第20話・魔王様、雇用される
これからも、頑張っていきます。
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今日、ブレアンド商会には新入社員がやって来る。
今回するのは、制服の採寸と雇用契約書を交わす事。
概ね、この日にやる事は以上になる。
「小難しい事はよく分からぬのだが・・つまりこの紙に名前を書けばよいのじゃな?」
「・・いえ、一応雇用要項を読んで頂けないでしょうか? 同意をした上で、サインをお願いします。」
「う~~む・・・・」
目の前に置かれた、3枚の書類。
うち一番下にある3枚目に『サイン欄』があり、残り2枚には雇用要項・・
つまりブレアンド商会で働くにあたり、交わされる契約の内容が書かれている。
・ブレアンド商会の業務機密を、勝手に漏らさない
当商会の内部資料などを、第3者(親兄弟含む)に漏らさないこと。
顧客情報の漏洩も、厳禁とする。
取引上、第3者が有利となるような情報を、漏らさないこと。
当商会において・・・・
・従業員に払われる報酬は、時間月給制とする
従業員各位における給料の支払いは、定められた期間内において、何時間働いたかによって変動する。
出勤時には、必ずタイムレコードを押すこと。
残業時はあらかじめ、上司に必ず・・・・
・従業員の労働環境に・・・・・
「う・・・・」
ここまで読んだところで、頭が痛くなってきた。
もはや紙キレの内容は、頭に入ってこなくなる。
なんぞつらつらと、似たような文句が書いてあるのだけ、よく分かった。
・・・理解できたのは、それだけだ。
横に目を向ければ、先ほどの女性が、真剣な眼差しで書類に目を通していた。
そんな彼女に、魔王様は尊敬の眼差しを送る。
魔族の代表として、人間一人に負けてはおれぬな!!
戦意(?)を新たにして、目の前の書類に視線を落としてみる。
ペラペラペラ・・・
・・・・。
やはりダメだ!
我にはこれを解読する術はない!!
とうとうさじを投げた魔王様は、3枚目の紙をめくり、ペンを走らせた。
『エティシア=ライザック』と。
これにて彼女の、雇用契約は完了である。
大変キケンな行為なので、本当に働く際は面倒でも、このような事をしてはいけない。
絶対に。
「はい、エティシア様はこれにて雇用契約、完了となります。 後ほど業者の方が来て、商会の制服の採寸を行いますので、そのままお待ち下さい。」
「うむ、分かった。」
快速契約で一時的にヒマとなった魔王様は、欠伸をかみ殺しながら周囲を見渡してみる。
基本的に彼女は、『もったいない』は好まない。
たとえそれが、『時間』という形が無いものであったとしても。
こうしている間にも、何か出来る事はこなしたいのだ。
だが、ここは商会の応接室。
特に大したものは・・・
・・・・・ん?
アレは。
「のう、アレが気になるのじゃが、読んでもよいかの?」
「え? あれですか?? それは一向に構いませんが・・・。」
男の許可を取り付けた彼女は、意気揚々とガラスケースの中に収められた分厚い書物を、引っ張り出した。
その本のタイトルには、こうある。
『ブライトの成り立ち』
タイトルから考えて多分だが、この街の歴史が纏められているのだろう。
熱心に雇用契約書に目を通していたセリアさんは、シアの行動に、目を丸くさせる。
そんな分厚い書物、きっと自分は手に取ろうとはしないだろう。
彼女もまた、彼女に尊敬に似た感情を抱く。
たった3枚の雇用契約書にさじを投げた魔王様だったが、この歴史書に関しては意外なほどに、熱中して先を読みすすめた。
魔族の未来のため、魔王様は『人間』を知るため、必死だった。
・・と同時に、湧き上がる好奇心から見ていた。
人間、自分の興味のある分野に関しては、得てして熱中するモノ。
人間と同じメンタリティーを持つ亜人や魔族でも、それは同じ事だ。
「うむ? ほうほう、なるほどのぅ・・・・・」
先を読み進めながら、歴史書のページをめくっていく。
それによると、この街は知っての通り、魔族の暮らす土地と近接している事もあり、大戦時は人間の連合軍の駐屯地として、機能していたらしい。
その兵士達のために、多くの商店や宿などが出店した。
それが、この辺境の街が栄えた発端なのだと言う。
大戦後も、栄えた街は衰退することなく繁栄を続け、現在に至るのだとか。
あと、衝撃事実がもう一つ。
「この街は・・『ボルト王国』に属しておるのか??」
「え? えぇ、ここにある通り、この街は魔族たちとの大戦以前から、王国の一都市です。」
独立したわけではなかったのか・・・・・
だとすると、この街の大きさは尋常ではない。
まったく、分からないことだらけだ。
だが今は、関係ない。
「もしやエティシアさんは、他の国からいらしたのですか?」
「・・・・まあ、そのようなモノじゃ。」
言い回しなどから、自分がこの国の者ではないとバレたようだ。
まあそれがバレたところで、自分が魔族だと推測される恐れは無いから良い。
男性も、『なにか事情があって、この国を訪れたのだろう』と推測し、彼女にこれを聞くような事はしなかった。
必要以上に他人の過去を詮索するのは、好ましい事ではない。
「あの・・こちらでよろしかったでしょうか?」
「はい! 少々お待ち下さい!!」
魔王様が歴史書に目を通している間に、セリアさんも雇用契約書に目を通し終えたようだ。
おずおずと雇用契約書一式を、男性へと差し出す。
渡された書類へと、目を通していく彼。
「はい、セリア様もこれにて雇用契約は完了となります。 まもなく当商会の制服の仕立て屋が参ります、それまでしばらくの間、お待ち下さい。」
「はい。」
「♪」
仕立て屋が来ると言うまでの間、暇を持て余した魔王様は、なおも歴史書に目を通し続けた。
制服の採寸が終れば、今日の全ての予定は、終了となる。
その後も続々と『合格者』がこの部屋を訪れた。
彼女らの『雇用契約』はこうして、幕を下ろすハコビとなる・・・・・
このまま、順調に行けば良いのですが。
未来のことは、まだ分かりません。




