそお世話になりっぱなしで・・・!」
いつまでも居座っているわけにも行かないので、ここでお暇する魔王。
名残惜しそうに出迎えられつつ、家の外へ出ると、そこは閑静な住宅密集地だった。
いつも働いている商業区とはエラい違いではあるが、ここも間違いなく、ブライトだ。
『シアさん、心配したんですからね!!』
『ここを本当の家だと思って、今日はゆっくりしていって下さいな。』
「・・・。」
頭の中で反芻される、セリアたちの温かい言葉の数々。
少し前まで『人間は怖いもの』と恐れていた自分が、なんと浅はかだった事か。
考えさえ改められれば、もしかしたら魔族たちを人間の世界に来させる事だって・・・
それには、やはり長期スパンの大計画が必要そうだろう。
とりあえず、今回の教訓。
『病は気から』
これからは、転移などで無茶はしないと、固く決意する魔王様であった・・・
ここ数日、急に暑くなってきましたね。
皆さんも、体調管理には十分にご注意を。(戯言終わり)




